出航したアギーレジャパンは、メンバーも若返った。
チーム最年長となったのが31歳のゴールキーパー、川島永嗣(スタンダール・リエージュ)である。最年長者として、チームを引っ張っていく役割を担うことになる。

 グループリーグ敗退に終わったブラジルW杯後、彼は自身のブログ「Life is beautiful」でこうつづっていた。

「最後まで攻める姿勢を貫いたチームを、ゴールキーパーとして後ろから支えることができませんでした。年齢も上になった分、もっといろんな意味でチームを引っ張っていけなかったのも自分の力不足です」――。

 ベスト16に進んだ南アフリカW杯以降、ずっと正GKの座を守ってきた。ザックジャパンの中心メンバーの一人として、チーム本来の力を出し切れなかったことに己を責めた。川島は気持ちを新たにして、新生ジャパンに臨んでいる。

 W杯後にわずかなオフを経てベルギーに出発する前、彼に話を聞く機会があった。まだショックから抜け出せないでいた。

「(ザックジャパンで)4年間やっていくなかで自分が年齢的にも上になってきて、自分の役割というのは、チームにとっていい環境をつくるだけじゃなくて、厳しく言わなきゃいけないところはそうしなきゃいけないし、そういう自覚を持ってやってきたつもりです。でも(終わってみて)引っ張っていかなければならない存在としては、まだまだ物足りなかったんじゃないかって感じた」

 大きな体を小さくして、守護神はつぶやくようにして言った。

 もちろん、彼は連係面で呼吸が合っていなかった場合など、チームメイトと意見をぶつけ合って確認してきた。チームのミスを“なあなあ”にはしない。それが生真面目な川島らしく、何か問題点が出てくればすぐに周囲とコミュニケーションを取って解決しようとしてきた。やるべきことはやってきたという自負があった。客観的に見ても、チームはいい流れのまま本大会に入っていった実感が彼にはあった。

「このチームは何か苦しいときがあったときに、それを乗り越えてきた集団。自分たちなら何があっても乗り越えられるという自信がありました。厳しいトレーニングのなかでも、本当に一人ひとりが120%でやっていて、意識もすごく高かった。(W杯の前に)こういうところが良くなかったとか、雰囲気が良くなかったとかもまったくなかったんで……。

 でも結局、何も手にすることはできなかった。4年間の成長だけで結果を勝ち取れるわけではない、と痛感させられました。世界との差がどうこうというよりは、自分たちの持っているものをどう発揮できるか。そのことについて言えば、(世界に)近づいているようで、まだまだ遠い大会なんだなって感じましたね」

 成熟。
 これが己を含め、チームに足りないものだと川島は捉えたようだ。グループリーグ3試合で6失点。彼自身、納得できるパフォーマンスでなかったのも確かである。
S・リエージュでは一昨年に移籍した当初、点を奪われるたびにスタンドからブーイングを浴びる屈辱を味わった。しかし彼は屈しなかった。粘り強い守りを続けていくことで、サポーターからも信頼を勝ち取った。試練に立たされたときこそ、力を発揮するタイプである。

 今季、ユベントスからの移籍話も出ていたようだが、チーム残留を決断している。ジャンルイジ・ブッフォンの控えからチャレンジしていくことも大事だが、筆者が思うに、川島は試合を通じて「成熟」していくほうを選択したのではあるまいか。

 欧州CL本戦には進めなかったものの、EL(ヨーロッパリーグ)という舞台もある。いかなる状況でも勝利に貢献できるよう、高いモチベーションを持ってベルギーでの5シーズン目に挑んでいる。

 アギーレジャパン最年長者が求める「成熟」の道。
 リーダーとしての自覚と覚悟が、川島を突き動かしている。

(このコーナーは第1木曜日に更新します)
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