ブルームフォンティーン(BF)生活2日目。ブルームフォンティーンという町は、南アフリカのほぼ中央に位置していて、国に3つある首都の一つ。最高裁判所のある司法の首都である。静かな田舎町という風情で、どこかのどかな感じがする。バラの町としても知られている。
(写真:日本−カメルーン戦が行なわれたフローステートスタジアムの外観。岡田ジャパンの勝ち点3はここで生まれた)

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◇6月12日 これまでの大会と変わらないこと

 朝起きて身支度を済ませて、タクシーで日本−カメルーン戦の会場となるフリーステートスタジアムへ。フリーステートとは自由州。その自由州の州都としての顔も持つ。
 私とライターのS君はひとまずADをピックアップするためにスタジアムに入って手続きのカウンターへ行くと、ここも人で溢れていた。メディアのADだけでなく、ボランティア用ADも同じ場所で受け付けているために大混雑なのである。
 パスポートでチェックして、写真をとって、ADを受け取るというのが流れ。手続きしてくれるのもボランティアさんなのだが、とてもフレンドリーなのである。
「日本語でありがとうは何て言うの?」「さようならは?」などと聞いては、スペルを書いてくれとせがまれる。理由を聞くと「これからたくさんの日本人が来るので、あいさつしたい」と白い歯をのぞかせていた。なんかこう、胸がジーンとした。

 手続きのあとでメディアセンターに入ってみると、かなり広いスペースだった。有線LAN完備で、いたるところにテレビがあり、いたるところに警備員が立っている。メディアセンターを一歩でると警察官もたくさん配備されており、国を挙げてW杯を成功させてみせるという意気込みが伝わってくる。もっとルーズな大会になるのではと勝手に想像していたが、フリーステートスタジアムの雰囲気を見る限り、これまでのW杯と何ら変わらない。
 午後4時から日本代表が練習するスタジアム近くのグラウンドに移動。600mほどの距離を歩いて移動してみた。なるべく外は歩かないほうがいいとは言われていたが、タクシーを呼ぶのもひと苦労なのでいたしかたない。まあ、スタジアム近くは警察の車が多く走っていたので、まったく問題はなかった。
 日本代表は非公開練習。警備員が2mぐらいの間隔で立っていて、厳重体制のなかで練習が行なわれた。メディアは別室に移動して、アルゼンチン−ナイジェリアの試合をテレビで観ていた。練習後、取材してから私とS君は2人で歩いてスタジアムに移動した。

 ちょっと暗くなっていたので「大丈夫かな?」という思いはあった。だが、2人でW杯の話で盛り上がっていたのであっという間に着いた印象だ。
 問題はここからである。
 ホテルにどうやって帰るか、だ。タクシーを呼んでも来ない可能性はあるし、メディア送迎用のメディアバスを我々は探した。しかし、ボランティアの人たちに聞いてもはっきりとした答えが返ってこない。場所は特定できたのだが、メディアバスは見当たらなかった。
 周りを見渡すと、すっかり暗闇に。困った、困った。
 近くにあるホテルに徒歩でむかうと20分以上はかかりそうだ。と思って、大会関係者に「我々はホテルに戻りたいのだが、手段がない」と相談してみると、何と、車を用意してくれたのだ。
 運転手もこれまた気のいいおじさんで「俺の名前はチッパーっていうんだ。おまえたちの名前は?」としきりに話しかけてきた。楽しい時間をすごしながら、スタジアム近くのホテルまで送ってもらうことができた。
 車から降りると、S君は絶叫していた。
「サンキュー! チッパー!」

◇6月13日 気持ち高ぶる決戦前日

 きょうのブルームフォンティーンは快晴。朝は仕事や日本との打ち合わせ、メールのやりとりを済ませてからフリーステートスタジアムへ。日本代表、カメルーン代表の公式練習があるため、きょうも一日中ここにいることになる。
 日本、カメルーンともに非公開練習。注目される本田圭佑選手はこの日が誕生日だった。取材には言葉少なかったが、表情はリラックスしているようだった。どの選手もあまり口数は多くなかったが、本番に向けて気分も高ぶっているようだった。
 カメルーンのポール・ルグエン監督の記者会見は興味深かった。何を聞かれても具体的には触れず、のらりくらりとかわすのみ。リヨンで揉まれてきた監督だけに、初めてのW杯とは思えないほど落ち着き払っていた。
「日本はタフでてごわい相手だ」
 格下の日本相手にも、警戒を強めていることは伝わってきた。アフリカ特有の集中力の欠如が出てくれば日本にもチャンスが出てくると思うのだが、いやはや、このカメルーンがやっかいな相手であることをあらためて思い知らされた。

 メディアセンターの話題で、もうひとつ。ここで簡単な食事もできるのだが、ペットボトルのドリンクを買うと必ずフタをとられてしまう。これもテロ対策の一環とかで、密閉したままで液体を持ち運びできないようにしているのだ。つまり持ち運びができないために、すぐに飲みきらないといけないあたりがちょっとつらい。特にコーラは酷だ。時間が経つと気が抜けてしまい、S君は「コーラの味がしない」と怒っていた。僕も高校3年生以来となるコーラ一気飲みにチャレンジした。やはり鈴木Q太郎(ハイキングウォーキング)の速さには勝てない……。
 ここのチキンバーガーはうまい。ジューシーで肉厚で、早くも2日連続でこれを食べている。
 さあ、明日は運命の初戦。日本代表の勝利を願いつつ、この日は早く寝るとしよう。

(このレポートは不定期で更新します)

二宮寿朗(にのみや・としお)
 1972年愛媛県生まれ。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。格闘技、ボクシング、ラグビー、サッカーなどを担当し、サッカーでは日本代表の試合を数多く取材。06年に退社し「スポーツグラフィック・ナンバー」編集部を経て独立。携帯サイト『二宮清純.com』にて「日本代表特捜レポート」を好評連載中。