やってくれました、日本代表。
 フリーステートスタジアムの記者席の一番うしろで試合を見ていた私は、勝利の瞬間に思わず立ち上がってしまった。横にいたカメルーン人の記者に「おめでとう。日本に負けるとは思わなかった」と手を差し出され、握手した。
(写真:フリーステートスタジアムの入場ゲート。どこのスタジアムも厳重な警備体制が敷かれている)

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◇6月14日 日本の勝利と恐れていた事件

 4月のセルビア戦以降ずっと負けてきただけに、ミックスゾーンは久しぶりに明るい雰囲気に包まれていた。カメルーンのサミュエル・エトーを封じ込めた左サイドバックの長友佑都選手も「やられる気は全然しませんでした」と興奮気味に話した。
 取材を終えてまずは原稿に集中。仕事が終わると午後10時を回っていて、気がつくとたくさんいたメディアの数も少なくなっていた。
 そんなときに1本の電話が。
 先にホテルに戻っていたフリーライターのM君からだった。
「試合を観に来ていた日本人のかたが帰り際に強盗被害にあったみたいなんです。帰るときは気をつけてくださいね!」
 えっ! と驚いたが情報を集めると事実だった。どうも一人になったところを狙われて、荷物を奪われたそうだ。ただ、無事だと聞いて、メディアセンターで心配していたメディアのみんなも安堵していた。
 仕事を終えるとこの日は余計に緊張してホテルに戻った。勝利の余韻が冷めてしまったのでビールでも飲もうと思ったが、冷蔵庫は空っぽ。ビールを買うために外に行くこともできず、この日はミネラルウォーターで日本の勝利に乾杯!!

◇6月15日 ジョージへの帰還

 朝早く起床して、まずは仕事。朝食をホテルで食べてから、ゲストハウスのフロントのみんなにお別れのあいさつ。家族で経営している小さなゲストハウスなのだが、最後の朝食は手作りのケーキもついて豪華だった。
「またブルームフォンティーンにおいでよ」
 ここの人たちも親切にしてくれたので、カギを返すときはちょっぴり寂しかった。
 空港まで送ってもらい、再びジョージへ。
 ライターのS君とはここで一端、お別れ。彼はヨハネスブルクへと向かった。
 そしてジョージのゲストハウスにはライター仲間が集まった。食事は中華レストランへ。
 おいしい卵スープを飲み、さすがに疲れたのか一気に眠くなった。
 しかし徹夜で原稿を書かねばならず、レッドブルをがぶ飲みした。
 なんだか頑張れそうだ。

◇6月16日 上げ潮ムードの岡田ジャパン

 2日ぶりに日本代表の練習を取材。びっくりしたのは、グラウンドでの選手の声が大きくなっていたこと。1勝したことで雰囲気がよくなっていた。岡田武史監督も冗談を言うなど、いいムードになってきたと思う。
 テレビ解説の元日本代表OBも「いい感じになってきたんじゃない。やっぱり1勝すると全然、雰囲気が違う」とびっくりしていた。
 練習でコンディションの上昇ぶりを見せたのが中村俊輔選手。切れのある動きが戻り、居残りのシュート練習では強烈かつ正確なシュートを披露した。痛めていた左足首も完治したようで、オランダ戦は楽しみだ。控えスタートになるだろうが、スーパーサブとして出てきそうだ。
 夜は南アフリカ―ウルグアイ戦をテレビ観戦。ゆっくりと試合を観たのは久しぶり。こっちに来て応援してきた南アフリカが負けたのは残念だった。
 
(このレポートは不定期で更新します)

二宮寿朗(にのみや・としお)
 1972年愛媛県生まれ。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。格闘技、ボクシング、ラグビー、サッカーなどを担当し、サッカーでは日本代表の試合を数多く取材。06年に退社し「スポーツグラフィック・ナンバー」編集部を経て独立。携帯サイト『二宮清純.com』にて「日本代表特捜レポート」を好評連載中。