ゲストハウスでの合宿生活も一週間を超えると、洗濯の心配が出てくる。
 大体、一週間分の服を持参してきていないので、もはや着替えがない。部屋で洗濯するか、それともコインランドリーに行くか、という話になる。
 ジョージが比較的、安全な町だということもあり、一緒に宿泊しているみなさんと相談した結果、コインランドリーに行くことになった。
(写真:ダーバンのビーチに集まるオランダサポーター。中にはブブゼラを持っている人もいる)

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◇6月17日 ジョージのコインランドリー

 南アフリカのコインランドリーと聞くと、ちょっと怖い人たちが集まっている物騒なイメージを持っていたのだが、まるっきり違った。
 入り口のドアは二重になっていて、ブザーを押してから中に入らなければならない。コインランドリーの安全を確保するためだ。
 中からおばさんが出てくると、洗濯機の使用法を丁寧に説明してくれた。普通コインランドリーといえば店に人はいないはずだが、ここでは“洗濯屋さん”になっている。つまり、お金を支払って洗濯モノを自分たちで洗濯機にいれて回しておけば、あとは自分たちで乾燥機に入れなくても、おばさんたちが勝手にやってくれるのである。(もちろん洗剤や柔軟剤は自分たちで用意します)
 1時間半後に再び“店”を訪れると、何とシャツや下着を丁寧に一枚一枚丁寧にたたんでくれて、ビニールに入れてくれていた。もう感動ものである。
 おばさんたちに感謝。
 下着の心配もなくなり、気分も一新して明日、第2戦の会場となるダーバンに向かおう!

◇6月18日 忘れちゃいけない防犯意識

 着きました、ダーバンに。
 南アフリカは冬なのに、ここはまだ夏のようである。空港についたらTシャツ姿で歩いている人も多く、気温を見てみたら25度もある。
 インド洋に面したリゾート地ではあるが、周囲からは「ダーバンはいろいろと危険だ」と聞いていたこともあり、気を引き締めてからタクシーに乗り込んだ。
 試合前日の練習を取材するため、練習会場のプリンセスマゴゴスタジアムへと向かった。本来なら試合会場のダーバンスタジアムで練習するはずなのだが、スタジアムのピッチを保護するために練習会場が変わったというわけである。

 タクシーから見る光景は、驚きだった。南アフリカ第3の都市だけあって近代的な建物が並ぶ風景はあったものの、住宅街をすぎると、少し危ないにおいのする町にさしかかった。地面に座ってにらみつけてくる集団もいれば、我々を視界に入れた瞬間に立ち上がる人もいた。
 スタジアムの近くのエリアにちょっと怖いストリートがあると事前に聞いていたが、まさにここだったのだ。
 運転手が、入り口に迷って車の速度を落とすと、同乗したライターの先輩と一緒にここから走っていくしかないな、と思った。
「ここで降りようか」と運転手にいうと、運転手の顔つきが変わった。
「何言ってるんだ! ドアをあけちゃだめだ!」とぴしゃり。
 結局、入り口を見つけてもらって何とか入れたのである。ここに着た取材陣はみんな、タクシーを待たせたうえで取材することになった。

 スタジアムの外ではブブゼラを鳴らす陽気な子供たちがいた。その光景をみたとき、なんだかホッとできた。
 ともかく日本代表は、最後の準備を済ませてムードも悪くない。
 ダーバンで奇跡は起きるだろうか。

◇6月19日 ダーバンのオレンジ軍団

 ダーバンは快晴だった。
 軽く朝食を済ませてからダーバンスタジアムへと向かった。ライターのS君から「昨日、ビーチを歩いて気持ちよかった」と聞いていたので、駅前のホテルから歩いてみた。
 スタジアムはビーチからもアクセスできるので散歩してみると、いろんな発見があった。
 アスファルトのあちこちにサッカーボールのマークが塗ってあるのだ。
 青のマークとオレンジのマークの2種類があって、青のマークをたどっていくとビーチに、オレンジのマークをたどっていくとスタジアムに着く目印だったのだ。

 昼は危険な町というにおいもなく、ビーチはオレンジ色の衣服をまとったオランダサポーターであふれていた。仮装しているサポーターがやたらと多く、陽気にうたう者、雄たけびをあげる者と、まさにカーニバルのような状態だった。海を眺めながら歩いていくと、どでかいスタジアムにぶつかった。
 スタジアムまで歩いた45分は、実に楽しい時間だった。

 スタジアムはほぼオランダカラーのオレンジ色に支配されていた。オランダがなかなかゴールを奪えないため、オランダのチャンスになるとブブゼラが余計に大きくなった。6万人の観衆が集まり、ブブゼラを鳴らすのだからたまったものではない。試合後もしばらく耳鳴りがしていた。
 結果は0−1。ただ、選手たちの表情は一様にサバサバしていて、デンマーク戦に気持ちを向けているようだった。

(このレポートは不定期で更新します)

二宮寿朗(にのみや・としお)
 1972年愛媛県生まれ。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。格闘技、ボクシング、ラグビー、サッカーなどを担当し、サッカーでは日本代表の試合を数多く取材。06年に退社し「スポーツグラフィック・ナンバー」編集部を経て独立。携帯サイト『二宮清純.com』にて「日本代表特捜レポート」を好評連載中。