7月7日の七夕の日、大阪はもりあがったのだろうか。

 この日の広島-阪神戦の先発は、カープが前田健太で、タイガースがルーキー・藤浪晋太郎。話題の対決といっても過言ではない。

 しかし、私は一向にもりあがっていなかった。おそらくマエケンが投げ負けるだろう、あすは「藤浪、マエケンに勝った!」なんて見出しが躍るんだろうな……そう思うと、気も重くなるではないか。

 誤解しないでいただきたいが、マエケンより藤浪のほうが上だ、などと言っているのではない。現時点で、投手としての総合力を見れば、明らかにマエケンのほうが格上である。

 では、なぜ、負けると予想したか。理由は明白である。どうせカープ打線が藤浪を打てるはずがない、からだ。

 むしろ、マエケンは好投した。WBC以来の疲れや故障をなんとかやりくりしながら、この日もエースらしい投球だった。

 唯一の失点となった鳥谷敬のソロホームランはたしかに失投だろう。しかし、今の状態で6回0/3を5安打1失点は、まずまずと評価すべきである。もっとも、案の定、これが致命傷となって、0-1で負けたのだけれども(藤浪は6回3安打無失点)。

 その前日の6日、中日-東京ヤクルト戦では、スワローズの話題のルーキー・小川泰弘が完封で9勝目をあげた。かのノーラン・ライアンのように左足を大きく上げるので、「ライアン小川」と異名をとる、あの投手である。

 小川がなぜ勝てるか、については別でゆっくりと論じたいと思うが、技術以外の大きな要素として、精神的な落ち着きがあげられる。

 落ち着いている、肝がすわっている、というレベルではない。もっと深く静かに内面をコントロールして投球している(もちろん、投球のコントロールもいいのだが)。

 小川とくらべると、マエケンは明らかに精神的な起伏が激しい。というより、追いつめられた状態で投げているように見える。

 これも理由は簡単だ。極端に言えば、完封しなければ勝てないからだ。少なくとも、その覚悟で先発のマウンドにのぼるしかないのだ。この精神状態で9回投げるのは、いかにエースでも苦しい。

 小川の場合、まだエースという看板を背負っているわけではない分、気楽だろうし、なによりも、ヤクルトにはウラディミール・バレンティンがいる。相手投手がどれだけ好投していても、ここに回れば、とりあえず一発の期待ができる。ひるがえってカープには、そういう打者はいない。

 日頃から無口でおとなしい知人のカープファンが7日の試合の後、言っていた。
「どうして、ここまで打てないんですか。誰が悪いんですか。教えてくださいよ。みんな本当に怒っていますよ」

 おっしゃる通り。「その通りですよね」としか答えられなかった。

 気づいてみると、いつの頃からか怒りを忘れた自分がいる。寂しいことだ――。

(このコーナーは二宮清純と交代で毎週木曜に更新します)
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