笑われるかもしれないが、何度もマエケンのターンの真似をしてみた。

 5月26日の東北楽天戦。5-2とカープが3点リードした7回表、先発・前田健太は明らかに背筋あたりに異常があるように映った。いわずと知れたWBC疲れなのか。これは苦しい。

 案の定、1死から3連打で1点を返され、5-3。なおも2死一、二塁とピンチが続いて、打席には2番・藤田一也。

 このとき、ショート梵英心がマウンドに歩み寄って、何事かささやいた。あとになってみれば、ここがポイントだった……のだろう。

 さて、藤田に対して、初球のツーシームがアウトローにはずれてボール。2球目も変化球がボール。3球目、ようやくスライダーでストライクをとって、カウント2-1。

 4球目、マエケン、セットに入る。捕手・石原慶幸は、おもむろにインコース寄りにミットを構える。1秒、2秒……マエケン、くるりとターンして2塁牽制。走者・島内宏明、あわてて戻るも、梵、かろうじてタッチしてから、もんどりうってひっくり返る。

 アウト!

 このプレーでマエケンは7回3失点で抑え切り、カープは何とか勝利をもぎとったのでした。だからね、試合後、私は何度も、この“マエケン・ターン”を真似した。反芻したのである。笑うな!

 実は29日の北海道日本ハム戦でもあった。1回表、先発・大竹寛は、1死二塁のピンチで打席に稲葉篤紀。カウント2-1の4球目、梵がするするとベースに入って、大竹、くるりとターン。二塁走者・陽岱鋼の帰塁は明らかに遅れた。常識的な感覚ではアウトに見えたが、判定はセーフ。

 これが痛かった。このあと大竹は稲葉に死球、中田翔に3ランを浴び、大敗の原因となってしまう。しかし、あれがアウトになっていたら、試合は分からなかった、と断言する。

 おまけにもうひとつ。同じ29日(日本時間)、ヤンキースの黒田博樹は、メッツ戦に先発。無失点の好投を続けていたが、相手の剛腕投手マット・ハービーも好調で、試合は1-0とヤンキース、わずかに1点リード。

 6回裏、メッツは2死二塁で打席に4番・ルーカス・デューダ。カウント1-1から、黒田、ひらりとターンして二塁牽制。これはショートもうまくブロックしていた。

 アウト!

 ここまでくると、二塁牽制はカープに受け継がれているお家芸と言えるのではないか。これほど意識的に二塁で刺せる確率が高いチームは、そうないだろう。

 交流戦、勝ったり負けたりだが、26日の試合は、ひとつのターニングポイントになるかもしれない。
 
 マエケンで勝ったことも大きいが、堂林翔太が先発をはずれた、というエポックメーキングな日でもあった。不振の堂林をはずしたのは、おそらく評価すべき決断である。遅すぎたと言ってもいい。堂林にとっては、もう一度、自分のバッティングを見つめ直すチャンスだと思う。

 ただ、フレッド・ルイスの無期限2軍落ちはどうなのだろう。夏場、ルイスは使えば必ず活躍する日がくると、個人的には思うのだが――。

(このコーナーは二宮清純と交代で毎週木曜に更新します)
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