23日、第15回世界陸上競技選手権2日目が中国・北京で行われ、男子100メートル決勝はウサイン・ボルト(ジャマイカ)が9秒79で制した。ボルトは同種目2大会連続3度目の制覇。世界選手権通算9個目の金メダルは、史上最多となった。男子20キロ競歩はミゲル・アンヘル・ロペス(中国)が優勝。メダルが期待された日本勢は藤澤勇(ALSOK)が14位に入り、高橋英輝(富士通)は47位だった。世界記録保持者の鈴木雄介(富士通)は途中棄権に終わった。
 最速の男は、自らの伝説をスタートさせた北京の地で今もなお最強のスプリンターであることを示してみせた。100メートル9秒58の世界記録保持者・ボルトがライバルたちの挑戦を退け、王座を守った。

 陸上競技の華と言われる男子100メートル。この日の最終種目はメインレースに相応しい豪華な顔ぶれとなった。ボルトの他には2004年アテネ五輪&05年世界選手権ヘルシンキ大会金メダリストのジャスティン・ガトリン(米国)、世界歴代2位の記録を持つタイソン・ゲイ(米国)、元世界記録保持者のアサファ・パウエル(ジャマイカ)と1982年生まれのベテラン3人。更にはトレイボン・ブロメル(米国)、アンドレ・ドグラス(カナダ)と20歳の勢いのある若手スプリンターも出場するなど役者揃いである。

 レースへの焦点は「ボルトがいかに勝つか」「誰がボルトを止めるのか」の2点に絞られていた。中でも“ストップ・ザ・ボルト”の大本命に推されていたのはガトリンだ。国際陸上競技連盟(IAAF)が主催する最高峰のリーグ戦「IAAFダイヤモンドリーグ」で4勝を挙げるなど絶好調。5月にUAE・ドーハ大会で9秒74の自己記録を更新して以降も、9秒7台を連発していた。33歳のベテランスプリンターが10年ぶりの世界王座奪還を目指した。

 スタート直前、各選手がコールされていく中、5レーンのボルトは名前を呼ばれるとカメラに向かっておどけて見せた。笑顔も浮かべ、リラックスした様子を窺わせた。この余裕が彼らしさである。予選、準決勝と完璧ではないレース運びではあったものの、ファイナルの舞台を楽しむメンタルもボルトの強さの一因と言えよう。

 一瞬の静寂がスタジアムを包む。それを打ち破る号砲が鳴り、大歓声とともに各選手が一斉に飛び出した。檻から解き放たれた獣のように9人がゴール目がけて駆け抜ける。真中のレーンを走るボルトは大きなストライドからグングンと加速。一歩、一歩とトラックを踏みしめる度に前への推進力が増していった。

 ガトリンもボルトを追いかけ、猛烈なつばぜり合い。ゴール直前まで、どちらが勝つかわからないほどの接戦となった。フィニッシュタイムは9秒79――。わずか100分の1秒で先着したのはボルトだ。向かい風0.5メートルをものともせず、今シーズンベストの記録をマークした。ゴール後は「オレがナンバーワンだ」とアピール。得意のポーズも飛び出し、世界選手権9個目の金メダル獲得を喜んだ。

 昨シーズン、ケガのために1年間をほぼ休養に充てたボルト。ジャマイカ選手権と出場を予定していたダイヤモンドリーグ2戦も故障により、欠場。100メートルで9秒台も、7月のダイヤモンドリーグロンドン大会まで出なかった。限界説も囁かれる中、それでも負けない強さ。自らが現在も最強のスプリンターであることを証明した。

 ボルトは25日からは200メートル予選に臨み、今大会2冠、世界選手権10個目の金メダルを狙う。北京五輪で100メートル、200メートル、400メートルリレーの3冠をすべて世界新記録を叩き出し、手に入れたボルト。7年前に鳥の巣スタジアム(メイン会場の北京国家体育場の愛称)で刻まれた伝説は、まだピリオドは打たれない。

 主な結果は以下の通り。

<男子100メートル決勝>
1位 ウサイン・ボルト(ジャマイカ) 9秒79
2位 ジャスティン・ガトリン(米国) 9秒80
3位 トレイボン・ブロメル(米国) 9秒92
3位 アンドレ・ドグラス(カナダ) 9秒92
※高瀬慧(富士通)は予選落ち

(文/杉浦泰介)