「巨人の沢村栄治」といえば、指導者、選手、ファン……野球を愛する者なら、この名を知らぬ者など一人もいないであろう。威力ある直球と懸河のドロップカーブを武器にノーヒットノーランを2度達成するなど、プロ野球の歴史に残る大投手だ。彼が没して66年。今、再び「巨人の沢村」が誕生した。大学球界最速の157キロを誇る剛腕・沢村拓一だ。ドラフト前、ほとんどの選手が「12球団OK」という中、彼が巨人入りを熱望していることは周知の事実であった。その思いが通じ、ドラフトでは巨人に単独指名を受ける。球団から用意された背番号は「15」。「14」(永久欠番)だった沢村栄治を超えて欲しい、という球団からの願いが込められている。しかし、高校時代は3番手投手だった沢村。ほぼ無名に近かった彼が、なぜここまで成長できたのか。その真相に迫った。
―― ドラフトでは巨人に単独指名を受け、すんなりと憧れの球団に決まった。
沢村: 僕自身が一番行きたいと思っていた球団に、一番高い順位で指名されたので、良かったなぁという気持ちでした。でも、会見での涙はそれに対するうれし涙ではないんです。大学4年間は正直、しんどかったという思いしかありません。試合の結果うんぬんというより、練習に対して自分に厳しくやってきたので。そういう辛い思いがようやく報われたんだなと。

―― 高校時代に比べると、球速は20キロ近くアップした。
沢村: もちろんトレーニングで体を大きく、強くしたということも要因のひとつです。おかげで入学直後は58センチだった太ももは、今では68センチになっています。しかし、それだけではありません。一番はピッチングフォームのムダを取っ払ったということが大きかったと思いますね。例えば、捕手方向にボールを投げたいのに、体重が三塁方向に流れてしまってはボールに力は伝わらない。そこでバッターに向けて体重移動をスムーズにするために、軸や下半身の使い方などを考えて、フォームを常にきれいにするようにしたんです。理にかなった投げ方をすれば、ケガをするということも減りますので。

―― 具体的にフォームで一番重要視していることは?
沢村: 僕はセットポジションから入るのですが、まずは下っ腹に力を入れるんです。それから左足を上げる際に股間節から上げるようにする。そして一度、軸となる右足に力をためてから体重移動を始めるんです。その時重要なのは、右足の内側、くるぶしを捕手方向に強く押し付けるようにすること。これで体重がスムーズにバッター方向に向かって移動していくんです。

―― 大学4年間で最も成長したことは?
沢村: 考え方ですね。よく「トレーニング=練習」というふうに考えがちですが、僕はそうではないと思っています。実際にポール間を20本走りました、ウエイトトレーニングを追い込んでやりました、となれば、体もそれなりに鍛えられますし、充実感というものはあると思うんです。でも、人と差をつけたいのであれば、それではダメなんです。ダッシュ10本やるにしても、1本1本全力で走るのは何のためなのかを考えなければいけません。ピッチングでこういう体の使い方をするから走り方もこうするとか……。普段の生活だってそうです。例えば、寮内でスリッパをズルズルとひきずっていては、話になりません。だって、ピッチングの時もかかとからつま先へと着地するんですから。こういう細かいところから考え方を変えていくことができたということが、自分の成長をもたらしたと思っています。

 最後に経験した“ケガの功名”

 今夏に開催された世界大学野球選手権には斎藤佑樹(早稲田大)らとともに日本代表のメンバーに名を連ねた。しかし7月末の練習中、不運にも左脇腹を肉離れしてしまった。約1カ月間、まともにピッチングをすることができず、代表の座も辞退せざるを得なかった。だが、その後の沢村にとって、このケガは大きな意味をもつこととなった。

―― 7月に左脇腹を痛めたが、秋のリーグ戦では成長した姿がうかがえた。
沢村: ようやく立ち投げができるようになったのが、開幕の約1週間前でした。正直、これからどうなるんだろうという状態だったんです。でも、ケガをしたことで得たこともありました。自分は1年の時から投げさせてもらってきたので、それが当たり前でした。でも、ケガをして初めて裏方の仕事をして、「こういう人たちに支えられてきたんだな」と改めてわかったんです。例えば練習でトスを上げてもらったり、バッティングマシーンにボールをセットしてもらったり……。そういう人たちがいてこそ、チームが成り立っているんだなと。だからこれまでやってこなかった分、その時はしっかりとやろうと思いましたし、復帰してからのピッチングにも多少なりともいい方向につながったのかもしれません。

―― 精神的にひとまわり大きくなったと。
沢村: 自分でいうのもなんですけど、裏方の経験ができたことは本当によかったと思っています。それに、ケガをして「沢村のピッチングが悪くなった」と言われるのも嫌でしたからね。逆に「秋はよくなったな」と言われたいと思って、トレーニングしていました。

―― 具体的にどんなトレーニングを?
沢村: 体重移動をスムーズにするために、腹筋する際には股間節の部分に柔らかいボールをはさんでやりました。太ももの内側に圧力をかけた状態をキープすることで、細かい筋肉を鍛えたんです。

―― ケガから復帰後のピッチングの方が、余分な力が抜けていた。
沢村: 実は復帰したばかりの頃、また痛めるのが怖くて、思いっきり腕を振ることができなかったんです。ところが、返ってその方が打者にとってはタイミングがとりにくいということがわかった。リラックスした状態からリリースポイントで力を一気に出すということが、どういうことかも初めてわかりました。春までは速い球を投げたい、強い球を投げたいという気持ちが先行していましたが、ピッチングはそうじゃないんだなと。

 昨年7月には日米大学野球選手権に出場し、初めて国際大会の舞台を経験。さらに11月にはプロアマ交流戦に出場し、満員の東京ドームでプレーした。果たしてそこで学んだものとは。そしてプロで活躍するための課題とは。

―― 昨年の日米大学野球では2試合(2回1/3)に投げて9安打3失点という結果だった。
沢村: 日本と米国との打者の違いは、ストライクゾーンにあると思いました。日本の打者にとってのストライクゾーンはあくまでも決められた範囲内をさします。だからボール球には手を出してきません。でも、米国の打者は各自のストライクゾーンを持っていて、自分が打てると思えば、そこはストライクゾーンなんです。だからボール気味でも自信があればどんどん振ってくる。そういう打者にはストライクからボールになる球があると有効だなと思いました。

―― プロアマ交流戦では1回を投げて、第一線で活躍している選手と対戦した。
沢村: 正直言って、対戦に対してはあまり印象に残っていないんです。それよりも、あの大観衆の中で投げることができたということが初めての経験で、もうすごく楽しかった。やっぱり人に見られていると思うと、俄然モチベーションも上がってきますので。

―― プロでの課題は?
沢村: ストライクゾーンに投げてストライクをとるのではなく、ボール球を振らしてストライクにするということですね。つまり、純粋なストライクは投げない。もちろん、真ん中に投げてストライクを取りたいという気持ちもありますが、僕が目指しているのはあくまでも先発完投型。1回から9回までスピードもキレも変わらずに投げ切るのが自分のスタイルなんです。後ろにいいピッチャーがいるからといって、つなぐなんてことは端から考えていません。完投するには、駆け引きも大事になってくる。そういう意味ではこれからは、ボール球でいかにストライクがとれるかがカギになってくると思います。

「プロは勝ってなんぼの世界」という沢村が1年目に掲げた目標は2ケタ勝利。それも「10勝10敗」ではなく、貯金をつくれるようでなければいけないという。そんな彼が目指すのは全盛期の斉藤和巳(現、福岡ソフトバンクリハビリ担当コーチ)だ。初めて開幕投手を務めた2003年には、プロ野球新記録となる16連勝をマーク。その年は20勝をあげ、投手部門を総なめにした。そんな「投げれば勝つ」斉藤の姿に沢村は魅了させられたのだという。果たして2代目「巨人・沢村」はどこまで斉藤に近付くことができるのか。そしてチーム復権のためのカギとなる投手再建の一翼を担うことはできるのか。沢村の一挙手一投足に全国からの視線が注がれる。

沢村拓一(さわむら・ひろかず)プロフィール>
1988年4月3日、栃木県生まれ。佐野日大高時代は控え投手兼外野手。中央大進学後に才能が開花し、2年時にはチームの1部復帰に大きく貢献した。昨年秋に156キロをマークし、沢村の名は一躍全国区となる。今年春のリーグ戦で大学球界最速の157キロをマークした。183センチ、90キロ。右投右打。


(聞き手・斎藤寿子)

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