未曾有の被害をもたらした東日本大震災の影響で、3月25日に予定されていた今シーズンのプロ野球の開幕はセ・パともに4月12日に延期となった。7日現在、死者は約1万3000人にのぼり、行方不明者は約1万5000人。また約15万8000人が避難所での生活を余儀なくされている。福島第一原発の問題も収束の見通しは立っていない。だが、それでも復興へと一歩ずつ踏み出そうとする被災者の姿も日一日と増えてきていることも確かだろう。国内での大会やイベントを中止、延期が相次いだ日本スポーツ界でも、少しずつ開催の方向と動き始めている。そんな中、12日に開幕するプロ野球に課された責務は決して小さくはない。厳しい日程を強いられるが、選手には例年以上のパフォーマンスが求められる。
(写真:田中将、自己最多の15勝を超えられるか!?)
 なかでも本拠地・仙台が大きな被害を受けた東北楽天は、被災地に元気を与えることが第一の使命となる。楽天は球団史上初めてAクラス入りを果たし、クライマックス・シリーズでも善戦した2009年とは一転、昨シーズンは再び最下位へと転落した。だが、今シーズンは “闘将”星野仙一が新監督に就任し、さらに松井稼頭央、岩村明憲が久々に日本球団復帰を果たすなど、チームは心機一転、再生へと進もうとしている。

 また、メジャー行きが濃厚とされていた岩隈久志が残留となり、それを受けて岩隈との開幕投手争いを自ら宣言した田中将大とのエースの座をめぐる対決も見どころの一つとなっている。特に田中将の気合の入れようはすさまじい。7日現在、オープン戦を含む対外試合には5試合27回を投げて、防御率0.00。圧巻だったのは3月29日の埼玉西武との練習試合だ。3度の3球三振を含む計12奪三振をマークし、114球で5安打完封勝ちを収めた。4番・中村剛也からは3三振を奪うなど、強打の西武打線を切り切り舞いさせた。プロ入り5年目となる今シーズン、進化した田中将のピッチングが見られそうだ。

 パ・リーグの目玉といえば、その田中将と、北海道日本ハムドラフト1位の斎藤佑樹との直接対決だろう。本人同士は意識しておらず、特に田中将にとってはルーキーと同じ土俵の上に並べられること自体、不満に思っているに違いない。実際、田中将と斎藤とは実力も実績も大きな差がある。しかし、高校野球の歴史に残る名勝負を繰り広げた5年前の記憶は今も日本の野球ファンには色濃く残っている。それだけに否が応でも注目される。斎藤が田中将と同じリーグの球団に入団したのも何かの縁と考えれば、今後、この2人がプロ野球の人気復活の起爆剤となることが期待される。果たして、今シーズンはそのプロローグとなるのか。

 キャンプから無失点記録をマークし、順調な仕上がりを見せていた斎藤だが、3月21日の阪神とのオープン戦では早くもプロの厳しい洗礼を浴びた。この日、プロ初となる先発のマウンドに上がった斎藤は、初回こそ無失点に封じたものの、2回に先制を許すと、3回には8安打8失点を喫した。2度目の先発となった3月27日のロッテとの練習試合では5回2安打1失点と好投した斎藤は、今月3日の楽天とのチャリティーマッチで5回3失点。先発3度目にして初勝利を挙げた。しかし、初回に5安打3失点を喫した斎藤に、「納得いくピッチングではなかった」と笑顔は見られなかった。果たして斎藤は1年目からプロで通用するのか――。気になるその答えは開幕後に持ち越された。

 斎藤と同じルーキーの沢村拓一(巨人)、大石達也(西武)は、即戦力として1年目から活躍が期待されている。特に沢村は高い評価を得ている。これまでの対外試合では4試合を投げ、16イニングで失点はわずか1。自責点は0だ。2日の中日とのチャリティーマッチでは5回4安打無失点と好投し、プロ初勝利を挙げた。開幕ローテーション入りは確実視されており、故障さえなければ新人王獲得も十分に狙える。一方、大石は当初は大学時代の抑えから先発への転向が濃厚とされていたが、中継ぎでの起用が予定されている。一時帰国したグラマン、シコースキーが開幕には間に合わないことから、リリーフは人材不足が露呈している。それだけに大石に寄せられる期待は大きい。

 斎藤、沢村、大石のルーキーに加え、同じ1988年生まれには前述した田中将、昨シーズンは沢村賞をはじめ主なタイトルを総なめにした前田健太(広島)、今や巨人の主力に成長した坂本勇人らがいる。「黄金世代」と言われる彼らの活躍が、プロ野球を盛り上げ、ひいては被災地へのエールとなるに違いない。公式戦の全てをチャリティー試合とした2011年プロ野球。「がんばろう! 日本」を合言葉に、12日、いよいよ開幕する。