ボクシングのWBC世界ミニマム級タイトルマッチが10日、東京・後楽園ホールで行われ、王者の井岡一翔(井岡)が挑戦者で同級1位のファン・エルナンデス(メキシコ)を3−0の判定で下し、初防衛に成功した。井岡は2月に日本人最速となるプロ7戦目で王座を獲得。プロ8戦目となる今回の試合も右ボディに右ストレートとパンチを散らして攻め続け、指名挑戦者を寄せ付けなかった。
(写真:「お客さんの歓声に力をもらった」と相手を圧倒した井岡)
 初めての防衛戦、初めての12R、初めてのカットによる出血……。わずかプロ7戦で世界のベルトを巻いた22歳にとってはタフな試合だった。しかし、結果は判定とはいえ、文句のない快勝。若き王者の底知れぬ可能性を感じた暑い夜だった。

 立ち上がりは先に左ジャブを繰り出しながら、打ち終わりに右ガードが下がったところをエルナンデスに狙われた。1R終盤にはカウンターで左フックを受け、ロープ際までよろめく場面も。本人は初防衛のプレッシャーは「全くありません」と語ったが、父の一法さんは「控室にいた時からスピードがないなと思った」といつもの動きではなかったことを認めた。

 ただ、相手のカウンターに対し、すぐに対応できるのが、この若き王者の才能だ。ジャブを繰り出す際には、より右のガードを高く上げ、左、左へとステップする挑戦者に右をみせて動きを止めた。早速、2Rには右のショートストレートがヒット。徐々にエルナンデスとの距離感をつかみ、ペースを取り戻した。立ち上がりを除いてポイントを重ね、8Rを終えての公開採点では4〜5ポイントのリード。試合を優位に進めた。

 しかし、挑戦者もKO率7割強のハードパンチャーである。
「これまでは思ったより相手が強くないことが多かった。でも、今回は思ったよりやりにくかった」
 そう井岡が振り返ったように、エルナンデスはフットワークでうまく王者のパンチをかわし、フェイントをかけて攻めてきた。中盤は井岡が右ボディでスタミナを奪い、コンビネーションでメキシコ人を圧倒したとはいえ、ワンパンチで形勢はひっくり返るリスクをはらんでいた。

 そんな不安が頭をもたげたのは9R終盤からだ。急に足が止まって相手を見合う形になり、連打を浴びる。
「相手のペースに合わせてしまった。外そうと思ったが、次々と(パンチが)来て困ってしまった」
 10Rには右目上をカット。アマチュアも含めてボクシング人生で初めての出来事だった。並のボクサーなら焦って、ますますリズムを狂わせるところだ。しかし、あくまでも井岡は冷静だった。セコンドの指示を受け、11Rからは再びボディを何度も挑戦者の腹に叩きこむ。よろめく挑戦者をロープに詰め、右、左と拳を振った。

「ロープに詰めてのコンビネーション、ワンツー、ボディが使えた。今までやってきた積み重ねが初防衛につながった」
 初めてのフルラウンドにもスタミナは最後まで切れず、最終ラウンドには観客の声援に応える余裕もあった。「KOで豪快に倒したかったが、勝つことに集中して、それだけを考えた」。戦前のKO宣言とは一転、それが難しいとみるや試合をコントロールしてベルトを守ったところは、とてもプロ8戦目のキャリアとは思えない。本人は「70点」の自己採点も、父・一法さん、ジムの会長でもある叔父の弘樹さんは、いずれも今回の試合に「100点」をつけた。
(写真:父・一法さんは7月27日が45歳の誕生日。「勝って自分なりの(父への)プレゼントにしたかった」)

「これを乗り越えてこそ、スーパーチャンピオンに駆け昇れる」と位置付けた初防衛戦。自分のボクシングを貫き、結果も残した。今後は減量の関係もあり、本来のライトフライ級へ階級を上げることも予想される。この日も「複数階級制覇を狙っている」と夢を語った22歳はどこまで強くなるのか。日本ボクシング界に現われた新星の物語は、まだプロローグに過ぎない。