このところメディアで「軽減税率」という言葉を見聞きしない日はない。6日前には、自・公両党が2017年4月に消費税率を10%に引き上げる際に導入する軽減税率の対象品目を酒類と外食を除く食品全般とすることで合意したばかり。税収減の穴埋めには1兆円近い財源が必要だが、まだ4千億円程度しか目処が立っていないという。

 

 定期購読の新聞も軽減税率の対象だ。では雑誌や書籍はどうなるのか。活字メディアで禄を食む者としては大変気になる。

 

 15日付の朝日新聞に出版業界からの興味深いコメントが紹介されていた。<「食が『身体の糧』であるのと同様に、書籍・雑誌・新聞などの活字文化は『心の糧』で、健全な民主社会を構成するための知的インフラとして必要不可欠だ」>

 

 心の糧――。これは言い得て妙だ。雑誌のカラーグラビアのヌードもそうかと問われるとちょっと苦しいが、全般的にはその範囲内だろう。

 

 しかし心の糧は活字文化によってのみ得られるものではない。映画鑑賞も観劇もスポーツ観戦も含まれてしかるべきだ。

 

 そこで調べてみると高福祉高負担国家として知られるスウェーデンは、日本でいう消費税にあたる付加価値税の標準税率が25%であるのに対し、食料品は12%、スポーツ観戦や映画鑑賞は6%であることが判明した。食品よりも文化に対する税率の低さを、すぐさま「民度」に結び付けるのは短絡的だとしても、考えさせられる事例ではある。

 

 にもかかわらず、スポーツや映画・演劇業界から「我々の商品や作品にも軽減税率を」という声は、ほとんど上がらなかった。

 

 国の借金は1000兆円を越える。いよいよ2020年には団塊の世代が後期高齢者となる。社会保障費は膨らむ一方だ。これ以上、軽減税率の対象を広げれば、この国の財政はパンクしてしまう――。

 

 それを重々、承知しつつも、スポーツ業界も試合という商品を「心の糧」のメニューのひとつに加えてもらう努力をしてもよかったのではないか。なぜなら仕分けのまな板に載ることで、たとえばこの組織は興行優先でいいのか、この競技団体は公共財としての資格をみたしているのかといった議論がスタートするきっかけになる可能性があったからだ。それにより、この先、スポーツが果たすべき役割と進むべき方向性が少なくとも今よりは明確になっていたように思われる。

 

<この原稿は15年12月16日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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