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(写真:リレサ<左から2番目>をはじめとしたアフリカ勢が表彰台を独占。一番右は高宮/提供(C)東京マラソン財団)

 28日、リオデジャネイロ五輪男子日本代表選考会を兼ねた「東京マラソン2016」が東京都庁前から東京ビッグサイトまでの42.195キロで行われ、フェイサ・リレサ(エチオピア)が2時間6分56秒で優勝した。日本人トップは高宮祐樹(ヤクルト)が2時間10分57秒で8位。日本人2位には、初マラソンの下田裕太(青山学院大学)が2時間11分34秒で10位に入った。女子エリートの部はヘラー・キプロプ(ケニア)が2時間21分27秒の大会新で制した。

 

 今大会から国際パラリンピック委員会(IPC)公認レースとなった車いすの部は男子がクート・フェンリー(オーストラリア)が1時間26分で優勝。日本人最上位は洞ノ上浩太(ヤフー)が1時間26分1秒で3位に入った。女子は土田和歌子(八千代工業)が1時間41分4秒で9連覇を達成。この結果により、洞ノ上と土田はリオデジャネイロパラリンピック日本代表に内定した。

 

 アフリカ勢が上位独占

 

 節目の第10回を迎えた東京マラソン。2014年にベルリンマラソンで世界歴代2位(2時間3分13秒)をマークしたエマニュエル・ムタイ(ケニア)、12年ロンドン五輪&13年世界選手権モスクワ大会金メダリストのスティーブン・キプロティチ(ウガンダ)ら世界のトップランナーを招待し、高速レースが予想された。

 

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(写真:節目の大会に3万6000人を超えるランナーが出走した/提供(c)東京マラソン財団)

 スタート地点の気象状況は気温13.3度だった。この季節のマラソンレースにしては、気温はやや高めなことが影響したのか、ペースメーカーに先頭集団がついていけない。入りの1キロは2分55秒。2キロ、3キロと通過しても、その差は縮まらない。7キロあたりでようやくムタイ、リレサら先頭集団が追いついた。

 

 リオ五輪の切符がかかっている日本勢は、今井正人(トヨタ自動車九州)、藤原新(ミキハウス)、松村康平(三菱日立パワーシステム)ら有力選手が第2集団を形成した。すると初マラソンの村山謙太(旭化成)が、1人ペースを上げて、先頭グループを追いかける。「今井さんにつくか、前に出るか迷った」。日本勢の多くが牽制し合う中で、村山は後者を選んだ。

 

「前に行かなければ優勝を狙えないですし、日本人トップだけだったら世界とは戦えない」。強い意志を持って臨んだ村山だったが、22キロ過ぎで先頭集団から離されてしまう。中間点の通過は1時間2分50秒台。事前の設定通りのタイムとはいえ、日本記録を上回るペースは厳しかったのかもしれない。

 

 村山が離脱すると、先頭グループはリレサ、ムタイ、キプロティチ、ディクソン・チュンバ(ケニア)ら7人となる。再びエチオピア、ケニア、ウガンダのアフリカ勢がリードする展開。そこから34キロあたりでリレサ、チュンバの2人が飛び出した。優勝争いは一騎打ちの様相を呈した。

 

 2年前の東京マラソンを制し、大会記録(2時間5分42秒)を持つチュンバが引っ張り、リレサが追いかける。リレサは後ろにつけつつ、スパートのタイミングを窺っているようでもあった。その時は40.5キロ過ぎにやってきた。「彼(チュンバ)が自分のペースを守ることができなくなった」のを機に、リレサは突き放しにかかる。

 

 ムタイ、チュンバ、キプロティチと強敵揃いのレースでも「何も怖くはなかった」とリレサ。2時間6分56秒と自己ベストには及ばなかったものの、「非常に厳しいコースだった」と振り返る難レースを制した。

 

 若手に光明も、日本勢は苦戦

 

「世界に出て行くための大会であり、そこで戦うための大会でもある」。東京マラソン財団の早野忠昭レースディレクター(RD)は、2日前に大会を評した。しかし「世界に出ていくため」を優先した選手が多く、「そこで戦うために」挑んだのは村山だけだった。

 

 30キロ手前でやっと集団が崩れた。給水地点を前にまず藤原が飛び出した。給水を終えると今井、服部勇馬(東洋大学)が引っ張るかたちとなる。その後、服部は今井を突き放すと、前を走る村山もとらえ始める。35キロ過ぎの給水地点では村山を抜き去った。上り坂が立ちはだかる佃橋のエリアも快走し、日本人トップに立つ。沿道の声援に応える余裕も見せたが、40キロ過ぎたあたりで明らかなペースダウン。すると“無印”の2人が東洋大のエースとの差を詰めてきた。

 

 まずはハビエル・ゲラ(スペイン)とほぼ並走するかたちで、高宮が服部を抜いた。「自分の走りに徹した」という無欲の高宮はゲラを振り切り、8位でフィニッシュした。日本人トップでリオ五輪の選考のテーブルに乗った。しかし、タイムは2時間10分57秒。昨年12月の福岡国際マラソンで日本人最上位の3位に入った佐々木悟(旭化成)の記録(2時間8分56秒)には及ばない。タイムだけを見れば、現状3番手。3月には、最後の選考会・びわ湖毎日マラソンが残っており、リオへの道は不透明な状況だ。

 

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(写真:指導する青学大・原監督が「生命力がある」と語る下田/提供(c)東京マラソン財団)

 もうひとりは今年の箱根駅伝で圧勝した青学大の下田だ。新春の箱根路を颯爽と駆け抜け、8区で区間賞を獲得した2年生。19歳という若さで初マラソンに挑戦し、まさかの日本人2位でゴールテープを切った。10代日本最高記録(2時間15分30秒)を3分56秒更新した。第2集団が駆け引きの中でスローペースになったことが、下田には好転した。本人も「僕にはちょうどいいペースだった」と振り返った。青学大の原晋監督は「のびしろは抜群にあります。彼は金の卵」と評価する。リオ五輪の代表入りは難しいかもしれないが、東京五輪の有力候補には着実に入っただろう。

 

 リオ五輪代表の有力候補に挙がっていた今井、松村らは勝負に徹したものの、最低ラインの日本人3位以内には入れなかった。日本陸上競技連盟の酒井勝充強化副委員長は「(速いペースで知られる)東京マラソンにエントリーして、なぜついていかなかったのか疑問」とレース展開に苦言を呈した。同連盟の尾縣貢専務理事も「少し残念だった」と総括した一方で「大学生が上位に入ったことは2020の東京五輪に向けて明るい材料となった」と若手の活躍を喜んだ。

 

 例年通り、アフリカ勢が主役となった東京マラソン。日本勢は8位が最高と完敗だったと言っていい。その中でも伏兵の高宮や、初マラソンの大学生たちが日本人2、3、4位に入ったことで、ひと筋の光は見えたとも言えるのかもしれない。

 

 男子マラソンの成績は以下の通り。

 

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(写真:初マラソンで日本人上位に入った青学大・一色<左>と東洋大・服部/提供(c)東京マラソン財団

1位 フェイサ・リレサ(エチオピア) 2時間6分56秒

2位 バーナード・キピエゴ(ケニア) 2時間7分33秒

3位 ディクソン・チュンバ(ケニア) 2時間7分34秒

4位 スティーブン・キプロティチ(ウガンダ) 2時間7分46秒

5位 アベル・キルイ(ケニア) 2時間8分6秒

6位 エリウド・キプタヌイ(ケニア)2時間8分55秒

7位 エマニュエル・ムタイ(ケニア) 2時間10分23秒

8位 高宮祐樹(ヤクルト) 2時間10分57秒

 

(文/杉浦泰介)