第83回 新ルール、新監督、新戦力。ひと月で見えてきた今季の注目点 ~プロ野球~
3月25日の開幕から約1カ月が経った。対戦カードも一回りしてリーグの勢力図も見えてきたところだ。新ルールの導入やルーキーの活躍など今シーズンのプロ野球は、例年以上に見どころがたっぷりだ。
コリジョンルールで野球が進化
新しく導入された「コリジョンルール」が、野球をよりスピーディかつスリリングに変えた。本塁上での危険な接触を防ぐために、キャッチャーのブロックとランナーのタックルを禁止するルールだ。開放されたホームベースをめがけてランナーは勢いよく滑り込む。ホームの番人であるキャッチャーには、軽快なフットワークとタッチワークが要求されるようになった。
「これまでアウトだった(本塁クロス)プレーの半分はセーフになる」とは、プロ野球解説者・達川光男氏の弁だ。実際にここまでの試合を見ていると、内野ゴロでホームを狙う「ゴロゴー」や、守備側を揺さぶる「ダブルスチール」など積極的なプレーが印象に残っている。
3月30日の横浜DeNA対巨人(横浜)の7回裏、4対3で横浜がリードの場面でこんなプレーがあった。1死二、三塁。倉本寿彦のセカンドゴロで三塁ランナーのホセ・ロペスがホームを突いた。これまでならブロックでアウトのシーンだが、タッチをかいくぐったロペスがホームインした。
このプレーの後、アレックス・ラミレス監督はダブルスチールでたたみ掛ける。一塁ランナー倉本がスタートしてキャッチャーが二塁へ送球する。その間に三塁ランナーの筒香嘉智がホームイン。この2点がだめ押しとなって横浜が6対3で勝利した。
「クロスプレーが減り、迫力がなくなるのでは……」という心配は取り越し苦労だった。新ルールの下では野手はより精度の高い送球が必要となる。走者もただ突っ込むだけではない。積極性とともに高度な一瞬の判断力も求められるのだ。今シーズンはより緻密な野球が楽しめそうだ。
ルーキーの当たり年
ルーキーも開幕戦から活躍している。
オリックスの新人・吉田正尚は開幕戦(対埼玉西武)に1番DHでスタメン出場し、6試合連続でヒットを放った。新人による開幕6試合連続安打は、1981年の巨人・原辰徳、2001年の西武・佐藤友亮と並ぶタイ記録(ドラフト導入以降)である。
吉田の一番の魅力は思い切りのいいスイングにある。173cmの小柄な体を目いっぱい使ったフルスイングが、相手バッテリーに恐怖を与えている。
大学日本代表で吉田とともに戦った同級生たちも、開幕から一軍に定着している。阪神・高山俊は開幕戦から1番レフト、早稲田大学からドラフト3位で東北楽天に入った茂木栄五郎もショートのポジションを確保した。
その他のルーキーも話題に事欠かない。
昨年夏の甲子園を沸かせたオコエ瑠偉(楽天)は、目標だった開幕一軍を果たした。4月3日の西武戦(コボスタ宮城)では2番センターで初スタメン。3打席で凡打に倒れたが、悔しがるその表情が将来性を感じさせた。
ブラジル出身の仲尾次オスカル(広島)は、ルーキー一番乗りで勝利をあげている。東洋大学から即戦力と期待されてプロ入りした原樹理(東京ヤクルト)は、先発2試合目(4月3日、対中日)にプロ初勝利を目の前にしながら逆転2ランに泣いた。
新人監督も個性豊かな顔ぶれ
今シーズンは新監督にも注目したい。
パ・リーグはオリックスの福良淳一が昨シーズンの監督代行から監督に昇格した。オリックスとしては生え抜き監督は初めてのこと。前身の阪急ブレーブス時代を含めても生え抜き選手の監督就任は、梶本隆夫(1979年~80年)以来というから、ちょっとした驚きだった。楽天は梨田昌孝を監督に迎えた。近鉄(01年)、日本ハム(09年)をリーグ優勝に導いた手腕で、2年連続最下位に沈んだチームの再建を目指す。
セ・リーグには新監督が3人もいる。巨人/高橋由伸、阪神/金本知憲、横浜DeNA/ラミレスだ。ともに外野手出身の監督として話題になった。
監督としてリーグ優勝5回、日本一を3回経験した捕手出身の野村克也氏は「外野手出身に名監督はいない」と常々語っている。しかし2001年には若松勉監督がヤクルトを日本一に導き、10年、11年は千葉ロッテの西村徳文監督、福岡ソフトバンクの秋山幸二監督と外野手経験者が日本一を果たしている。
高橋監督は昨年秋に現役を引退してそのまま監督に就任した。4月3日で41歳になったフレッシュな指揮官は、開幕4連勝を飾った。巨人の新監督による開幕4連勝は81年・藤田元司以来2人目だ。ちなみに巨人が開幕4連勝以上を飾ったシーズンは過去10回ある。そのうち9シーズンで優勝している。このようなデータも新監督を後押しする。
スカパー!ならではの楽しみ方
05年以来のリーグ優勝を目指す阪神は金本新監督の下、オープン戦首位でシーズンに突入した。金本監督が掲げたチームスローガンは「超変革」。前述した新人・高山、3年目の横田慎太郎、2年目の江越大賀、高卒4年目の北條史也ら「若虎」の活躍もあり、阪神は確実に変わりつつある。そして今、戦う集団へ変身した阪神は、首位巨人をぴたりとマークしている。
新監督といえばこの人も話題だ。阪神のユニフォームに28シーズンぶりに袖を通した掛布雅之二軍監督である。ウエスタンリーグ開幕の対中日戦(3月15日・鳴尾浜)には満員の観客が詰めかけた。二軍戦では異例の満員札止め、入場できない観客が100人以上いたという。
ちなみにこの試合を生中継したBSスカパー!は専用カメラで、掛布監督を追いかけた。ベンチ内の指揮官の一挙手一投足が見られる「監督専用カメラ」は、野球中継では初めての試みだった。中継の間はSNSなどで「なんだこの中継は!?」と大きな反響を呼んだという。
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