愛媛FCにとって7年目のJがスタートする。今季からJ2はFC町田ゼルビア、松本山雅FCが加わり、22クラブによるホーム&アウェー方式でシーズンを戦う。昨季は夏場以降、ケガ人も出て最終的には15位に沈んだが、一時は3位に浮上。攻守がかみ合えば上位を狙えることを示した。今季からJ1昇格プレーオフが導入され、6位以上に入れば、J1に上がるチャンスが出てくる。このオフには例年以上に補強も行い、チーム力は確実に上がった。クラブ史上最高の8位以上はもちろん、プレーオフ圏内に入って一気に勝負をかけるシーズンとなる。
(写真:4年目の指揮を執るバルバリッチ監督(左)とキャプテンの前野)
 新チームになっての実戦は負けなしの5勝1分。昨季、天皇杯で敗れたJ1の浦和レッズにも勝利した。開幕に向けた仕上がりはバルバリッチ監督も「満足している」と語る。
「結果が出ていることよりも、それによって自信が得られていることが大きい。何をすれば良くて、何をしてはいけないかが分かってきた」
 キャンプから掲げた大きなテーマは攻守の切り替えのスピードアップ。これまでも追求してきたことだが、より最終ラインと前線の距離をコンパクトにし、ボールを奪って早く前に運ぶサッカーを徹底している。

 昨季は失点が大幅に増えた守備陣はトレーニングマッチで奪われたゴールがわずかに2。指揮官も「つまらないミスから点を失うことが少なくなった」と評価する。2年ぶりに復帰したアライールの存在は大きく、彼が在籍した10年にリーグで2番目に少ない失点数(34)を誇った堅守が復活しそうだ。

 そして攻守の舵取り役としてトミッチがサンフレッチェ広島からやってきた。「プレーが読めるし、視野が広い。前線にいいパスが出せる」(バルバリッチ監督)「外国人特有のリーチの長さがある。彼のところでタメをつくれれば、僕たち前線の選手も動き出しやすくなる」(FW福田健二)と早くもチームに欠かせない司令塔になりつつある。

 さらに昨季までは前線やサイドハーフでプレーしていた内田健太を左サイドバックにコンバート。その左サイドを守っていた前野貴徳をサイドハーフのポジションに上げた。左利きで、かつスピードがあり、キック力も兼ね備えた2人を並べることでサイド攻撃を活性化させる意図がある。「サイドバックとはボールのもらい方が違うので、まだとまどいはあるが、前を向いてどんどん勝負したい」と前野は新しいポジションに意欲的だ。

 トミッチが起点となり、サイドを深くえぐり、フィニッシュに持ち込む。攻撃のスタイルが明確になりつつあるなか、やはり問われるのは決定力だ。昨季、14得点をあげたU-23日本代表・齋藤学(横浜FM)が抜けた穴をいかに埋められるかがポイントとなる。高さのある有田光希、裏への抜け出しがうまい久場光とタイプの異なる新戦力に、2年目の小笠原侑生、ベテランの福田、大木勉をうまく融合させて総合力で得点を積み重ねる。昨季、わずか1ゴールに終わった福田は「今季はもう一度、ゴールにこだわるシーズンにしたい。新しい選手との連係はキャンプでつかめた。あとはゴールへの意識と精度を高めるだけ」と意気込む。

 昨季はシーズン途中に3バックに変更するなどシステムを変えてテコ入れをはかったが結果は出なかった。バルバリッチ監督は「システムは変更しないに越したことはない」と今季は4−4−2を基本線とする方針。決して選手層は厚いと言えないだけに、ひとつの戦術を貫いてチーム力を高めていく。

 ただ、現時点では残念ながらいくらピッチで結果を残しても、J1昇格はおろか、プレーオフにも参加できない。リーグでは今季より「クラブライセンス制」を導入し、各クラブは6月末までにライセンス交付の申請を行う。愛媛は本拠地・ニンジニアスタジアムの固定席数が「J1クラブライセンス」の審査基準となる15,000席に達していない。今年よりスタジアムの改修工事に入るが、来季の開幕時点でも13,500席にとどまる見通しだ。9月末までの審査でライセンスが得られなければ、順位にかかわらず、昇格やプレーオフ参加は認められない。

 愛媛FCの亀井文雄社長は「再来年には基準をクリアするスタジアムになる方向で県も予算を組んでいる。そのあたりの事情を汲んでほしい」とリーグ側に働きかける考えだが、例外は許可されない可能性が高い。またスタジアムへのアクセスや駐車場の確保など他にも改善が必要な部分がある。この点はクラブのみならず、県をはじめとする行政の協力が不可欠だ。

 今季は闘争を意味するクロアチア語の「BORBA」をクラブスローガンに掲げた。チーム内の競争を勝ち抜き、相手との戦いにも勝つ。そしてJ1を狙えるクラブへ――。「まずは勝利への闘争心、執着心を持って戦うこと。自分たちのスタイル、やるべきことを1年間続けること。それらが観ている人にも伝わるサッカーをしたい」と指揮官は決意を口にした。選手、スタッフ、フロント、サポーター含め、愛媛がひとつになって「BORBA」の1年を笑顔で締めくくりたい。

(石田洋之)