160602aliven2「スポーツの指導者から学ぶ」は、株式会社アライヴンとのタイアップコーナーです。スポーツ界の著名な指導者を招き、アライヴンの大井康之代表との対談を行い、指導論やチームマネジメント法などを伺います。

 今回は、青山学院大学陸上競技部を箱根駅伝連覇に導いた原晋監督。これまでの学生陸上界の常識を覆すような指導でチームを強豪に押し上げました。

 

 キーワードを大切にする

 

大井: どこの大学も優勝を狙っている中で、箱根駅伝を連覇することは簡単なことではないと思います。マジックというか、何か特別なことをされているんでしょうか?

: 普通のことだけをやらせても、その子の能力の7、80%出れば良しというふうになっていたところを、100%、120%を引き出すことに留意しました。そのカギは言葉だと思っています。選手たちの内面にあるものを引き出すには、選手自身が言葉を発していくことが大切。そのために選手同士、選手と監督の間に自由に話し合いができる土壌をつくる必要があると思います。

 

大井: コミュニケーションを円滑に図るということですね。

: そうですね。自ら言葉を発することによって、そこには責任がついてくる。計画性を持つことによってビジョンが生まれてくる。それぞれのビジョンを個々に語らせる。それを私は指導者としてコーディネイトするのが仕事ですね。

 

大井: その選手に合った言葉をかけると?

: そうですね。ただ根底にあるキーワードは一緒なんです。それに対していろいろなネタを用いる。「挑戦」というキーワードに対しては、「前向き」「改革」などです。最終的に挑戦していくことにつながる同じような意味の言葉を使って選手たちに伝えていきますね。

 

 ハッピー、ワクワクが大事

 

大井: 青学のポリシーにつながる言葉は何になりますか?

: 「夢」です。組織と個人に対してです。監督に就任した時は「この業界の勢力図を変えていこう」というような謳い文句で学生たちを鼓舞していきました。全体像を見ながら個の部分も進化させていこうと。

 

160602aliven4大井: 変えたい部分というのは?

: 陸上長距離の選手、指導者が発するキーワードは「感謝の気持ちを持って」「日々鍛錬し努力を続ける」「辛抱強くやっていこう」というような言葉が多いんです。もちろんそれはベースとして必要なのですが、私はそこにプラスして「ハッピー」「ワクワク」などの言葉を加えています。

 

二宮: スポーツ界でも「辛抱」や「根性」が幅を利かした時代が長かったですからね。大井社長は社員とのコミュニケーションはどうされていますか?

大井: 私も言葉を大事にしているので、社員の誕生日の時には漢字2文字を贈るんです。

 

二宮: その人のいいところを書くのですか?

大井: ええ。会社も「苦しい」「つらい」や「犠牲」じゃなくて楽しむ人が結果を残すと思っています。会社の理念も「笑うから、かなう。」なんです。

: それは素晴らしいですね。

 

 自立型の組織

 

160602aliven1大井: 4年間でグッと伸びる選手はどういうタイプの学生が多いですか?

: やはり生命力がありますね。極端に言えば、図々しいくらいがいいと思いますね(笑)。

 

二宮: 引っ込み思案ではダメだと。

: たとえば差し入れをもらった時にサッと取りに来る子と、「あれ? もうないかな」っていう子がいる。やはり勝負の世界に生きる以上はサッと取りに来て、自分のものにする。待っているような子ではダメですね。

 

二宮: 駅伝はチームスポーツですが、個の力も当然必要です。個と組織のバランスについてはどのようにお考えですか?

: 私は大きなキーワードはボンと置きますけど、それぞれの能力や性格に応じて上り方が違うと思うんです。私以上の能力を選手たちに出させようと思ったら、こちらが一方的に指導をしてはいけない。いろいろな知恵を用いながら彼らをサポートしていく。自立型の組織を目指していますね。

 

 現状維持は退化

 

大井: 時代によって新しい練習方法も増えていくんでしょうね。

: 今やっていることが、ある瞬間に非常識になるわけです。つまり現状維持は退化ですよね。その発想を持ち続けないと成長は続けられない。

 

160602aliven3大井: その思いは監督になられる前からイメージされていたんですか?

: 私は青山学院大学の監督に就くまでは普通のサラリーマンでした。そこから指導者としてグラウンドに立った時に10年前と同じウォーミングアップをしていたんです。「これは付け入る隙があるな」と思いましたね。今でも残っているのが「いい選手がいるからチームは強い」という発想です。でも、そういう考えでは成長しない。与えられた環境の中で結果を残していけば、自ずといい選手が入ってくるようになるんです。

 

二宮: その点は企業も同じ。経営環境を言い訳にしたら利益を出せないでしょう。

大井: 変化に対応する能力はとても大事ですよね。私も今は変える勇気と、新しい時代には何が必要なのかを探っているところです。

 

二宮: 改革をする時にどこを捨てて、どこを残すか。その判断がリーダーの仕事でしょうね。

大井: 私は感覚を信じてやっています。

: たぶん「感覚」とおっしゃられていますが、世の中の動向は常に見られていると思います。私も「選手起用が当たりますね」と、よく言われますが、グラウンドで選手を日々チェックしていますからね。

 

二宮: ずっと見続けているからこそ感覚も研ぎ澄まされるというわけですね。

: そうだと思いますね。私は異業種の方と触れ合う時も自分に置き換えてとらえています。そこはスポーツもビジネスも一緒だと思うんです。今日も参考になりました。

 

160602aliven5原晋(はら・すすむ)プロフィール>

1967年、広島県生まれ。中学から陸上を始め、世羅高校3年時には主将としてチームを牽引。全国高校駅伝に出場し2位となる。中京大学を経て、1989年創設1年目の中国電力陸上競技部に入る。93年には主将として全日本実業団駅伝初出場に貢献する。故障で95年に現役を引退。その後は10年間、中国電力でサラリーマン生活を送る。知人の紹介により、2004年に青山学院大学陸上競技部監督に就任。09年に33年ぶりの出場を果たすと、10年には8位に入り、41年ぶりのシード権を獲得。12年には同校最上位となる5位に導いた。15年の箱根駅伝で同校を初優勝に導き、翌シーズンは出雲駅伝と合わせて学生駅伝2冠を達成した。

 

(写真/金澤智康、構成/杉浦泰介)


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