プロ野球の日本ハムが札幌ドームに代わる新しい本拠地球場建設の構想を進めている、と前日付のスポニチに載っていた。栗山監督に言わせれば「久々に体中がうれしさで埋めつくされた」気分なのだという。

 

 それはそうだろう。

 

 日本には、サッカー専用場でプレーしたことのないサッカー選手は多々いるが、野球場でプレーしたことのない高校球児はまずいない。高校時代から野球“専用競技”場に慣れ親しんできたプロ野球選手であれば、「野球はできるがサッカーもできる」スタジアムでのプレーには違和感や不満を覚えて当然だからである。

 

 同じ日の毎日新聞には球団に寄せられた札幌ドームに対するファンの不満の声も紹介されていた。トイレが少ないこと、ファウルグラウンドが広すぎて臨場感が欠けること、といった声が届いているのだという。これまた、他球団のスタジアムと比較した場合、当然あがってくるであろう意見である。

 

 ちょっと面白いなと思ったのは、そうした声の中に、スタジアムの傾斜に対する不満があったということだった。傾斜が急すぎて、上り下りが大変だ、というのがその理由だという。

 

 つくづく、競技ごとにスタジアムに求められる条件は違うのだな、と痛感させられた。

 

 サッカー場において、スタンドの急な傾斜は、素晴らしいスタジアムであるための極めて重要な要素の一つである。世界屈指のスタジアムと名高いメキシコのアステカ・スタジアムなど、スタンド最上部からバンジー・ジャンプができそうなほどに傾斜は急だった。日本でも、豊田スタジアムや新しくできた吹田スタジアムなどは、かなりの勾配をつけた造りになっている。

 

 そもそも、札幌ドームは02年のW杯を招致するために造られた。ただ、サッカー専用場では赤字が必至だったことから、野球場としての機能も持たせ、プロ野球の球団を招致することが建設の条件ともされた。いってみれば、まずはサッカーありきで建設されたスタジアムでもあったのである。

 

 ならば、ファイターズが新本拠地を持った暁には、よりサッカー場としての色合いを濃くしていく改修はできないものか。

 

 日本ではまだ一例も実現していないが、ドイツでは多くの陸上競技場がサッカー専用スタジアムへとリニューアルされた。もともとW杯のために建設された、しかもシャルケのスタジアムの影響を受けた札幌ドームであれば、よりよい専門競技場へと変身するのは、さほど難しいことではないはずだ。

 

 野球ファンにとって不満の多い札幌ドームはサッカーファンにとっても物足りないところが多々あった。二兎を追ったスタジアムから一兎がいなくなるとすれば、ジレンマを解消する好機にはできないものか。

 

<この原稿は16年5月26日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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