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(写真:自己ベストを更新し、2大会連続の五輪出場を決めた中村)

 12日、リオデジャネイロ五輪日本代表選考会を兼ねた「第100回日本陸上競技選手権大会混成競技」最終日が長野市営陸上競技場で行われた。男子十種競技は中村明彦(スズキ浜松AC)が日本歴代2位の8180点で制し、初優勝。リオ五輪参加標準記録(8100点)を突破し、日本選手権優勝の選考基準を満たしたため、代表に内定した。女子七種競技はヘンプヒル恵(中央大)が日本歴代2位の5882点で連覇を達成した。2年ぶり4度目の優勝を狙った桐山智衣(モンテローザ)は同7位の5597点をマークし、自己ベストを更新したものの、2年連続の2位だった。

 

 新王者が進む真の王者への道

 

 新王者に、中村がぶっち切りで輝いた。2種目目でトップに立つと、最後まで先頭を譲ることはなかった。ラストの1500メートル走でもスタートから独走して、優勝とリオ五輪の切符をもぎ取った。

 

 王者不在――。6連覇中の右代啓祐(スズキ浜松AC)の途中棄権により、大会前に予想された男子混成2強の優勝争いから、中村が何点取って優勝するか。焦点はそちらに絞られていたと言ってもいいだろう。経過を知らせる場内のアナウンスも、そのことが盛んに伝えられた。中村も「僕は僕の戦いがある」と自らの目標達成に集中した。

 

「悪いところはあまりなかった」という初日の5種目は4278点で折り返す好スタートを切っていた。これは自己ベスト(8043点)を出した2年前の日本選抜陸上和歌山大会の時よりも、26点上回っている。いい流れで2日目を迎えられた。

 

 2日目のスタートは110メートルハードル。中村によれば、「アップでうまくいかず、しっくりこなかった」と直前まで不安を抱えていた。最後の練習でなんとか自らの型を取り戻す。2.1メートルの追い風も背中を押して、14秒12の好タイムで959点を加算する。

 

160612topics5 スプリント系を得意とする中村にとって、不得意な部類に入る投擲種目は円盤投げで自己ベストに近い38メートル58、やり投げでは自己記録を更新する54メートル18を記録した。棒高跳びでは自己ベストに並ぶ4メートル90をクリア。失敗はしたものの、今後の5メートル成功にも視野に入る試技となった。

 

 最終種目の1500メートルは序盤から飛び出すと、一人旅状態。ぶっち切りの圧勝だった。「空回りした」という1年前とは違い、自らのペースを貫くことができた。それは本人も認めるように、ライバル・右代の不在も少なからず関係しているだろう。ともあれ日本の“キング・オブ・アスリート”の称号を得て、リオへと挑む。ロンドン五輪は十種競技ではなく、中村曰く「勢いだけで」と400メートルハードルで代表に選出された。リオでは“本職”で大舞台に立つことができる。新王者は「何か見せ場をつくりたい」と自信のあるスプリント系の種目で世界にインパクトを与える。それが真の王者へと進む第一歩なのかもしれない。

 

 世界へ挑んだ女王

 

「優勝は確実にしなきゃいけなかった」

 連覇はあくまで通過点。ヘンプヒルが目指したのは、日本記録(5962点)でありリオへの参加標準記録(6200点)だった。

 

160612topics3 1種目目の100メートルハードルは彼女が最も得意とする種目だ。日本選手権で3位に入賞を果たした経験も持つ。追い風1.7メートルにも乗せられて13秒43と自己ベストを更新した。ヘンプヒルを追いかけるのは、元女王の桐山。同組で走り、先着を許したものの13秒63で2位につけた。

 

「前半でボロが出た」というヘンプヒル。走り高跳び、砲丸投げで自己ベストを更新できなかったことを悔やんだ。突然の雨に降られたこともあって、初日の最終種目200メートル走でも記録を伸ばせなかった。3360点と自己記録を上回るペースだが、2位の桐山とは42点差で初日を終える。

 

 走り幅跳びでは6メートル超えの桐山に差を詰められたものの、昨年の優勝でもキーになったやり投げで47メートル84の好記録をマークして突き放した。5012点で迎えた最終種目。持ちタイムを考えれば、ヘンプヒルの優勝はほぼ確実だった。あとは得点をどこまで伸ばすかだ。日本記録まではあと950点。800メートルを2分10秒96以内で走れれば、超えられる。だが、自己ベストよりも5秒以上も速いタイムである。

 

「日本記録を狙うにはやるしかない。大会前からぶっ飛ばそうと考えていた」とヘンプヒル。この種目を得意とする宇都宮絵莉(長谷川体育施設)に食らいつき、前半から飛ばした。だが、ラスト200メートルまでは「気持ちでついていった」がそこからは離される一方だった。2分10秒72でゴールした宇都宮から遅れること約6秒。自己ベストを150点以上更新したが、日本記録には80点届かなかった。

 

 ヘンプヒルは「今の自分の殻を破らないと世界は見えてこない。もう一段階ランクを上げないと」と反省した。高校時代まではガムシャラにやっていたという彼女。中大に進学し、「考えながらポイントを絞ってやってきた」と記録は順調に伸びている。参加標準記録までは300点以上もあるが、「前よりは世界との距離が縮まったと実感できた」と成長の手応えもある。成長著しい20歳。東京五輪への期待は膨らむ。

 

 最終日の結果は次の通り。

 

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(写真:女子七種競技の表彰式<左から桐山、ヘンプヒル、宇都宮>)

<男子十種競技>

1位 中村明彦(スズキ浜松AC)  8180点

2位 川崎和也(順天堂大) 7592点

3位 清水剛士(NTN) 7535点

 

<女子七種競技>

1位 ヘンプヒル恵(中央大) 5882点 

2位 桐山智衣(モンテローザ) 5597点

3位 宇都宮絵莉(長谷川体育施設) 5555点

 

(文・写真/杉浦泰介)