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(写真:自らが持つ日本記録を6年ぶりに更新した福島)

 26日、リオデジャネイロ五輪日本代表選考会を兼ねた「第100回日本陸上競技選手権大会」最終日が愛知・パロマ瑞穂スタジアムで行われ、女子200メートル決勝で福島千里(北海道ハイテクAC)が22秒88の日本新記録をマークして優勝した。福島は同種目6連覇を達成。100メートルと合わせて短距離2冠を果たし、男子やり投げの新井涼平(スズキ浜松AC)とともに大会最優秀選手に選ばれた。男子200メートル決勝は飯塚翔太(ミズノ)が日本歴代2位の20秒11で制した。男子5000メートル決勝は大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)が1万メートルに続いて優勝。女子5000メートルは尾西美咲(積水化学)が1万メートルを制した鈴木亜由子(日本郵政グループ)を抑えて4連覇を達成した。福島、飯塚、大迫、尾西はリオ五輪代表に内定。福島と大迫は2種目目の代表入りを決めた。

 

 そのほか男子100メートルハードルの矢澤航(デサントTC)、男子走り高跳びの衛藤昂(AGF)、女子400メートルハードルの久保倉里美(新潟アルビレックスRC)が優勝して、リオ行きの切符を勝ち取った。

 

 破顔一笑。福島は先頭でフィニッシュすると、両手を広げて「やったー!」と喜んだ。日本短距離界には敵なしの存在だが、その無邪気さは、まるでかけっこが好きな少女に映った。

 

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(写真:市川<右>らライバルたちを寄せ付けなかった福島<中央>)

 女子200メートル決勝のスタートラインに立った福島。過去2日間は雨模様だった空もこの日は晴天に恵まれた。直前に行われた男子100メートルハードル、女子100メートルハードルの決勝から2メートル前後の追い風が吹いていた。2万人を超える観衆。好記録が生まれそうな気配が漂っていた。

 

 福島はスタートから勢いよく飛び出すと、ぶっち切った。直線に入る前で先頭に立つ圧倒的な走りに会場もどよめいた。そのままライバルたちに影を踏ませることなく、圧勝した。ゴール直後の笑顔は、それだけの快走だったのだろう。追い風1.8メートルにも背中を押され、表示されたタイムは20秒88――。再び場内がどよめく。2010年に自らが打ち立てた日本記録を塗り替えた。

 

「“うれしいな”と久しぶりに心から思えます」と福島。なかなか記録が出ない時は「自己ベストにこだわっていない」と強がっていた時期もあったという。今シーズンは大事を取って大会をキャンセルすることはあったが、春先から好調を維持していた。

 

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(写真:6年連続短距離2冠を達成した福島。文句なしのMVP獲得だ)

 6年ぶりの日本記録にも福島は「とどまるつもりは全くなく、どんどん日々進化していく」と意気込む。「“よし、ここから”と弾みがつく。次に向かえるいいきっかけになったと思う」。日本最高のスプリンターが3度目の五輪で世界に挑む。

 

 福島の日本新に瑞穂が沸いた直後、男子200メートル決勝でも好記録が誕生した。100回の節目を迎えた日本選手権。トラック種目の大トリを務めるにふさわしく歴代王者が名を連ねた。2011年と15年の藤光謙司(ゼンリン)、12年の高瀬慧(富士通)、13年の飯塚、14年の原翔太(スズキ浜松AC)がスタートラインに立った。

 

 号砲が鳴ると8人が一斉に飛び出した。序盤から抜け出したのは飯塚だった。「前半からしっかり乗せることができた。段々と上げて、ガーッと一気にゴールまで走った」。力みのない走りで加速し、高瀬と原の追撃をかわした。女子と同じ1.8メートルの追い風を味方にした20秒11は今シーズン世界10位タイの好タイムだ。

 

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(写真:「ここまでこれたのはライバルのおかげ。今度は僕が刺激になりたい」と語る飯塚)

 世界ジュニア選手権で金メダルを獲るなど、将来を嘱望されてきた存在。“和製ボルト”と呼ばれ、ロンドン五輪にも出場した。翌年の世界選手権では準決勝進出。男子200メートルでは抜きんでた存在だった。

 

 しかし、ケガで苦しんでいる間に藤光、高瀬に抜かれた。下からはサニブラウン・アブデルハキーム(城西大城西高)という若手も台頭してきた。昨年の世界選手権には出場すらできず、TVで他の日本人スプリンターが走るところを見た。「来年は自分が勝負したい」「主役になれないのは悔しい」「負けてられない」。いろいろな感情が沸々とわいてきた。

 

 これまでとは意識を変えてトレーニングに取り組んでいる。無駄な贅肉、力みをそぎ落とすことに注力した。所属先のミズノとスパイクを共同開発するなど速くなるための努力を惜しまなかった。大学4年時以来、3年ぶりの自己ベスト更新。20秒11は派遣設定記録をクリアし、ロンドン五輪に続くリオ五輪代表入りを手中に収めた。

 

 飯塚は「(ロンドンは)勝負する姿勢ではなかった。今回は勝負するつもりで4年間やってきた」と4年前との違いを語る。身長185センチの大型スプリンターには、日本人初の19秒台への期待もかかる。

 

 今大会は19人21種目で代表内定が決まった。五輪経験者は福島、飯塚、久保倉、海老原有希(スズキ浜松AC)、山本聖途(トヨタ自動車)の5人。残りの14人は初出場、フレッシュなメンバーになったとも言える。

 

 日本陸連の尾縣貢専務理事は「2日間は雨天にも関わらず多くのお客さんに来ていただいたことで選手の背中を押してくれた」と3日間で述べ6万人を超えた観衆に感謝した。尾縣専務理事は「陸上の面白さ、勝負の厳しさが伝わったと思う」と自信を見せると、同連盟の麻場一徳強化委員長は「100回の記念大会、オリンピックトライアルにふさわしい戦いだった」と総括した。

 

 一夜明けて日本陸連は理事会を行い、トラック&フィールド種目のリオ五輪日本代表を選抜する。尾縣専務理事は「リオで戦えるチーム、2020年につながるチーム」と編成方針を語った。今大会で内定を得た19人に加わる選手は誰になるのか。男子100メートルの山縣亮太(セイコーホールディングス)、男子200メートルの高瀬、十種競技の右代啓祐(スズキ浜松AC)らが有力視されている。

 

 主な決勝結果は次の通り。

 

<男子200メートル>

1位 飯塚翔太(ミズノ) 20秒11

2位 高瀬慧(富士通) 20秒31

3位 原翔太(スズキ浜松AC) 20秒33

 

<男子5000メートル>

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(写真:1万Mに続き5000Mでも代表入りを決めた大迫)

1位 大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト) 13分37秒13

2位 上野裕一郎(DeNA) 13分39秒23

3位 大六野秀畝(旭化成) 13分39秒52

 

<男子100メートルハードル>

1位 矢澤航(デサントTC) 13秒48

2位 増野元太(モンテローザ) 13秒51

3位 金井大旺(法政大) 13秒61

 

<男子走り高跳び>

1位 衛藤昂(AGF) 2メートル29

2位 佐藤凌(東海大) 2メートル25

3位 高張広海(日立ICT) 2メートル20

 

<女子200メートル>

1位 福島千里(北海道ハイテクAC) 22秒88 ※日本新

2位 齋藤愛美(倉敷中央高) 23秒46 ※日本ジュニア新

3位 市川華菜(ミズノ) 23秒86

 

<女子5000メートル>

1位 尾西美咲(積水化学) 15分19秒37

2位 鈴木亜由子(日本郵政グループ) 15分24秒47

3位 関根花観(日本郵政グループ) 15分24秒74

 

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(写真:2年ぶり9度目の優勝を果たした久保倉<中央>)

<女子400メートルハードル>

1位 久保倉里美(新潟アルビレックスRC) 56秒62

2位 吉良愛美(アットホーム) 57秒26

3位 石塚晴子(東大阪大) 57秒88

 

※選手名の太字はリオデジャネイロ五輪代表に内定

 

(文・写真/杉浦泰介)