かつて、五輪のサッカーは“鉄のカーテン”の向こう側の国によるコンペティションでしかなかった。実質的にサッカーだけで生計を立てていても、“ステート・アマ”なる珍妙な肩書の選手たちは、プロとは見なされなかった。これでは、たとえ3部リーグの選手であってもプロの出場が認められなかった西側諸国が、太刀打ちできるはずもない。W杯という真の世界一決定戦があったこともあり、五輪のサッカーに注目するサッカー大国はほとんどなかった。

 

 そんな中、ブラジルは相当に早い段階で五輪でのサッカーに力を入れるようになった。プロが解禁されたロス五輪にはA代表に選ばれてもおかしくないレベルの選手を送り込み、金メダル獲得に意欲を見せた。

 

 日本に歴史的敗退を喫してしまったアトランタにしても、ブラジルの意気込みは群を抜いていた。なにしろ、ロベルト・カルロスがいてベベットがいてアウダイールがいたのである。少なくとも、南米の中でブラジルほどに五輪での優勝を切望してきた国はない。

 

 ところが、W杯では幾度となく頂点を極めた彼らも、なぜか五輪では勝てなかった。勝てないことで、ブラジル人にとっての五輪金メダルは、かなりの高根の花となっていった。

 

 それだけに、今回の五輪にかけるブラジルの意気込みは凄い。結果はどうなろうとも、彼らほど五輪のために準備を重ね、勝利を求められている国はまずないだろう。

 

 そんな国と、日本は大会直前にテストマッチを組んだ。結果は0―2の完敗に終わったが、個人的には、この時期のブラジルと胸を合わせる機会を作ったスタッフを全面的に称賛したい。これは、06年のW杯ドイツ大会直前にドイツ代表とのテストマッチを組んだ以来の大ヒットだと思っている。

 

 06年は残念な結果に終わってしまったが、開催国と開幕直前に互角の撃ち合いを演じたことで、選手たちは最高の形で初戦に入ることができた。ドイツとしては異様なほどの暑さ、敵将の采配の妙などもあって痛恨の逆転負けを喫したとはいえ、協会としては、できることをやりつくした上での敗北だった。

 

 今回、手も足も出ない完敗にショックを受けている選手もいるようだが、本番の1次リーグ対戦国に、ネイマールより危険なFWはいない。さらにいうなら、ブラジルよりも観客の後押しを受け、グイグイとゴールに迫ってくる相手もいない。油断は禁物にしても「なんだ、ブラジルに比べればたいしたことはないぞ」と思ってプレーができれば、テストマッチを組んだ意味も生きてくる。

 

 そういえば、日本サッカーが再浮上するきっかけとなったアトランタ五輪では、初戦をブラジルと戦い、第2戦をナイジェリアと戦った。あの時は、ブラジルを倒したがゆえの奢りと油断が敗北につながったが、さて、今回はどうなるか。

 

<この原稿は16年8月4日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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