ボクシングのWBC世界スーパーバンタム級名誉王者の西岡利晃(帝拳)が10月13日(現地時間)にWBO・IBF世界同級王者のノニト・ドネア(フィリピン)と米国カリフォルニア州カーソンで王座統一戦を行うことが決まり、都内ホテルで会見を開いた。この試合が西岡にとっては8度目の防衛戦。またWBC、WBO、IBFの3団体のベルトをかけた一戦となる。自身が熱望していた対戦が決まり、西岡は「実現して本当にうれしい。ワクワクしている。スーパーバンタム級の頂上決戦を僕自身、楽しみにしている」と静かな口調ながら興奮を抑えきれない様子だった。
(写真:「自分の強さを証明したい。勝つ自信はある」と断言した)
 正真正銘のビッグマッチだ。
 西岡は2008年、プロ14年目で悲願の世界王者になって以降、一戦一戦、階段を上がってきた。初防衛から圧巻の4連続KO勝利。その間、日本人では2人目となる海外での防衛も果たした。そして昨年10月には本場ラスベガスでラファエル・マルケス(メキシコ)と激突。判定で勝利し、世界的知名度をさらにあげた。

 一方のドネアは6階級制覇のマニー・パッキャオに続くフィリピンの英雄だ。01年のプロデビュー以来、IBFフライ級、WBAスーパーフライ級、WBC・WBOバンタム級、WBO・IBFスーパーバンタム級と4階級を制覇。それもビック・ダルチニアン(オーストラリア)、フェルナンド・モンティエル(メキシコ)ら強豪をKOで沈めるなど、パワーとスピードを兼ね備えた実力者である。

「海外で防衛して、ラスベガスでもメインを張った。ここまで来たら普通の防衛戦では燃えるものがない。パウンド・フォー・パウンドでも上位に位置する選手に勝つことが一番、燃えられると思った」
 西岡は、昨年のラスベガスでの防衛戦以降、ドネアとの対戦一本に絞って交渉を重ねてきた。7月に開催されたドネアのWBO・IBF王座統一戦では現地(米国・カーソン)に飛び、試合終了後、リングに上がって対戦を直談判。当初、ドネアはホルヘ・アルセ(メキシコ)との試合を組む予定だったが、キャンセルとなり、両者の対決が現実になった。

 西岡にとっては1年ぶりの実戦が大一番となるが、「ブランクは何の問題もない」と言い切る。36歳の年齢を指摘する声を「10歳、僕の年齢を間違っていますよ」と笑い飛ばすほど衰えは感じていない。昨年末からは常にドネアを目の前に想定してトレーニングを重ねてきた。思い返せば、4度目の世界挑戦失敗から4年半かけて世界のベルトを腰に巻いた男だ。自らの思いを叶えるためなら、1年という月日は長くはなかった。実際に対戦が決まり、担当する葛西裕一トレーナーが「今はすごく乗っている。動きがめちゃくちゃいい」と驚くほど調子は上がってきている。

 日本で例をみないビッグマッチは、WBCや日本ボクシングコミッション(JBC)も動かす事態になっている。これまでJBCではWBC、WBAの両団体以外の世界タイトルを認可していなったが、現在、IBFとWBOを公認し、両団体に加盟する方向で検討中。もし西岡が勝てば、3団体王者として認められることになりそうだ。またWBCでは、この一戦の勝者にダイヤモンドベルトを贈ることを決定した。このダイヤモンドベルトは09年よりスーパーファイトを制したボクサーに授与されており、これを腰に巻いたのはマニー・パッキャオ、フロイド・メイウェザー(米国)ら本当に限られた選手だけだ。西岡がダイヤモンドベルトを手にすれば、史上5人目、もちろん日本人初の快挙となる。

「ダイヤモンドベルトは4人しか持っていない。そのベルトがもらえるのはワクワクする。また3団体統一はマンガみたいな話。楽しみしかない」
 西岡は対決が待ち切れないといった表情で、何度も「楽しみ」「ワクワク」というフレーズを口にした。周りの関係者もそれは同じ気持ちだ。帝拳ジムの浜田剛史代表は「まさか決まるとは思わなかったという声をたくさんいただいている。この対決は海外では日本以上に話題になっている。それほどファンが観たかったカードということ」と興奮気味に語り、「ドネアのパンチ力は軽量級離れしている。当たれば倒れる。西岡がどう崩せるか」と試合の見どころを披露した。

 先のロンドン五輪では日本勢がボクシングで2個のメダルを獲り、世界にその実力を示した。西岡自身も「アマチュアも含めて世界に出て行って戦い、より強い相手を求めてビックファイトをファンの皆さんに提供するほうがいい」と考えている。まさに今回は日本のみならず、世界が注目する一戦。「強い相手とやって完全燃焼したいというのが一流ボクサーの心理。また強い相手とやってこそ一流」。そう話すスピードキングが2カ月後、“フィリピンの閃光”を相手にボクシング人生のすべてをかけて拳を振るう。