ボクシングの現役世界王者を4人も抱える名門・帝拳ジム。そのひとりが4月に難敵・ビック・ダルチニャンを下し、初防衛に成功したWBC世界バンタム級王者の山中慎介だ。指導する大和心トレーナーが「真っすぐ最短距離で打って、相手にダメージを与えられる」というパンチの正確性や力強さはもちろん、敵の攻撃を素早くかわして懐へ飛び込める鋭いステップもチャンピオンの武器である。この10月で30歳を迎える山中に、自身のボクシングスタイルや今後について二宮清純が訊いた。
(写真:中学3年の時から欲しかったWBCの緑のチャンピオンベルトを手に)
二宮: 初防衛戦の相手、ダルチニャンは3階級制覇を狙った強敵でした。ここで勝てたのは山中選手のボクシングキャリアの中でも大きかったのでは?
山中: 相手との距離感をしっかり保って、作戦通りに試合が運べたので、本当に自信になりました。

二宮: 試合を見ていると、足のスタンスの広さが目につきます。あれが安定感のある戦いにつながっているのかなと?
山中: 確かに他の選手よりもスタンスは1足分くらい広いですね。僕もそれは気になっていて、最近、過去の日本人世界チャンピオンの映像を見てみました。すると皆、僕よりスタンスが狭い。(WBA世界ライトフライ級を13回連続防衛した)具志堅用高さんもかなり狭かったですね。これまで特に意識はなかったのですが、僕はちょっと独特なんだなと感じました。

二宮: 足が揃うとパンチをもらった時に一発で倒れてしまう危険がある。その点、スタンスが広いとバランスがとれてリスクが減りますね。
山中: 自分なりに動きやすくて、強いパンチを打てる体勢を追求していたら、今のスタンスになりました。それが結果的にバランスの良さにつながっているのかもしれませんね。スタンスが広いと動きが悪くなるという人もいますが、僕はこれでも足が使えるように足腰は鍛えていますから問題ありません。

二宮: ダルチニャン戦でも最終12ラウンドはリングサイドからの指示もあり、足を使って逃げ切る余裕がありました。スタミナと冷静な判断力がないと、ここまでうまくは戦えない。
山中: 最近、精神的に強くなった部分はあると感じます。普段は忘れ物もよくするんですが(笑)、ボクシングの内容に関してはよく覚えているんです。私生活よりフルラウンドの展開のほうがしっかり記憶できているくらい(笑)。それだけ試合中は冷静なんだと思います。

二宮: 「チャンピオンになると世界が変わる」と話すボクサーは少なくありません。山中選手は?
山中: 全く違いますね。日本タイトルとは違って、祝福してくれる人の数が増えますし、人付き合いも多くなる。20代前半の頃とは性格が変わったように思います。昔は決して優等生ではなかったですけど(笑)、今は応援してくれる方への感謝の気持ちを常に持ちながら、ボクシングに取り組んでいます。

二宮: 年内には2度目の防衛戦が予定されていますが、これからの目標は?
山中: 10回くらい防衛できれば、もちろん最高ですが、回数よりも強い相手と戦って世界的に認められるようなボクサーになりたいです。

二宮: 目標としているボクサーはいますか?
山中: やはり同じバンタム級で長くチャンピオンだった長谷川穂積さん(真正)は憧れの存在です。今、長谷川さんと同じベルトを巻いていることに、とても重みを感じます。もちろん、ジムにも過去も現在も素晴らしいチャンピオンがいますから、ゆくゆくは偉大な先輩方に追いついて、追い越したいです。

二宮: 間もなく30歳。近年は同じジムの西岡利晃選手(WBC世界スーパーバンタム級名誉王者)、内山高志選手(WBA世界スーパーフェザー級王者、ワタナベ)など、30代のチャンピオンも増えています。まだ進化の途上でしょうか?
山中: はい。自分としてもいい流れに乗って、着実に強くなっている実感があります。そして、もっと強くなるという期待も持っています。

二宮: 4月の防衛戦後には結婚を発表し、この秋にはお子さんも誕生予定です。ファイトマネーをもっと稼がないといけませんね(笑)。
山中: 家族も増えるので勝ち続けて、ある程度はお金も欲しいですね。いずれは一軒家を買えるくらいまで頑張りたい。それが今の一番の目標です。
(写真:産まれてくる子供の名前は「逆に昔風なほうがいいかな」と考えている)

<現在発売中の小学館『ビッグコミックオリジナル』(2012年9月5日号)に山中選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>