予想外の大失速だ。
 今季の愛媛FCはクロアチア人の司令塔アンテ・トミッチや、若きストライカーの有田光希らを補強し、プレーオフ出場圏内の「6位以上」を目標にシーズンをスタートした。前半の21試合は湘南ベルマーレや東京ヴェルディといった強豪を下すなど8勝7分6敗と勝ち越し。目標の6位までは勝ち点6差と好位置につけていた。しかし、後半戦に入った途端に全く勝てなくなり、10試合連続で未勝利(3分7敗)が続いている。順位も18位にまで沈み、プレーオフ進出は絶望的な情勢だ。なぜ気温の上昇に反比例するようにチーム状態が下降してしまったのか。イヴィッツア・バルバリッチ監督を直撃した。
――この夏、日本のサッカー界は五輪で男女揃っての快進撃で盛り上がりました。監督は試合をご覧になられましたか?
バルバリッチ: 男子に関しては準決勝のメキシコ戦以外はすべて中継を観ましたよ。今回の代表チームは本当に素晴らしかったです。個のクオリティが高い上に、集団として機能していた。初戦のスペイン戦をはじめ、いい試合を見せてくれて、私自身、とても楽しめました。それだけに準決勝ではメキシコに負けたと聞いて、とても残念に感じました。とはいえ、どんなにいいチームでも5試合もやれば、1試合は悪いところが出るもの。メキシコ戦の前までは決勝進出の期待が持てる内容でしたし、間違いなく世界の中でも質の高いサッカーだったと思っています。

――昨季、愛媛にいた齋藤学選手(横浜F・マリノス)をはじめ、この戦いを経験したことが、若手のさらなるステップアップにつながるでしょうね。
バルバリッチ: そこが最も重要なポイントです。五輪に出たメンバーには、将来のA代表の中心になりそうな選手が何人もいます。これは日本の男子サッカーにとって明るい希望です。

――銀メダルを獲得した女子のなでしこジャパンについては?
バルバリッチ: 金メダルが獲れなかったのは残念ですが、昨年でW杯優勝、五輪2位という成績は本当に立派です。これだけ女子のサッカーが盛り上がれば、日本国内でも競技の普及はかなり進むでしょう。それは日本のサッカー界全体にいい効果をもたらすはずです。

――男女の違いはあるものの、なでしこジャパンが見せてくれたポゼッションを高め、コンパクトに戦うスタイルは、今の愛媛FCが目指したい方向性と重なるのではないでしょうか?
バルバリッチ: 確かに戦術的に愛媛の選手たちへ要求しているものは共通しています。もちろん女子と男子ではパワーや瞬発力が違いますから、女子のようにうまくはいきませんが。

――五輪の熱戦が繰り広げられたこの夏、愛媛は苦しい試合が続きました。単刀直入に伺いますが、なぜ急に勝てなくなってしまったのでしょう?
バルバリッチ: 結果が出ないことに関しては、一番の責任は監督にあります。これからの話はそれを踏まえて聞いてください。
 まず現状を分析するためには、良かった時のことを振り返らなくてはなりません。正直言って前半戦は選手が頑張って、予想以上にいい結果を残してくれました。内容的には、もっと勝ち点を上積みしてもおかしくなかった。前半戦の戦いについては非常に満足しています。しかし、長いシーズン、いい状態は長く続きません。前半戦でも本当に良かったのは12、13節(5月上旬)くらいまで。後半戦は前半戦のようにうまくいかないことは、ある程度、覚悟していました。ただ、ここまで一気にチーム状態が悪くなるとは考えられませんでしたね。

――好不調の波が激しい点は、かねてからの愛媛の課題でした。もちろん監督もいろいろと手を打ってきたことと思います。それでも、ここまでの落ち込みは信じられないと?
バルバリッチ: ずっと勝てていないといっても内容がすべて相手に劣っていたかというと、そうではありません。ギリギリのところで、わずかの差で負けている。後半戦最初のアビスパ福岡戦(7月1日)では内容は愛媛のほうが上回っていましたが、レフェリーにゴールを取り消されて負けました。その後の水戸ホーリーホック戦(7月15日)でも勝っていましたし、京都サンガF.C.戦でも引き分けに持ち込めた試合でした(いずれもロスタイムに失点し、引き分けと敗戦)。大分トリニータ戦(7月29日)でも同点に追いついた後は逆転できそうな雰囲気でしたし、モンテディオ山形戦(8月19日)でも前半は先制して、かなりいい内容でした。ただ、たとえ内容は悪くなくても勝てない試合が続くことで選手たちの自信は失われてしまいます。これが想像以上に長いトンネルに入ってしまった要因のひとつですね。

――今、監督の話に出たように10試合未勝利のなかには終了間際やセットプレーでの失点など、同じミスを重ねているケースが目立ちます。これも自信のなさに起因するものでしょうか。
バルバリッチ: やはり、ここまで結果が出ないと精神的にノーマルな状態ではないでしょうね。そこに体力的な疲労や集中力の欠如、動き出しの少なさ、お互いのフォロー不足といった要素が重なっているのだと思います。

――長いシーズンですから、レギュラー11名で常に戦えるわけではありません。ケガ人やコンディションを落とす選手も出てくるでしょう。代役としてカバーする選手が本来なら出てきてほしいところです。
バルバリッチ: このチームには飛び抜けて優れた選手はいません。お互いの欠点を補いながらチームで戦っていく必要があります。たとえば5月に、このチームで重要なひとりである右サイドバックの関根永悟が骨折で離脱しました。ただ、他の選手が試合に出ても、さほど大きな問題は生じませんでした。ところが他のポジションでも、MF大山俊輔など開幕から頑張ってきた選手が疲れてきて、スタメンを4人も5人も代えなくてはいけなくなると、どうしても、それぞれの欠点が目立つ状況になってしまいますね。

――トンネルから抜け出すために必要なことは?
バルバリッチ: まずは良かった時の基本に戻ることです。ラインを高くして、相手陣内から激しくプレスをかける。そして高い位置でボールを奪い、短い時間と少ない手数でゴールに向かう。今季、前野(貴徳)を最終ラインからサイドハーフのポジションに変更したのもそのためですし、前半戦ではコンパクトなサッカーがよく機能していました。今はラインが下がって、ポゼッションもうまくいかず、守りのスライドやマークの受け渡しもうまくいっていません。
 もちろん、そのためのシステム変更もひとつの手段でしょう。昨季までもシーズン途中で戦い方を変えたことがありますが、今季は現状のシステムがベストと感じ、ここまで大きな変化は加えませんでした。しかし、これ以上、結果が出ないままズルズルいくわけにはいきません。そろそろ決断をしなくてはいけないと考えています。

――奇しくも今季のスローガンは「BORBA」(闘争心)。今こそ、「BORBA」が問われている時はないはずです。ただ、負けが込んでいる状況でも「こんなことでいいのか」と気持ちを前面に出す選手が少ないとの指摘もあります。
バルバリッチ: 苦しい時にこそリーダシップをとったり、責任を引き受けて行動することは選手にとって大事な資質です。誰でもパフォーマンスが悪かったり、ミスをすることはあります。しかし、最も私が我慢できないのは戦う前から相手に気持ちで負けていることです。そして失敗を恐れ、消極的で責任逃れのプレーをしてしまう。これではいつまでたっても、思うような結果は得られません。このことは選手たちに常に言っているのですが、受け身にならず、全力でトライをしてほしいし、積極的にプレーしてほしい。それが現状を打破する第一条件だと感じています。

――残り11試合、プレーオフ圏内に入ることは厳しくなりましたが、どんな目標を掲げて戦いますか?
バルバリッチ: まずは目の前の試合に勝つことですね。ひとつ勝たないことには選手たちも自信を取り戻せません。それに我々には毎試合、熱い応援をしてくれるサポーターがいます。これに応える責任を果たさなくてはなりません。私は正直、こんなに負けても温かく応援してくださるサポーターの皆さんには申し訳ない気持ちでいっぱいです。本来なら皆さんの前に出るのも恥ずかしいですし、まともに目も合わせられないような成績だと思っています。
 そしてクラブとして、今季の悔しい経験を来年につなげるため、主力の選手たちが引き続きプレーしてくれるように努力してほしいと願っています。毎年、活躍した選手が抜けてしまっては、なかなかJ1昇格を狙えるチームづくりは難しいものです。なぜ今季、結果を出せなかったのかという答えは私なりにはっきりとしています。その問題点をひとつひとつクリアできるようにこれからも頑張ります。

イヴィッツア・バルバリッチ プロフィール>:愛媛FC監督
1962年2月23日、ユーゴスラビア(現クロアチア)・メトコヴィチ出身。現役時代はボランチ、DFと守備的な位置で活躍。スペインリーグ1部のブルコスCFなどで中心選手として17年間プレーした。旧ユーゴスラビア代表にも選出され、元日本代表イビチャ・オシム監督の下、ドラガン・ストイコヴィッチ(現J1名古屋監督)らとともに88年のソウル五輪に出場。引退後はスペイン・アルメーリアCFコーチを皮切りに ボスニア・ヘルツェゴビナリーグのNKシロキ・ブリェーグ監督、ボスニア・ヘルツェゴビナ代表コーチなどを務めた。NKシロキ・ブリェーグではチームを1度の国内リーグ優勝及び2度のカップ戦準優勝に導いている。09年9月より愛媛FC監督に就任。今季が4年目の指揮となる。

(聞き手:石田洋之)