二宮: 昨年のロンドンオリンピック・パラリンピックでは、ボランティアの人たちを「ゲームズメーカー」と呼んでいたそうです。つまり、国や委員会の人たちに任せるのではなく、国民、市民も意識を共有し、参加することで一緒につくっていくんだということの表れですよね。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでも、ぜひ同じような発想をもってほしいと思います。

宮澤: 主体的にオリンピック・パラリンピックに関わることによって、共通理解が生まれます。それが障害の有無に関係なく、共に生きるということにもつながるはずです。そういう意味でも、ゲームズメーカーという考え方は非常にいいですね。

 

二宮: ゲームズメーカーのミッションをひと言で言うと、「困っている人がいたら相談に乗りますよ。どうぞ、いつでも声をかけてくださいね」ということだと思うんです。

伊藤: まさに、おもてなしですね。

 

二宮: ところが、例えば08年の北京大会では自分の担当以外のことはしない、ということもありました。会場やトイレの道を聞いても、「私は通訳ですから」「私は警備が仕事ですから」と。せっかく海外から来たお客さんたちに対して、自分たちの国や都市が開くオリンピック・パラリンピックを楽しんでもらおうという気持ちが薄かったように感じられました。

 

伊藤: ロンドンでは、絶対にそんなことはありませんでしたよ。それどころか、私が「この会場にはどうやって行ったらいいですか?」と訊ねたら、「ついていらっしゃい」と言って、私一人のために動いてくれたんです。これには驚きました。

宮澤: 訪れる人たちは「この国は、どういうおもてなしをしてくれるんだろう」という思いを抱いているはずです。そういう意味では、おそらく日本には期待している人たちが大勢いるでしょうね。

伊藤: その期待に応える準備を今からしていかなければなりませんね。

 

 生み出される主体性

 

二宮: 7年後、どういう選手が出てくるのかということが注目されていますが、一方でゲームズメーカーにおいても、今の小学生、中学生、高校生たちに参加してもらいたい。

宮澤: この間、うちの学園に通う小学生に「2020年の東京オリンピック・パラリンピックの時には、君たちは大学生になっているだろうから、ボランティアに参加してよね」と言ったら、みんな元気よく「やりまぁす!」と答えてくれたんです。改めて子どもたちがオリンピック・パラリンピックに関心を抱いていて、大きな影響を受けているんだなということがわかりました。特にうちの学園に通う子どもたちは、独特な距離感を持って、人や社会と接している。そういう子どもたちが、率先してボランティアをやろうとしているわけですから、オリンピック・パラリンピック効果の偉大さを痛感しましたね。

 

伊藤: オリンピック・パラリンピックは、教育現場においても、大きな力を持っているんですね。

宮澤: そうなんです。単に興味を持つだけでなく、自分たちが主体的に参加しようという気持ちを起こさせている。子どもたちのワクワクした顔を見ていると、オリンピック・パラリンピックが人に与える影響の大きさを感じずにはいられません。

 

(第4回につづく)

 

宮澤保夫(みやざわ・やすお)プロフィール>
1949年生まれ。1972年に生徒2人の学習塾を開いて以来、教育界に革命を起こし、子ども達のために必要な学びの場を作り続けている。1985年に日本初の企業外にある技能連携校「宮澤学園」(現 星槎学園)を設立。1999年以降、不登校や発達の問題を抱える子どもたちも受け入れられる日本初の学習センター方式を採用し、登校日数を自分の状況で決められる登校型広域通信制高校や、特区を用いた教育課程を弾力的に運用できる中学校や高校を開校。2004年には通信制大学「星槎大学」、2013年には大学院を開設するなど、保育園・幼稚園、中学校から大学院を有する星槎グループを創設。2010年には、困難な環境にある国内外の子どもたちを、主に教育と医療の分野でサポートする「世界こども財団」を設立。


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