(写真:100マイル以上の豪速球を持つ怪童シンダーガードは今季サイ・ヤング賞候補にも挙げられる Photo By Gemini Keez)

(写真:100マイル以上の豪速球を持つ怪童シンダーガードは今季サイ・ヤング賞候補にも挙げられる Photo By Gemini Keez)

「今のニューヨークはメッツの街なんだ」

 いつも勝気なノア・シンダーガードが大胆にもそう語っていた通り、近年のニューヨークではヤンキースよりもメッツの存在感が目立つのは事実だ。

 

 ヤンキースが意外な再建体制に突入したのに対し、メッツは過去2年連続でプレーオフ進出。デレック・ジーター、アレックス・ロドリゲスなどがいた全盛期を思い出せば信じられないことだが、市内の支持率もすでにメッツが上回ったというデータが話題になっている。

 

 迎えた2017年、前評判が良いのも断然メッツの方。この躍進の主要因となっているのが、リーグ最高級の先発投手陣である。

 

 昨季14勝(防御率2.60)のシンダーガード、一昨年に13勝(同2.71)のマット・ハービー、14勝(同2.54)のジェイコブ・デグロムという本格派揃いの3本柱は魅力たっぷり。速球は常時94~96マイルを計測する大型左腕スティーンブ・マッツが続き、トミー・ジョン手術で過去2年を棒に振ったザック・ウィーラーもついに復帰してくる。

 

(写真:昨季はケガで低迷したハービーだが、現地4月6日の今季初登板では7回途中まで好投して勝ち投手。復活気配を感じさせる Photo By Gemini Keez)

(写真:昨季はケガで低迷したハービーだが、現地4月6日の今季初登板では7回途中まで好投して勝ち投手。復活気配を感じさせる Photo By Gemini Keez)

 加えて昨季後半に8試合に先発して防御率2.42を残したロバート・グセルマン、今春のワールドベースボール・クラシックではプエルトリコ代表のエースとして活躍したセス・ルーゴも控える。この7人はすべてローテーションに入ってしかるべきの投手であり、先発陣の層の厚さは球界全体の垂涎の的だ。

 

 投のメッツ、打のカブス。一時代を築くのは?

 

「メッツ投手陣の才能は誰も無視できない。エース級のタレントが5人も揃っているからね。様々なことがすべて良い方向に行った場合、史上最高級の先発ローテーションが生まれるかもしれない」

 ナ・リーグの某チームのスカウトがそう述べていたが、これほどの好投手が毎日のように観れるのはファンにとっても楽しみだろう。そして、今季に3年連続でポストシーズンに進むとすれば、やはり先発ローテーションの力が必要になることは間違いないはずである。

 

 ただ、実は今季開幕前後の時点で、マッツとルーゴがそれぞれ肘のケガですでに離脱してしまった。故障した2人は6月くらいまで復帰できないとのことで、意外にも早い時期にチーム内最大の武器が手薄になった。

 

(写真:素質は高く評価されるが、故障癖が解消できないマッツ。復帰登板はいつになるか Photo By Gemini Keez)

(写真:素質は高く評価されるが、故障癖が解消できないマッツ。復帰登板はいつになるか Photo By Gemini Keez)

「ローテーションのほぼすべての投手に言えることだが、私たちはそれぞれのパフォーマンス、投球回数、球数を注意深く見守っていかなければいけない」

 マッツ、ルーゴのケガが発覚したあと、テリー・コリンズ監督は言葉を選ぶように述べていた。実際にデグロム、ハービー、ウィーラー、マッツはすべてトミー・ジョン手術の経験者で、昨季も1年通じて活躍できたのはシンダーガードだけ。そんな背景を考えれば、今季中も多少の故障発生は予想できたことだった。コリンズの言葉通り、今後も状況に応じた起用法が必要になってくるだろう。

 

 投手力を中心としたチーム作りのリスクがここに見えてくるようでもある。

“野手のタレントを数多く揃えるシカゴ・カブスと、若手好投手が多いメッツ。一時代を築く可能性が高いのはどちらか”。そんな問いの答えとして、やはり昨季世界一に輝いたカブスの方を選ぶメディア関係者が多い。理由はといえば、一般的にピッチャーの方がケガのリスクが大きいからである。

 

(写真:エース候補の一人ウィーラーは、現地4月7日のマーリンズ戦で復帰登板を飾る Photo By Gemini Keez)

(写真:エース候補の一人ウィーラーは、現地4月7日のマーリンズ戦で復帰登板を飾る Photo By Gemini Keez)

 好投手と強打者の対戦では大抵の場合ピッチャーに軍配が上がるもので、2015年のプレーオフでメッツがカブスに4連勝したのは偶然とは思えない。今季も昨季王者との直接対決では、メッツの勝機は十分だろう。

 

 不安材料はケガによる離脱

 

 ただ、長いシーズンを通じ、本格派ローテーションがコンディションを維持していくのは容易ではない。そう考えると、強力投手陣はメッツの最大の武器であり、同時に最大の懸念材料でもあるという見方もできるのかもしれない。

 

 ブレーブスとの開幕シリーズではシンダーガード、デグロム、ハービーの3本柱が合計18回2/3で2失点のみと好投し、2勝1敗と好スタートを切った。このように主戦投手がコンスタントにマウンドに上がる限り、安定して勝ち続けるだろう。メッツのタレントたちはそれだけの力を持っている。 

 

 大事な秋までハイレベルの力を維持できれば、3年連続のプレーオフ進出も有望。その頃には、ニューヨークは本当にメッツ色に染まっているかもしれない。しかし、そんな青写真通りには運ばず、マッツ、ルーゴに加え、あと1、2人のケガ人が出たときには?

 

(写真:ツーシームのキレが生命線のデグロム。5日のブレーブス戦では6回無失点と好スタートを切った Photo By Gemini Keez)

(写真:ツーシームのキレが生命線のデグロム。5日のブレーブス戦では6回無失点と好スタートを切った Photo By Gemini Keez)

「(昨季は故障者続出の中で)ルーゴが凄い仕事をやってくれた。今度は彼とスティーブン(・マッツ)が離脱したのだから、僕たちがチームを支え、チームを勝利に近づけ続けなければいけないんだ」

 デグロムがそう決意を語っていたが、今後は故障者を最小限に抑え、プレーオフの時期に投手陣全体が照準を合わせていくのがマスタープランになる。それが叶うかどうかが、2017年のメッツの命運を左右するのだろう。 

 

 サンディ・アルダーソンGMの指揮下、長い時間をかけて丹念に現在のロースターを編み上げてきた“ニューヨークのもう1つのチーム”。いよいよ最高の答えを出し、大都会を騒がせるべき時がやってきた。今年を収穫の季節とするために、先発投手陣の投球内容だけでなく、良好なコンディションでマウンドに立てるかどうかに注目が集まりそうである。 

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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