空手の新極真会で新たな日本のスターが誕生しようとしている。この23日で23歳になる島本雄二だ。昨年10月に開催された全日本空手道選手権大会では、4つ年上の兄・一二三との兄弟対決を制し、初の頂点に立った。新極真会では全世界選手権を2度優勝するなど長年、第一人者として君臨してきた塚本徳臣が一昨年限りで引退。島本には新時代の旗手としての期待がかかる。当面は4月にリトアニアで開かれるカラテワールドカップでの優勝が目標だ。さらなる強さを求めて精進する若き空手家に二宮清純がインタビューした。
(写真:「空手は一生やめるつもりはない」と力強く語る)
二宮: 全日本大会、優勝おめでとうございます。塚本選手が引退し、昨年の大会は世代交代を意識する部分もあったのでしょうか?
島本: それは、ずっと意識していました。本来は塚本選手や塚越孝行選手といった先輩方が元気なうちに世代交代をしたかったんです。昨年の全世界大会がそのチャンスだったんですけど、まだまだ力不足でしたね。

二宮: 一昨年の全世界大会は優勝候補の一角だったヴァレリー・ ディミトロフ(ブルガリア)を5回戦で破ったものの7位でした。この大会は塚本選手が世界チャンピオンに輝き、有終の美を飾っています。塚本選手と対戦したい気持ちもあったでしょう?
島本: そうですね。最後に勝ちたかったです。塚本選手とは4年前の全日本大会で1度対戦しただけです。判定負けでしたが、立った瞬間に正直、怖いと思わせる雰囲気がありました。あんな経験をしたのは後にも先にも1度だけですね。

二宮: 怖いというのは、それだけオーラを感じたと?
島本: 中に入ったら倒されてしまうんじゃないか。そんな気がしました。中に入るとヒザ蹴りが飛んできて、ものすごい痛い。他の選手とは違って鋭角に突き刺さるような感じなんです。塚本選手は自分の間合いをしっかり持っていました。制空権と言いかえればいいんでしょうか。ここから先には入らせないというものをしっかりつくっていましたね。

二宮: 距離感をつかむのが巧みだからこそ、外国の強敵も次々と倒してきたんでしょうね。
島本: 実際に戦ってみて、そういった制空権を握れば相手が嫌がると学びました。これは本当に貴重な経験でした。ただ、試合が終わって勇気を持って中に飛び込めなかった自分の心が情けなくも感じました。その点は悔しい試合になりましたね。

二宮: 蹴りといえばヴァレリーもものすごい破壊力だと言われていますが、島本さんは先程紹介したように勝利を収めています。
島本: 塚本さんのヒザ蹴りをくらっていたから、ヴァレリー選手の蹴りは、それほど強いと感じませんでした。塚本選手のは骨が折れたような感覚でしたから、それと比べれば痛くなかったです。

二宮: そのヴァレリーやドナタス・イムブラス(リトアニア)といった強豪も出場予定のカラテワールドカップが4月に控えています。
島本: 海外の選手は日本人では考えられないような体格をしていますね。だからこそ、やりがいもあります。大きい選手が勝つんじゃないかと思わせておいて、僕のような小さい選手が倒したらかっこいいでしょう。そこが空手の魅力だと思います。

二宮: 海外での試合だとアウェーの洗礼を浴びることもあるでしょう?
島本: はい。日本人が出てきたらブーイングが出たり、審判のジャッジで損をすることもある。でも僕ら若い選手は、世界大会の経験が少ない分、怖いものなしで臨めるとも思うんです。ブーイングも審判のジャッジも関係ない。

二宮: 全日本チャンピオンとして世界でも結果を残したいところですね。
島本: 今までは世界で試合をすること自体がうれしかったですけど、今回は絶対にそういうわけにはいかない。チャンピオンとして負けは許されません。ただ、あまり気負い過ぎず、いいプレッシャーと捉えて頑張ります。

二宮: 空手は将来の五輪競技入りも狙っています。日本のエースとして好成績を収め、空手の魅力を多くの人に伝える役割も求められていますね。
島本: 日本のエースと呼ばれるには、まだまだです。でも、そのくらいの気持ちを持って戦うことは必要ですよね。空手は武道ですから、体はもちろん、礼儀作法などを通じて心も磨かれる。その点が素晴らしい部分だと感じています。世界チャンピオンになることに加えて、あらゆる格闘技の中で空手が強い、新極真会が強いと思ってもらえるように引っ張っていきたい。それが最終的な目標ですね。

<1月20日発売の小学館『ビッグコミックオリジナル』(2013年2月5日号)に島本選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>