19日、第91回全国高校サッカー選手権大会決勝が東京・国立競技場で行われ、鵬翔(宮崎)がPK戦の末に京都橘を下し、初優勝を飾った。試合は1−1で迎えた後半19分、京都橘がFW仙頭啓矢のゴールで勝ち越す。しかし38分、鵬翔がMF矢野大樹(3年)のPK弾で追いつき延長へ。そこでも決着がつかずに迎えたPK戦で京都橘がひとり外したのに対し、鵬翔は5人すべてが成功。宮崎県勢として初の全国制覇を成し遂げた。

  PK戦に強い鵬翔、今大会4度目も制す(国立)
鵬翔 2−2 京都橘
  (PK−3)
【得点】
[鵬]  芳川隼登(49分)、矢野大樹(83分)
[京]  林大樹(41分)、仙頭啓矢(64分)
“粘りの鵬翔”らしい勝利だった。2度、ビハインドを背負いながらも、選手たちがお互いを鼓舞して追いついた。今大会4度目となるPK戦では、キッカー5人全員が成功させる勝負強さを見せた。

 序盤は鵬翔がボールを支配した。相手の裏へボールを送り、スピードのあるFW北村知也(1年)を走らせる。背番号10をつけた1年生は、ボールを受けると積極的に仕掛ける溌剌プレーでゴールを狙った。23分、PAでパスを受け、右足でシュート。これは京都橘DFにクリアされたものの、いいかたちをつくった。

 一方、守りでは決勝まで合わせて9得点のFW小屋松知哉(2年)とFW仙頭の強力2トップに苦しんだ。9分、小屋松に左サイドを突破され、折り返しをMF宮吉悠太(2年)に押し込まれた。28分には、仙頭にPA内右からシュートを許した。いずれもGK浅田卓人(3年)が防いだものの、流れは相手に傾いていた。

 すると42分、ついにゴールを奪われる。右サイドからのクロスのこぼれ球をPA内中央にいたDF林大樹(1年)に右足を振り抜かれる。浅田は反応して体に当てたものの、ボールはゴールラインを越えた。前半終了間際にゴールを許す嫌なかたちで試合を折り返した。

「(失点は)GKが止めたところをプッシュされたもの。気にするな。1点取れれば、2点、3点いけるぞ」
 ハーフタイムで、鵬翔・松崎博美監督は選手たちにこう語りかけたという。そして、後半開始から高速ドリブルが武器のFW中濱健太(3年)を投入。中濱は昨年12月に受けた左ヒザ手術の影響でここまで本調子ではなかった。しかし、松崎監督は「相手の背後を突くにはスピードのある選手が必要」と判断。中濱には「行ってこい」とだけ指示した。

 すると、この采配が的中する。後半3分、中濱が得意のスピードに乗ったドリブルで左サイドを突破し、CKを獲得。このCKから同点ゴールが生まれたのだ。DF芳川隼登(2年)がMF小原裕哉(2年)のキックを、GKの前で頭で合わせ、ゴール右隅へ流し込んだ。

 同点の勢いに乗って攻める鵬翔だが、19分、京都橘の速攻から勝ち越しゴールを許す。小屋松にPA内左サイドへ抜け出され、折り返しを仙頭に右足で押し込まれた。再び背負ったビハインド。それでも、鵬翔に下を向く選手はおらず、これまで以上に激しくボールを追っていく。

「(準決勝の)星稜(石川)戦も同じ展開だったので、絶対追いつけると思っていた」
 こう明かしたのはキャプテンの矢野だ。失点直後、ボランチの位置から味方を鼓舞した。すると39分、矢野が魅せる。右サイドでパスを受けると逆サイドのDF日高献盛(3年)へ。日高はドリブルで仕掛けてPA内左サイドへ侵入すると、相手DFに倒されPKを獲得。これを矢野が豪快にゴール左上へ叩き込んだ。外せば優勝が遠のく重圧のかかる場面で見事、大仕事をやってのけた。

 試合は前後半各10分間の延長戦へ突入したが、ともに勝ち越し点を奪えない。結局、勝敗の行方は04年度大会以来となるPK戦にもつれ込んだ。鵬翔は今大会4回目のPK戦となった。

 先攻・鵬翔の1人目の矢野は右足を振り抜き、ゴール左上へ沈めた。同点PKを再現するようなキックで、難しいトップバッターの重責を果たした。対する京都橘の1人目・仙頭の右足シュートはゴール右へ。GK浅田は逆を突かれたものの、シュートは右ポストを直撃。大会得点王のまさかの失敗に、国立競技場がどよめきに包まれた。

 リードした鵬翔は2人目以降も成功し、最後はGK浅田がゴール左下へ。優勝の瞬間、ベンチ前の松崎監督は両手を天に突き上げた。

「(今日の試合は)子供たちにも“国立で楽しもう”と話していたが、諦めず、点を取られても追いつき、笑顔が素晴らしい試合だった。たくましい子供たちを持って本当に幸せ」
 松崎監督は感無量という表情で試合を振り返った。今大会で記録した4回のPK戦勝利は、選手権が首都圏開催となって史上初めて。その強さを問われた指揮官は「子供たちが気持ちの強いPKをずっとやってくれた。それが最後まで良かったんじゃないかなと思う」とイレブンの精神面の強さを称えた。

 そのなかでひと際存在感を示したのが矢野である。値千金の同点弾を決め、PK戦前には「夏の合宿のほうがきつかったぞ。こっち(PK戦)のほうが楽しいし、頑張れるぞ」と味方を奮い立たせた。どんな時でもチームを引っ張るリーダーに松崎監督も「精神的な柱」と賛辞を惜しまなかった。
 
 苦境に追い込まれても折れない精神力と、PK戦という極限状態での勝負強さ。2つの翼を備えた鵬翔が、全国4175校の頂点へと羽ばたいた。