ボクシングのダブル世界タイトルマッチが8日、大阪・ボディメーカーコロシアムで行われ、WBA世界ライトフライ級は王者の井岡一翔(井岡)が、同級2位の挑戦者ウィサヌ・ゴーキャットジム(タイ)を9R2分51秒KOで下し、初防衛を果たした。井岡はプロで無傷の12連勝。世界戦ではミニマム級も含めて6試合中4度目のKO勝利となった。WBA世界ミニマム級では王者の宮崎亮(井岡)が同級7位の挑戦者カルロス・ベラルデ(メキシコ)を5R2分22秒TKOで破り、同じく初防衛に成功した。
<井岡、「伝説のボクサーに」>

 左を顔面に当てつつ、2度、右の拳で挑戦者のストマックを突き上げた。飛び上がって倒れたウィサヌ。苦悶の表情を浮かべたまま、起き上がることはできなかった。
「最後の手応えは正直なかった。でも、それまでで効いていたのは分かった。
 若き王者の強さを天下に改めて知らしめたKO劇だった。

 井岡にとってはミニマム級のベルトを獲ったオーレイドン・シスサマーチャイ(タイ)以来、2年ぶりのサウスポーとの対戦になる。「プレッシャーも若干あった」と王者は明かす。しかし、試合中、やりにくさを見せたシーンは全くなかった。

 左ボディを軸に打ってくる相手のパンチを序盤で見切った。3Rあたりからプレッシャーをかけつつ、右ストレートを当てていく。4Rにはボディからワンツーを叩きこみ、ウィサヌの足を止めた。スピーディーな左ジャブも次々とヒットし、完全に主導権を握った。

 手詰まりになった挑戦者に対し、王者は冷静に相手の体力を削りにいく。休むことなくパンチを繰り出し、5Rには左アッパーでウィサヌの上体を浮かせた。6Rは一転して右をジャブのように突き出し、右から左、左から右と多彩な攻めでタイ人を圧倒する。距離を詰め、スキあらば、いつでも倒せる準備は整っていた。

 ただ、決して深追いはせず、リスクは負わない。一発逆転を狙ったウィサヌが時折、振りまわしてくる左をがっちりとガードし、有効打を与えなかった。被弾して赤く染まる挑戦者の顔に対し、井岡の表情は平静そのもの。完璧に勝ち切る。そんな強い意思が伝わってくる内容だった。

 試合後、本人は「ウィサヌはディフェンスに徹するうまいボクサー、手こずってしまった」と反省を口にしたが、途中から明らかにKOを狙った戦いぶりで、確実に仕留めきったのは実力者の証だ。同じくベルトを守り、階級を上げる見込みの宮崎にライトフライ級を譲り、いよいよ3階級制覇を狙う道も見えてきた。

「目指すところはまだまだある。複数階級(制覇)もあるが、伝説のボクサーになりたい」
 夢は日本人が誰もなしえていない4階級制覇だ。井岡の伝説は、まだ始まったばかりである。

<宮崎、左一発! 打ち合い制す>

 鮮やかな左が挑戦者のアゴを打ちぬいた。両者、互角の打ち合いを演じて迎えた5R、右ストレートで相手の顔面をとらえると、続く左がクリーンヒット。ひっくり返って大の字でマットに横たわったベラルデを見て、レフェリーは即座に試合を止めた。

 立ち上がりから距離を詰めて拳を振るった。挑戦者は高いガードから左ボディ、アッパー、フックと攻め立てる。それに対して果敢にパンチを返した。2Rには相手の右ストレートがヒットして左まぶたを切ったが、受け身に回ることはなかった。

「(セコンドからは)付き合うなと怒られてばかりだったけど、初防衛ということで熱くなりました」
 3Rは宮崎が左アッパーからの連打で挑戦者の足を止めれば、ベラルデも左右のフックで王者を後退させる。一発当てれば、一発返す。一歩も譲らない攻防がリング上で繰り広げられた。

 KO劇の伏線となったのは5Rから宮崎がうまく距離を取り始めたことだ。ガードをわざと下げ、足を使いながら、自らのパンチが当たる位置にベラルデを誘い込む。五分五分の打ち合いから本来のスタイルに戻す作戦が見事に当たった。

 もともとの階級はひとつ上のライトフライ級。10キロ以上の減量を強いられ、初の世界挑戦となったポンサワン・ポープラムック(タイ)戦は2−1と僅差の判定での戴冠だった。今回は文句なしの勝利だ。今後はベルトを返上して2階級制覇に挑戦するプランもある。井岡と宮崎――同じジム、同じ24歳の若武者が日本ボクシング界をさらに盛り上げる。