東京国際大学駅伝部の渡邊和也は異色のランナーだ。1987年7月生まれの30歳。2011年には世界陸上競技選手権に出場し、日の丸を背負った経験もある。今年4月より東京国際大に入学した渡邊は“オールドルーキー”として注目を集めている。

 

「10位、東京国際大学」

 係員から10番目に校名を呼ばれた瞬間、東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)出場決定を意味した。渡邊も歓喜の輪の中で喜びを爆発させ、思い切り叫んでいた。「(あれほど喜んだことは)個人では1度ありましたが、チームでは1度もない」。東京国際大にとって2年ぶりの箱根とはいえ、出場自体も2度目である。創部7年目の新興校だ。「みんなでやってきた達成感はありました」と喜びもひとしおだった。

 

 その箱根駅伝予選会の舞台は東京都立川市。陸上自衛隊立川駐屯地をスタートし、立川市街地を走り、国営昭和記念公園内のゴールを目指す。合計20キロのロードレース。各校上位10名の合計タイムで競い、上位10校までが本戦への出場権を獲得できる。昨年の東京国際大は15位。初出場の前年に続く箱根行きの切符を手にできなかった。今年も大幅な戦力アップはしておらず、当落線上にいた。

 

 不安を抱えながらのレース

 

「(低評価を)見返してやりたい気持ちはもちろんありました。昨年落ちていたので、皆で危機感を持って戦えた」と渡邊。予選会に参加した彼のタイムは1時間1分30秒。チーム9番目、全体で139位だった。留学生が引っ張る第1集団には付かず、序盤は第3集団に位置した。15kmまでは想定通りのラップを刻んだが、終盤に落ちた。苦悶の表情を浮かべながら、振り絞るようにゴールまで駆け抜けた。

「納得はいっていません。万全ではなかったとはいえ、ラスト5kmの落ち込みが大きかった。そこは反省すべき点です」

 

 一方で東京国際大駅伝部の大志田秀次監督は彼の走りをこう評価している。

「まだ大学に入ってからのレースは2回目でした。どれだけ彼が耐えられるか。先を考え、突っ込んでいかなきゃいけない時の動きを見たかったんです。そのチェックができて、本人も課題を理解している。今は伸びなかった5kmの修正はできてきています」

 

 レース前の不安要素は少なくなかった。渡邊は実業団時代と東京国際大入学後に負ったケガの影響で、まだ身体を戻している途中段階。コンディションが良いとは言えなかった。そもそも20kmという距離自体、公式戦では経験したことのない距離だった。「距離に対する不安は拭えませんでした。後半の走りは自分でも予想できなかった。『絶好調です!』と言えるほどの状況ではなかったです」。それでも最後まで走り抜いてみせ、東京国際大の箱根駅伝出場に少なからず貢献した。

 

 振り絞るスパートが武器

 

 大志田監督は渡邊の長所を「最後まで出し切って終われる。いっぱいになってからも力を振り絞れる能力は高いです」と口にする。01年の創部から指導を任されている大志田監督は「練習でのひた向きに取り組む姿勢は他の学生たちにも、いい影響を与えていると思います」と、30歳の“オールドルーキー”の加入を歓迎している。

 

 元々、渡邊の武器はラストスパート。本人も「最後まで付いていきさえすれば、勝てる自信はありました」という切れ味鋭い差し脚だ。負けず嫌いの性格もあり、「きついところでも、もう1段階ギアを上げられる」という。「最近はあまりないんです」と苦笑しつつ、現在はそのストロングポイントをメンテナンス中といったところだ。

 

 1500mの自己ベストは日本歴代2位、5000mは同12位だ。2011年には日本選手権で5000mを制し、世界選手権も出場した。これだけの実績を持つ渡邊がなぜ東京国際大学を選んだのか。それは報徳学園時代から描いていた「指導者になりたい」という夢があったからだ。セカンドキャリアを考えての“進学”だが、選手としての道を諦めているわけではない。箱根駅伝の好走をステップに再び日本代表に返り咲くことを睨んでいる。

 

 父・光治によれば、「夢中になったらとことんやるタイプ」という渡邊の性格。陸上を始めたのは中学1年からと早くはない。それでも人生の半分以上の年数を陸上に費やしてきた。小学生時はサッカー少年。だが、陸上への転向は決して前向きなものではなかった。

 

(第2回につづく)

 

渡邊和也(わたなべ・かずや)プロフィール>

1987年7月7日、兵庫県生まれ。中学1年で陸上を始める。報徳学園高を卒業後、2006年に山陽特殊製鋼に入社。10年に四国電力、13年に日清食品グループへ移籍した。08年5月に1500mで日本歴代2位の3分38秒11をマーク。11年6月には5000mで日本選手権初優勝を果たす。同年の世界選手権に出場。今年4月より東京国際大学に入学した。身長172cm、体重54kg。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 


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