28日(現地時間)、世界水泳選手権バルセロナ大会の競泳初日を迎えた。男子400メートル自由形決勝は、日本選手権5冠の萩野公介(東洋大)が3分44秒82の日本新記録で銀メダルを獲得した。日本代表は男女の400メートルリレーでダブル入賞。世界水泳初の決勝進出を果たした男子は8位入賞、女子は2大会連続で7位に入った。男子100メートル平泳ぎでは、北島康介(日本コカ・コーラ)が準決勝全体8位で決勝進出。山口観弘(東洋大)は予選敗退に終わった。
 新エースがメダル第1号

 昨夏のロンドン五輪で史上最多の11個のメダルを奪取した“トビウオジャパン”(競泳日本代表)。3年後のリオデジャネイロ五輪に向けた新生チームのエース・萩野が初日から見せた。

 高校3年でロンドン五輪に出場し、400メートル個人メドレーで銅メダリストなった萩野。4月の日本選手権では史上最多の5冠を達成し、今大会は個人6種目にエントリーしているマルチスイマーだ。

 萩野は午前に行なわれた予選を全体4位で通過した。迎えた決勝、最初の50メートルはトップと0秒04差の2位でターンした。この種目の大本命のロンドン五輪400メートル、1500メートル自由形の金メダリスト・孫楊(中国)は50メートルを通過した時点で3番手。地力を発揮し、そこから一気に抜け出すと、レースはほぼ彼の独壇場となった。

 追いかける萩野は150メートルのターンでは7番手に落ちていた。それでもコナー・イエーガー(米国)、ライアン・コクラン(カナダ)ら2位以下は団子状態。今大会はロンドンの銀と銅メダリストに加え、世界記録保持者も不在だった。メダル獲得のチャンスは十分にある。「隣のコクラン選手に勝てばメダルだと思って、一生懸命頑張った」と、徐々に順位をあげ4位浮上。ラスト50メートルでスパートをかけた。

 ラスト50メートル。ドルフィンキックでコクランをとえらると、イエーガーを土壇場で逆転。その差はわずか0秒03だった。優勝した孫には3秒以上離されたが、3分44秒82の日本新で2位に入り、銀メダルを獲得した。五輪、世界水泳のメジャー大会で400メートル自由形のメダリストは、1960年ローマ五輪の山中毅(銀)以来。53年ぶりの快挙にもガッツポーズはなく、本人は「銀メダルはうれしいですけど、あまり納得のできるタイムではない」と満足はしていない。

 ただ今大会のメダル第1号は、チームにも自らにもいい弾みとなったはずだ。「まずひとつと考えて、これからのバルセロナを楽しみたい」と萩野。トビウオジャパン、18歳の新エースが刻む伝説は、まだ序章に過ぎない。

 自由形の“常識”を覆せ

 400メートルフリーリレーでは、男女ともに入賞を果たした。男子は北京五輪、世界水泳の上海大会で予選落ち。ロンドン五輪では出場すらかなわなかった。塩浦慎理(中央大)、小長谷研二(コパンSS)、藤井拓郎(コナミ)、伊藤健太(ミキハウス)のメンバー編成で、巻き返しを狙う日本代表は予選で3分15秒46のタイムをマークした。9位のベルギーとは0.06秒差で全体の8位で突破し、世界水泳で日本史上初、五輪を含めると68年のメキシコシティ大会以来のファイナル進出を決めた。

 決勝では3分14秒75と、日本記録にあと100分の2秒に迫った。最下位に終わったが、大舞台での決勝を経験できたことは大きい。「こんなに盛り上がっているところで泳いだのは初めて」と、第1泳者の塩浦は喜びを噛みしめた。五輪のメドレーリレーで2つのメダルを獲得している藤井は「今後につながると思う。ただ、戦うとなると、個々のレベルアップが必要」と語った。最終順位はフランス、米国、ロシアとつづき、ロンドン五輪と同じ結果となった。前回大会優勝のオーストラリアは、4位で表彰台を逃した。

 男子と同じく8位で予選を通過した女子は、前回の上海大会、ロンドン五輪で7位入賞している。上田春佳(キッコーマン)、山口美咲(イトマンSS)、内田美希(東洋大)、松本弥生(日本体育大大学院)のスプリンターたちが世界に挑んだ。

 日本はアンカーの松本にタッチした時点で最下位だった。だが松本は「“男気を見せなければ”と思っていた」と意地を見せ、ドイツを抜いた。世界大会3大会連続の7位入賞とはなったものの、メンバーが浮かれることはない。ロンドンのメンバーだった上田は、この種目において日本の第一人者。トップバッターで泳いだが、メンバーで唯一の55秒台と、いい波をつくれなかった。「自分のせい」と、出遅れた自らを責めた。高校生でロンドンに出場した内田は「日本新記録が出なかったので悔しい」と話し、次期エースとしての気概をのぞかせた。

 一方、レースは米国がオーストラリアとマッチレースを展開し、アンカー対決で逆転して優勝。400メートルリレーでは、10年前のバルセロナ大会以来の金メダルを獲得した。

“水の怪物”マイケル・フェルプス(米国)のように複数種目に挑戦し、結果を残す萩野はこれまでの日本の常識を覆そうとしている。ただ“常識”に挑むのは萩野だけではない。自由形の短距離種目で勝負できない――。この日本の“常識”を覆すためにも、男女のリレー入賞の経験を個人種目につなげたい。

 主な結果は次の通り。

<男子400メートル自由形・決勝>
1位 孫楊(中国) 3分41秒59
2位 萩野公介(東洋大) 3分44秒82 ※日本新
3位 コナー・イエーガ−(米国) 3分44秒85

<男子400メートルフリーリレー・決勝>
1位 フランス 3分11秒18
2位 米国  3分11秒42
3位 ロシア 3分11秒44
8位 日本 3分14秒75

<女子400メートル自由形・決勝>
1位 ケイティ・レデッキー(米国) 3分59秒82
2位 メラニー・コスタ・シュミッド(スペイン) 4分2秒47
3位 ローレン・ボイル(ニュージーランド) 4分3秒89
五十嵐千尋(横浜サクラSS)は予選落ち

<女子400メートルフリーリレー・決勝>
1位 米国 3分32秒31
2位 オーストラリア 3分32秒43
3位 オランダ 3分35秒77
7位 日本 3分39秒45

(杉浦泰介)