1日(現地時間)、世界水泳選手権バルセロナ大会の競泳5日目が行われ、男子200メートル個人メドレー決勝は萩野公介(東洋大)が1分56秒29のタイムで2位に入り、大会2個目の銀メダルを獲得した。優勝はライアン・ロクテ(米国)。1分54秒98で3連覇を達成した。瀬戸大也(JSS毛呂山)は7位だった。萩野は200メートル背泳ぎ準決勝にも出場。ロクテ、入江陵介(イトマン東進)とともに決勝へ進んだ。女子50メートル背泳ぎ決勝は寺川綾(ミズノ)が27秒53で3位。同種目2大会連続でメダルを獲得した。女子800メートルフリーリレー決勝で日本代表が8位、同200メートルバタフライ決勝では星奈津美(スウィン大教)が4位に入賞した。男子200メートル平泳ぎは、ロンドン五輪銅の立石諒(ミキハウス)、世界記録保持者の山口観弘(東洋大)が決勝進出。女子200メートル平泳ぎでは金藤理絵(JAKED)が決勝に進んだ一方で、鈴木聡美(ミキハウス山梨)は全体11位で準決勝敗退となった。
 王者に屈するも、史上初の快挙

 4月に日本選手権で史上初の5冠を達成した萩野が、また1つ史上初の勲章を手にした。
 男子200メートル個人メドレーで2位に入り、同種目で日本競泳史上初のメダリストとなった。

 この日、200メートル個人メドレーの決勝に出場した萩野にとって、最大の敵は前回上海大会5冠、この種目2連覇中のロクテだ。競泳大国が誇る世界のマルチスイマー。萩野も「決勝でいかに食らいついて行けるかが勝負」と語っていた。

 バタフライで泳ぐ最初の50メートルは、前半型のチアゴ・ペレイラ(ブラジル)がトップに立った。世界記録保持者であるロクテは0秒03差の2番手と好位置につけ、一方の日本記録保持者・萩野は7番手と後方だった。

 つづく背泳ぎでも1、2位は変わらず。追いかける萩野は3番手に順位を上げ、苦手の平泳ぎにつないだ。ロクテは平泳ぎで先頭に立つと、2位以下を突き放しにかかる。その差はみるみる開いていく一方だった。

 ラスト50メートル。萩野は自由形で前の2人に迫る。だが、その差は1秒以上ついていた。これまで最後のターンから、見事な追い上げを見せていた萩野。準決勝でも、1秒差を逆転している。今大会12レース目でも疲れを感じさせずスパートは健在だった。グングン差を縮め、最後はゴール板へのタッチ差でペレイラをとらえた。自己ベスト(1分55秒74)には届かなかったが、1分56秒29で2位に入った。

 わずか100分の1――。その差がメダルの色を分けた。萩野は銀メダルを獲得し、200メートル個人メドレーで日本人初の表彰台に上った。その快挙が色褪せることはないが、やはり王者は強かった。金メダルのロクテとの差は1秒31、体ひとつ分以上は離された。「ベストタイムよりはるかに速いタイムでロクテ選手は泳いでいた。まだまだ自分の実力不足」と萩野。ただ、このままで終わる気はさらさらない。「今度挑戦する時は、必ず勝てるように頑張る」と、“打倒ロクテ”を誓った。

“日本一多忙なスイマー”は、この約1時間10分後には、200メートル背泳ぎ準決勝に出場した。第2組で、再びロクテと同レースとなった。萩野は1分56秒24で全体5位に入り、「予選よりは軽く泳ぐことができて、タイムも良かった」と納得の様子。トップ通過のタイラー・クラリー(米国)、全体2位のロクテと、ともに決勝進出を果たした。また第1組に登場したロンドン五輪銀メダリストの入江は「いい状態になってきた。余裕を持って、まわりを見ながらレースができた」と、全体3位で準決勝を危なげなく通過した。

 萩野にとって、今大会5種目目の決勝には、ロンドン五輪の表彰台に上がったクラリー、入江、ロクテが立ちふさがる。18歳は明日に向け、「3強に挑んでいけるように頑張りたい」と抱負を語った。トビウオジャパンの新エースの泳ぎには、まだまだ目が離せなそうだ。

 明暗を分けたメダリスト

 女子50メートル背泳ぎ決勝では、寺川が銅メダルを獲得した。今大会2個目、同種目では前回の上海大会の銀に続く2大会連続のメダルだ。「中国選手が一歩抜けている」という50メートル背泳ぎ。寺川は第5レーン、世界記録保持者の趙菁と今季世界ランク1位のタイムを持つ傳園慧の中国勢に挟まれた。「この種目は最後までわからない。タッチまで気を抜かない」と臨んだレースだったが、中国勢の一騎打ちの展開。世界大会初の金メダルを目指し、寺川は後半追い上げたが、3位でフィニッシュした。

 16歳で初めて出場した世界水泳は、紆余曲折を経て、10年後に初のメダルを手に入れた。昨夏のロンドンでは、100メートル背泳ぎと400メートルメドレーリレーで2つの銅メダル、そして今大会も既に2つの勲章を首に掛けた。28歳と水泳選手としては、若くないがここ数年の安定感は円熟味を増している。本人も「ようやく自分が成長できたと感じることができたので、合格だと思います」と笑顔が弾けた。

 女子200メートルバタフライ決勝は、前回大会でわずか0秒01差に泣いた星がリベンジに燃えていた。上海ではメダルにあと一歩、いやあと指一本届かなった。ロンドン五輪では同種目で銅メダルを獲得し、自信もつけた。4月の日本選手権では2位に大差をつける圧勝で連覇。しかし、世界水泳ではまたしてもメダルが遠かった。2時間6分09と、今季のベストを出したが、0秒5差の4位。

「また2年前と同じ4番」と、悔しさもチラリと覗かせたが、「ただ今できる精一杯の力は出せた。悔いはないです」と潔かった。スピード強化を重点的に行い、今大会は積極的にいくレースを心掛け、実践した。50メートルの入りは、自らの日本記録より速いペースだった。ただ優勝した劉子歌(中国)には、このレースで1分50秒の差をつけられた。劉は前回大会で0秒01届かなかった相手だ。追いかける背中は、まだ遠いのかもしれない。だが星は悲観していない。「また新たな課題を克服していけたらなと思います」と、先をしっかり見据えていた。

 200メートル平泳ぎ準決勝では、金藤が全体5位で決勝にコマを進めた。同組で泳いだリケ・ペデルセン(デンマーク)は序盤から飛ばし、2分19秒11の世界記録を樹立した。先を行くペデルセンにペースを狂わされることなく、2分23秒28で、この組2位に入った。金藤自身は「ちょっと粘りが足りなかった」と反省。「追いていかれないように執着心を持って頑張りたい」と、決勝に向けて抱負を述べた。

 一方で、今季なかなか調子の上がらない鈴木は、つづく第2組に登場。このレースも2分25秒77と振るわなかった。レース前には恐怖心から泣いたという。ただ、スタート前には気持ちを切り替えて、出せる力を振り絞った。「これが今の私の泳ぎだな」と、現状を受け入れた。ロンドン五輪では、この種目は銀メダルを獲った。100メートル平泳ぎ、400メートルメドレーリレーの銅2個と合わせて、3個のメダルを掴み取り、ロンドンでは笑顔が輝いた。しかし、ここまでは涙のバルセロナとなっている。残す種目はメドレーリレー。鈴木は「今度はチームのために力を振り絞りたい」と語った。ロンドンで一躍脚光を浴びたヒロインは、最後に笑って、終われるか。

 求む、世界と伍する10代スイマー 

 女子800メートルフリーリレー決勝は、前回の上海大会、ロンドン五輪を制している米国代表が強さを見せつけた。2人の10代スイマーが牽引する。第1泳者のケイティ・レデッキーがトップで後続につなぐ理想的な展開。レデッキーは今大会400メートル、1500メートル自由形の2冠を達成し、1500メートルの決勝では驚異的な世界記録をマークしている16歳だ。

 つづく第2、3泳者は2位だったが、アンカーにはメリッサ・フランクリンが控えていた。トップのオーストラリアとは1秒以上の差が開いていたが、“ミサイル・ミッシー”の異名を持つ18歳には、全く問題はなかった。最初の50メートルで、ビハインドをほぼ帳消しにする。ターン後、オーストラリアのアンカーをぶち抜くと、どんどん差をつけていく。ターンを重ねるごとに、周囲のスイマーを引き離した。

 フランクリンは2位に1秒94差をつける圧勝で、連覇に貢献した。200メートルを1分54秒27で泳ぎ、決勝に出場した全32人中断トツのトップだった。フランクリンは今大会4個目の金メダルを獲得。前回の上海大会で3冠、昨夏のロンドン五輪では4冠を手にしている。競泳大国のゴールドコレクターが挑むのは、あと3種目。恐るべき18歳がいるのは、日本だけではない。

 五十嵐千尋(横浜サクラSS)、上田春佳(キッコーマン)、宮本靖子(東洋大)、高野綾(イトマンSS)のメンバーで挑んだ日本代表は3大会ぶりの決勝進出を果たしたが、最下位に終わった。ただ、エースの上田以外は10代でのびしろにも期待できる。第1泳者を務めた高校3年生の五十嵐は、今大会個人種目も含め、高校新を連発。「自分なりにベストが出せて良かった」と、このレースでも1分58秒41で泳ぎ、記録を更新した。日本男子には萩野らがいるが、世界でもトップで活躍する10代は多い。日本女子競泳陣にも、未来に光を射すような新星の誕生が待たれる。

 主な結果は次の通り。

<男子100メートル自由形・決勝>
1位 ジェームズ・マグナッセン(オーストラリア) 47秒71
2位 ジェームズ・フェイゲン(米国) 47秒82
3位 ネーサン・エイドリアン(米国) 47秒84
塩浦慎理(中央大)は準決勝、伊藤健太(ミキハウス)は予選敗退

<男子200メートル個人メドレー・決勝>
1位 ライアン・ロクテ(米国) 1分54秒98
2位 萩野公介(東洋大) 1分56秒29
3位 チアゴ・ペレイラ(ブラジル) 1分56秒30
7位 瀬戸大也(JSS毛呂山) 1分58秒45

<女子50メートル背泳ぎ・決勝>
1位 趙菁(中国) 27秒29
2位 傳園慧(中国) 27秒39
3位 寺川綾(ミズノ) 27秒53

<女子200メートルバタフライ・決勝>
1位 劉子歌(中国) 2分4秒59
2位 ミレイア・ベルモンテ(スペイン) 2分4秒79
3位 カティンカ・ホッスー(ハンガリー) 2分5秒59
4位 星奈津美(スウィン大教) 2分6秒09

<女子800メートルフリーリレー・決勝>
1位 米国 7分45秒14
2位 オーストラリア 7分47秒08
3位 フランス 7分48秒43
8位 日本(五十嵐、上田、宮本、高野) 7分58秒15

(杉浦泰介)