2日(現地時間)、世界水泳選手権バルセロナ大会の競泳6日目が行われ、男子200メートル背泳ぎ決勝はライアン・ロクテ(米国)が1分53秒79で連覇を達成した。一方、ロンドン五輪銀メダリストの入江陵介(イトマン東進)は4位、今大会2種目で銀メダルを獲得した萩野公介(東洋大)は5位で表彰台に上がれなかった。ロクテと萩野は800メートルフリーリレーにも出場。米国が7分1秒72で圧勝し、5連覇を達成した。ロクテは今大会3個目の金メダルを掴んだ。萩野は第1泳者として、日本の5位入賞に貢献した。男子200メートル平泳ぎは、ダニエル・ギュルタ(ハンガリー)、女子200メートル平泳ぎはユリア・エフィモア(ロシア)が優勝。日本勢は男子の山口観弘(東洋大)が7位、立石諒(ミキハウス)が8位、女子は金藤理絵(JAKED)が4位で入賞した。男子50メートル自由形では、塩浦慎理(中央大)が予選を日本新の22秒02で突破したものの、つづく準決勝は全体15位に終わり、決勝進出はならなかった。
 まさかの敗戦、進退にも言及

「ただただ、悔しいのみです。金メダルも獲れなかったし、メダルすら獲れなかった」。悲痛の面持ちで、背泳ぎのエースは語った。
 入江にとってローマ、上海と2大会連続で銀メダルを手にしている種目。昨夏のロンドン五輪でも、2位だった。周囲は期待し、入江自身も金メダルを渇望していた。今大会の100メートル背泳ぎでは、わずか100分の8秒差の4位。入江は「メダルを逃したことは戻ってこない」と受け止め、200メートル背泳ぎ決勝に懸ける思いは強かった。

 レースは入江のほかにロンドン五輪金のタイラー・クラリー、この種目の連覇を狙うロクテの3強が争う展開が予想された。ともに決勝へ進出した萩野が「3強に挑んでいけるように頑張りたい」と口にするなど、その実力は抜きんでている。

 そして迎えた決勝。スタートの号砲からバサロキックで進み、一斉に浮き上がった。ほぼ横一線の中、頭ひとつ抜け出したのは、ロクテだ。入りの50メートルのターンではトップ。そこに入江、萩野が続いた。後半型の2人が好位置につけ、日本勢の世界大会57年ぶりのW表彰台への期待も高まった。

 しかし、現実は甘くなかった。ラドスロー・カベツキ(ポーランド)とクラリーが追い上げてきて、100メートルをターンした時点の順位は入江は3番手、萩野は6番手と後退した。150メートルを過ぎると、先頭争いはロクテ、カベツキ、クラリーの順。入江は表彰台圏外となった。

 入江はこのまま終われないとばかりに最後の50メートルを上位に追いすがったが、いつもの伸びはなかった。1分55秒07のタイムで4位。この種目での3大会連続のメダルとはならなかった。本人は振り返って「非常に落ち着いたレースができたと思っているので、やっぱり力不足」と肩を落とした。

 ロンドン五輪では過去最多11個のメダルを獲得した競泳日本代表だが、世界大会の金メダリストはここ2大会誕生していない。3年後のリオデジャネイロ五輪の背泳ぎのエースとして、表彰式でセンターポールに日の丸を掲げ、凱歌をあげるのは自分だという思いも強かったのだろう。入江はレース後、「(トップになれると)信じていた。自分は(表彰台の)真ん中に立てない人間なのかな」と嘆いた。衝撃の敗戦は、彼に大きな傷を残した。「リオまでの気持ちは強かったが、今後のことはゆっくり考えたい」。コメントは自身の進退にまで及んだ。ただ、入江は50メートル背泳ぎ、400メートルメドレリレーに出場する可能性がある。巻き返しの機会はまだ彼には残されている。

 入江の夢を砕いたのは、王者・ロクテ。この日も序盤に先頭に立つと、一度もトップを譲ることなく泳ぎ切った。金メダルを求めらる中でも、憎らしいほど落ち着いたレース運び。1人別格の存在だった。揺るぎない絶対的な強さ――。競泳大国のエースにそれを見た気がした。

 タッチ差で逃したメダル

 一方、5位入賞を果たした萩野は、800メートルフリーリレーに出場した。午前の予選は同学年の瀬戸大也(JSS毛呂山)が務め、萩野は休養に充てられた。200メートル背泳ぎ決勝を挟んで、迎えたリレーのファイナル。萩野は第1泳者で火付け役を任された。

 他国の第1泳者はヤニック・アニエル(フランス)、コナー・ドワイヤー(米国)、ダニーラ・イゾトフ(ロシア)と、個人種目の200メートル自由形でメダリストなった強敵揃いだった。それでも萩野は「少しでもチームに貢献しようと思って、自分ができるレースをした」とベストを尽くした。

 3位・米国代表に0秒17差の4位で第2泳者・外舘祥(イトマンSS)に“バトンタッチ”した。日本競泳界にいくつもの史上初をもたらしてきた18歳は、この種目初のメダルに向け、1分45秒93で200メートルの自己ベストを叩き出した。3学年下の萩野から“バトン”を受け取った外舘は、その意気に応えた。3位に浮上し、次の小堀勇氣(セントラルスポーツ)へとつないだ。

「前の2人がとてもいい形で泳いでくれた。少しでも順位を上げようと思いました」と小堀。一度は3位の座をフランスに奪われたが、ラストの50メートルから抜き返した。メダル圏内に残ったまま、アンカー勝負。トビウオジャパンのキャプテン・松田丈志(コスモス薬品)に命運は託された。

 個人種目では振るわなかった松田。フランスにかわされるが、メダリストであり、チームの柱としての意地がある。必死に食らいついていった。

 日本とフランスのデッドヒートする中、大外の8コースからものすごい勢いで迫ってくる。中国のエース・孫楊だ。今大会400メートル、800メートル自由形の2冠。ロンドン五輪でも400メートル、1500メートル自由形で金メダルを獲得している。自由形のスペシャリストは1分43秒16というタイムで泳いだ。今大会の200メートル自由形の優勝タイムを上回る今季最高だ。

 フランス、日本、中国の銅メダルをかけた三つ巴の決戦は、ゴール板へのタッチの差が分けた。順位とタイムが掲示された瞬間、萩野は頭を抱えた。7分4秒95、5位――。日本は3位・中国に0秒21、4位・フランスに0秒04差で敗れた。

「もうちょっとでメダル。せっかく後輩たちがいい形でつないでくれたのに申し訳ない」と、アンカーの松田は自分を責めた。松田が「頼もしく感じる」と評価した後輩たちは、外舘が「もうちょっと貢献したかった。次は確実にメダルを獲れるように」と口にすれば、小堀は「2年後にリベンジしたい」と前を向いた。

 リレー種目に初出場となった萩野は「一度出てみたかった夢の舞台。日本も世界の強豪と同等のタイムで泳げて幸せ」と、手応えを十二分に感じている。表彰台に上がれば、世界水泳自由形のリレー種目では初だった。それは叶わなかったが、日本の未来へとつながる大健闘だったと言えるだろう。

 優勝したのは米国。7分1秒72の記録は2位のロシアに2秒20の差をつける圧勝だった。立役者は第2泳者を務めたロクテだ。3位でスタートしたが、1分44秒98は“最速”の孫に次ぐタイムである。一気にトップに躍り出た米国は、そのままひとり旅。この種目大会5連覇を達成し、競泳大国の強さをまざまざと見せつけた。

 “最速”は“最強”ならず

 男子200メートル平泳ぎ決勝は、日本人唯一の世界記録保持者・山口が登場。ロンドン五輪で銅メダルを獲得した立石とともに世界の強豪たちに挑んだ。

 初出場の山口は、スタートのリアクションタイムは最速の0秒62だったが、50のターンでは4位。100メートルを過ぎると、最後尾へ転落した。ラスト50メートルも順位をひとつ上げるにとどまり、2分9秒57で7位入賞。初の大舞台とはいえ“最速”の称号を持ちながら表彰台にも届かず、「すごく悔しい」と唇を噛んだ。

 勝ったのは、ロンドン五輪金のギュルタだ。125メートルを過ぎたあたりから抜け出し、2分7秒23で大会記録を更新し、世界水泳3連覇。王者が力を誇示した。2位に1分半の差をつける圧勝。山口も「世界との差は2秒以上あると認識して、これから先、緊張感を持っていかないと」と挑戦者の姿勢で臨んでいくつもりだ。

 一方、3度目の世界水泳の立石は、2分10秒28で最下位に終わった。一時は3位に浮上したが、後半はタイムも順位も落としてしまった。「これが僕の実力だと思います」と立石。ただ、ロンドン終わってからは現役を続けるか悩んだという。立石は「また最高の雰囲気の中で泳げてうれしかった。いいレースをもうちょっとしたかったけど、この気持ちを忘れずに練習をしていきたい」と語った。

 女子の200メートル平泳ぎは絶対的本命が不在だった。世界記録保持者であり、五輪連覇中のレベッカ・ソニ(米国)が今大会を欠場。そんな中、昨日の準決勝でリッケ・ペデルセン(デンマーク)がソニの記録を塗り替えた。ロンドン五輪銀の鈴木聡美(ミキハウス)は準決勝で敗退しており、決勝では“最速”のペデルセンがレースを引っ張った。

 150メートルのターンまで首位に立っていたペデルセンだが、その座を最後まで守りきれなかった。ラスト25メートル付近で逆転し、栄冠を勝ち取ったのは、ロンドン五輪銅メダリストのエフィモア。世界水泳では2大会連続で届かなかった頂点にたどり着いた。

 日本の金藤は、ラスト50メートルで追い上げるも2分22秒96の4位。「今大会は4位が多い。日本に勢いをつけたかったけど、あとちょっと足りなかった」と悔しがった。金藤は周囲の応援に感謝し、「結果という形で“ありがとう”と言いたかった」と、思いを果たせなかったことに涙を流した。

 この日のトビウオジャパンは、4種目で決勝を戦った。6つの入賞手にしたが、メダル獲得はならなかった。競泳6日目を終え、残すところあと2日。各選手のラストスパートに期待したい。

 主な結果は次の通り。

<男子200メートル背泳ぎ・決勝>
1位 ライアン・ロクテ(米国) 1分53秒79
2位 ラドスロウ・カベツキ(ポーランド) 1分54秒24
3位 タイラー・クラリー(米国) 1分54秒64
4位 入江陵介(イトマン東進) 1分55秒07
5位 萩野公介(東洋大) 1分55秒43

<男子200メートル平泳ぎ・決勝>
1位 ダニエル・ギュルタ(ハンガリー) 2分7秒23 ※大会新
2位 マルコ・コッホ(ドイツ) 2分8秒54
3位 マッティ・マッツォン(フィンランド) 2分8秒95
7位 山口観弘(東洋大) 2分9秒57
8位 立石諒(ミキハウス) 2分10秒28

<男子800メートルフリーリレー・決勝>
1位 米国 7分1秒72
2位 ロシア 7分3秒82
3位 中国 7分4秒71
5位 日本(萩野、外舘、小堀、松田) 7分4秒86

<女子100メートル自由形・決勝>
1位 ケイト・キャンベル(オーストラリア) 52秒34
2位 サラ・ショーストロム(スウェーデン) 52秒89
3位 ラノミ・クロモビジョジョ(オランダ) 53秒42 
上田春佳(キッコーマン)は予選敗退

<女子200メートル平泳ぎ・決勝>
1位 ユリア・エフィモア(ロシア) 2分19秒41
2位 リッケ・ペデルセン(デンマーク) 2分20秒08
3位 マイカー・ローレンス(米国) 2分22秒37
4位 金藤理絵(JAKED) 2分22秒96
鈴木聡美(ミキハウス山梨)は準決勝敗退

(杉浦泰介)