3日(現地時間)、世界水泳選手権バルセロナ大会の競泳7日目が行われ、5種目で金メダルが決まった。女子200メートル背泳ぎは18歳のメリッサ・フランクリン(米国)が2分4秒76の大会新で連覇し、同800メートル自由形では16歳のケイティ・レデッキー(米国)が8分13秒86の世界記録で制覇した。フランクリンは今大会5個目、レデッキーは4個目の金メダル獲得。男子50メートル自由形はセザル・シエロフィーリョ(ブラジル)が21秒32で大会3連覇、同100メートルバタフライはチャド・レクロー(南アフリカ)が大会2冠を達成した。女子50メートルバタフライ決勝はヤネッテ・オッテセン(デンマーク)が制した。一方、日本勢は男子1500メートル自由形の平井彬嗣(東洋スイマーズ柏)と宮本陽輔(自衛隊体育学校)が、女子50メートル平泳ぎの金藤理絵(JAKED)が、同50メートル自由形の松本弥生(日本体育大大学院)が予選落ち。この日の決勝進出者はいなかった。また男子50メートル背泳ぎの入江陵介(イトマン東進)、女子50メートル平泳ぎの鈴木聡美(ミキハウス)は出場予定だった各予選を欠場した。今大会不調の両名だが、これは最終日の400メートルメドレーリレーに備えてのもの。女子50メートル平泳ぎ準決勝では、ルタ・メイルティテ(リトアニア)が29秒48の世界新をマークし、決勝へ進んだ。
 米国、最強の証明

 今大会、米国がその強さをまざまざと見せつけている。“水の怪物”の異名を持つマイケル・フェルプス、前回の上海大会5冠のライアン・ロクテなど、複数種目でも金メダル量産するスーパースターを生んできた競泳大国。18歳のフランクリンは、まさにその系譜を継ぐ女子のトップスイマーだ。

 200メートル背泳ぎ決勝に登場したフランクリン。ロンドン五輪では同種目で世界記録を更新しての金メダルを手にしている。今季も世界ランク1位のタイムを出しており、女王として、負けられない思いがあるはずだ。

“ロケット・ミッシー”は、185センチの恵まれた体躯からの伸びやかなストロークで、序盤から他を圧倒した。最初の50メートルのターンでは、ほぼ世界記録と同じペースで入った。あとは体ひとつ以上離してのひとり旅。終わってみれば、自らの世界記録に届かなかったものの、2分4秒76の大会新で優勝し、今大会5個目の金メダルを首に掛けた。

 今大会は100メートル自由形は4位に終わったが、出場6種目で5勝をあげている。2007年のメルボルン大会でのリスベス・レントン(オーストラリア)以来、女子最多タイの5冠を成し遂げたフランクリン。最終日の400メートルメドレーリレーで、新記録に挑む。ロケットの異名のごとく、6個目の金メダルも撃ち抜くのか。

 800メートル自由形決勝では、レデッキーが1500メートル自由形につづく世界新記録で金メダルを獲得した。レースは序盤はロッテ・フリース(デンマーク)が世界記録ペースで引っ張り、レデッキーは2番手でそれを追いかける。2人のマッチレース、1500メートルとほぼ同じ展開となった。

 450メートルのターンまではフリースが体ひとつリードを奪う。しかし、500メートルを過ぎると、世界記録からは少しずつ遅れ始める。一方のレデッキー600メートルのターンでフリースにほぼ肩を並べると、650メートルのターンで完全に逆転。グングン速度を上げるレデッキーは残り100メートルで世界記録ペースを上回る。

 フリースとの差はみるみる広がり、あとは北京五輪でレベッカ・アドリントン(英国)がマークした世界記録との勝負。ラストスパートは50メートルを30秒を切る、29秒79で泳いだ。アドリントンの記録を0秒24上回る8分13秒86の新記録を樹立した。レデッキーは今大会2度目の世界新に加え、400メートル、800メートル、1500メートルの自由形中長距離3冠。800メートルフリーリレーと合わせると、大会4冠を達成した。

 ロンドン五輪で米国最年少15歳で代表となり、800メートル自由形で金メダルをかっさらっていったレデッキー。1年後、さらに逞しくなった姿を見せつけたかたちとなった。

 一方、男子では200メートル背泳ぎ、同個人メドレーを制しているロクテが、100メートルバタフライ決勝に出場した。ロクテはこの日、29歳の誕生日。自らの勝利でそれを祝うことはできなかったが、世界大会初参戦のこの種目での6位入賞を果たし、マルチスイマーとしての能力の高さを証明した。優勝は200メートルバタフライを制していたレクロー。51秒06でバタフライ2冠となった。

 3大会ぶりの金へ、ラストスパート

 この日あった予選で日本勢は全員予選突破できなかった。男子1500メートル自由形では、平井と宮本が予選第2組に出場した。折り返しまで先頭を泳いでいたが、750メートルのターンでコナー・イエーガー(米国)にその座を奪われる。800メートルで銅メダルを獲得しているイエーガーはそこからペースを上げ、突き放しにかかる。平井は「力不足でついていくことができなかった」と、トップと7秒近く離された15分3秒45で2位。全体では9位で、決勝には届かなかった。日本記録保持者の宮本は全体12位に終わり、2大会連続の決勝進出はならなかった。

 また夜に行われた5つの決勝種目でも日本人の姿はなかった。50メートル自由形決勝では、世界記録保持者のシエロフィーリョが21秒32で優勝した。伸長著しい塩浦慎理(中央大)は予選、準決勝で22秒0台をマークしたが、この舞台にはたどり着けなかった。ファイナリスト8人はすべて21秒台。まずは22秒を切ることで本当の勝負ができる。

 塩浦は400メートルメドレーリレーでアンカーを務める予定だ。「メドレーでは必ず金メダル」と、打倒米国を誓った。背泳ぎで第1泳者の入江は、この日の50メートル背泳ぎ予選を棄権して、リレーに合わせる。個人種目で振るわなかった北島、藤井とともに
最後に意地を見せられるか。

 最終日を残し、トビウオジャパンの獲得メダルは4個。その内訳は萩野公介(東洋大)が400メートル自由形、200メートル個人メドレーでの銀メダルと、寺川綾(ミズノ)の50メートル、100メートル背泳ぎでの銅メダルのみだ。ロンドン五輪、上海大会でも金メダルはなく、09年のローマ大会の古賀淳也以来の金へと一番期待がかかるのは、やはり萩野。

 ここまで2個のメダル、4つの入賞と、出場種目すべてで決勝進出を果たしている萩野は、400メートル個人メドレーが控える。この種目はロンドン五輪でフェルプスを破り、銅メダルを獲得した。また4月の日本選手権でマークした4分7秒61の日本記録は今季世界最高。加えて、前回王者でロンドン五輪金のロクテはエントリーしていない。出場7種目で一番金メダルに近いレースとなる。

 この日はレースがなく、過密な日程の中、英気を養えたはずだ。10年前は北島康介が100メートル、200メートルの平泳ぎ2冠を達成した。“コウスケ”の大会だったバルセロナ。もうひとりの“コウスケ”が表彰式のセンターポールに再び日の丸を掲げる。

 主な結果は次の通り。

<男子50メートル自由形・決勝>
1位 セザル・シエロフィーリョ(ブラジル) 21秒32
2位 ウラデミール・モロゾフ(ロシア) 21秒47
3位 ジョージ・ボベル(トリニダード・トバゴ) 21秒51
塩浦慎理(中央大)は準決勝、伊藤健太(ミキハウス)は予選敗退

<男子100メートルバタフライ・決勝>
1位 チャド・レクロー(南アフリカ) 51秒06
2位 ラスロー・ツェー(ハンガリー) 51秒45
3位 コンラッド・チェルニャク(ポーランド) 51秒46
藤井拓郎(コナミ)は準決勝、小堀勇氣(セントラルスポーツ)は予選敗退

<女子200メートル背泳ぎ・決勝>
1位 メリッサ・フランクリン(米国) 2分4秒76 ※大会新
2位 ベリンダ・ホッキング(オーストラリア) 2分6秒66
3位 ヒラリー・キャルドウェル(カナダ) 2分6秒80
赤瀬紗也香、大塚美優(いずれも日本体育大)は準決勝敗退

<女子800メートル自由形・決勝>
1位 ケイティ・レデッキー(米国) 8分13秒86 ※世界新
2位 ロッテ・フリース(デンマーク) 8分16秒32
3位 ローレン・ボイル(ニュージーランド) 8分18秒58

(杉浦泰介)