4日(現地時間)、世界水泳選手権バルセロナ大会の競泳最終日が行われ、男子400メートル個人メドレー決勝は瀬戸大也(JSS毛呂山)が4分8秒69で優勝した。日本勢の世界水泳での金メダル獲得は、2009年ローマ大会の古賀淳也以来、3人目。萩野公介(東洋大)は4分10秒77で5位だった。男子400メートルメドレーリレーは、1着に入線した米国代表の失格にによりフランス代表が3分31秒51で優勝した。入江陵介(イトマン東進)、北島康介(日本コカ・コーラ)らで組んだ日本代表は3分32秒26で3位に入り、銅メダルを獲得した。日本の同種目のメダルは3大会ぶり。一方の女子日本代表は5位に入賞した。優勝は米国代表で、2連覇達成。第1泳者のメリッサ・フランクリンは今大会6冠目で、女子の1大会金メダル獲得数を更新した。同400メートル個人メドレーでは、カティンカ・ホッスー(ハンガリー)が4分30秒41で2大会ぶりの金メダル。大塚美優(日本体育大)は4分39秒21で8位だった。8日間の大会を終え、トビウオジャパンが獲得したメダルは6個(金1、銀2、銅3)。合計個数は前回の上海大会(銀4、銅2)と同数だった。
 同世代のライバル、世界で輝く

「一発かまそうと思って、最高のパフォーマンスができた」。勝者は掲示板を確認すると、右の拳を力強く叩きつけた。水しぶきが舞い散る中、勝利の雄叫びをあげたのは瀬戸。日本人としては初めて五輪、世界水泳の世界大会で400メートル個人メドレーを制した。

 この種目の本命は、同学年のライバル・萩野だった。萩野はロンドン五輪でマイケル・フェルプス(米国)を破り、銅メダルを獲得した。また4月の日本選手権でマークした4分7秒61の日本記録は今季世界最高。前回王者でロンドン五輪金のライアン・ロクテ(米国)は欠場しており、出場7種目中、一番金メダルに近いレースと目されていた。

 序盤の50メートルを瀬戸は3番手につけ、前を行く萩野らを追いかけた。100メートルのターンでは、萩野がトップに立ち、日本記録に近いペースで背泳ぎにつないだ。それに引っ張られるように瀬戸も泳いだ。

 つづく背泳ぎは萩野の得意種目のひとつ。1分1秒56のタイムで後続を突き離してきた。瀬戸は体ひとつ以上の差をつけられた。だが瀬戸は次の平泳ぎが得意種目。ここから巻き返しを図る。一方の萩野は平泳ぎを苦手としており、みるみる差は縮まっていく。ついに瀬戸は2秒29あったビハインドを帳消しにした。

 そして300メートルのターンでは、瀬戸が逆転した。その差はわずか0秒1。勝負は最後の自由形100メートルへともつれ込んだ。ここで瀬戸は自由形も得意としている萩野に再び首位を奪い返されると、0秒11遅れて最後のターンをした。あと50メートルを残し、萩野1位、瀬戸2位。日本勢のワンツーフィニッシュ、世界大会での57年ぶりのダブル表彰台も見えてきた。

 だが、このまま終われないとばかりに瀬戸が意地を見せる。ラストスパートを仕掛けて追いつくと、残り25メートルで体半分抜け出した。ペースが落ちた萩野を抜いたチェース・カリシュ(米国)、チアゴ・ペレイラ(ブラジル)の追撃からも逃げ切り、見事1着でゴールした。瀬戸は世界水泳で北島、古賀に次ぐ日本人史上3人目の金メダリストとなった。

 瀬戸と萩野は小学生時代からのライバル。萩野に水をあけられ始めたのは、昨年からだ。ロンドン五輪の出場権をかけた日本選手権では、萩野が200メートル、400メートルの個人メドレーで優勝し、五輪行きを決めた。一方の瀬戸は派遣標準記録は突破していたものの、400メートル個人メドレーで3位。出場枠の2つに入れず、ロンドンの大舞台に立てなかった。さらにロンドン五輪で萩野は、400メートル個人メドレーで日本勢の同種目初のメダルを獲得した。

 萩野の背中を追いかけるかたちとなった瀬戸は悔しさをバネに、昨年10月のワールドカップシリーズで、短水路日本新を連発。12月の世界短水路選手権では、400メートル個人メドレーで萩野を抑えて優勝した。今年2月の日本短水路選手権では、6種目にエントリーし、4種目(400メートル自由形、200メートルバタフライ、個人メドレーは200メートルと400メートル)を制覇した。その差は縮まったかに思われたが、迎えた4月の世界水泳の選考会を兼ねた日本選手権での主役は萩野だった。

 瀬戸はメドレー2種目での出場切符を手にしたが、いずれも萩野に敗れた。その萩野は史上初の5冠を達成し、今大会もここまで2つの銀メダル、出場種目全てで入賞を果たす活躍。それを見ていた瀬戸は「“自分も活躍したい”と心の底から思った」という。

 ライバルの存在は瀬戸の大きな刺激となった。400メートル個人メドレーの予選は全体2位で通過し、決勝では自己べストを1秒4更新する4分8秒69を記録。これは今季世界ランク2位のタイムだった。「チャンスがある限り、絶対あきらめないで頑張ってきた」と語る瀬戸の努力は、金メダルという最高の形となって表れた。

 一方の萩野は、ラスト50メートルはトップに立ちながら、「止まってしまった」と終盤は伸びなかった。瀬戸を含む4人にかわされ、5位。今大会は7種目17のレースに出場した。その疲れが終盤の加速を妨げたことは明白だった。それでも本人は負けてやむなしとするのは許さない。「レースの過程は全然言い訳にならない。(複数種目に)挑戦すること、金メダルを獲ることも全部自分で決めたことです。それを守れなかったことが悔しい限り」。そして萩野は友であり、ライバルでもある瀬戸の快挙に対しての胸の内をこう明かした。「大也が優勝してうれしい反面、悔しい部分もある」。当然、このままでは終われない。萩野は続けた。「この悔しさが僕を成長させてくれると信じている」

 19歳・瀬戸と18歳・萩野――。2人の切磋琢磨はこれからも続く。瀬戸は「彼がいたから自分もいい記録が出た。これからも一緒に頑張っていきたい」と、叶わなかったダブル表彰台は次への宿題とした。そして世界王者となった瀬戸は表彰式後に語った。「これが終わりじゃない。この結果に満足せずに、これからの3年間を頑張る」。トビウオジャパン黄金世代の2人のつばぜり合いは、リオデジャネイロ五輪向けて、一層激しさを増していくだろう。今後も2人の戦いに目が離せない。

 チームで獲った銅メダル

 10年前の世界水泳も、この地・バルセロナで行なわれた。最終日の男子400メドレーリレーで日本代表は世界水泳初の銅メダル。「日本にとって大きなメダルとなる」。当時、第2泳者としてチームを牽引し、平泳ぎの個人種目でも2冠を達成した北島は、そう話していた。彼の言葉通り、翌年のアテネ五輪で44年ぶりに五輪で表彰台に上ると、世界水泳はモントリオール、メルボルン大会で銅メダル。五輪でも北京では銅、ロンドンでは銀メダルを獲得した。メドレーリレーは今大会でもメダルを期待される種目だ。

 第1泳者は、背泳ぎの入江。個人種目は100メートル、200メートル背泳ぎで4位だった。メダルを期待されていた個人種目でメダルはゼロ。その衝撃は大きく、200メートルの背泳ぎ決勝のレース後には、自身の進退まで及んだコメントを残した。「弱い自分が辛い」ともTwitterで弱音を吐いた。傷心の背泳ぎエースを支えたのはトビウオジャパンのメンバーたちだった。北島は「弱いから辛いんじゃなくて強いから辛いんだ。去年の借りを今度は俺が返そう。勝負してやろうぜ」と返信し、同部屋の平井彬嗣(東洋スイマーズ柏)にも励まされたという。そして、400メートル個人メドレーでの瀬戸の金メダル。「チームが励ましてくれた。大也の金メダルは本当にうれしくて泣いてしまった」と、先輩や後輩から背中を押された。

 これで燃えないわけがなかった。スタートのリアクションタイムは、最速の0秒52。入りの50メートルは、今大会100メートル背泳ぎ金のマット・グレバース(米国)に次ぐ2番手で泳いだ。残り50メートルも粘りを見せ、トップと0秒46差の3位で、第2泳者の北島へとつないだ。

 北島は近年の世界大会のメドレーリレー6個のメダル全てに第2泳者を務めた。大黒柱としての自負がある。ロンドン五輪では「康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」と、チームが一致団結したことは記憶に新しい。そして北島は大会前にトビウオジャパンのメンバーたちの前で「今年は皆さんを手ぶらで帰さない」と誓った。「個人で悪くて、今までにないくらい記録が遅かった。勝負をしなきゃいけないし、変なところを見せられない」と、重圧を感じていたことも事実だった。

「何としてもというのがあった」。北島は意地の泳ぎを見せた。1つ順位は下げたものの、個人種目で出していたタイムより速い59秒29で、バタフライの藤井拓郎にタッチした。「隣のロシアには絶対勝とう」と意識していた藤井は、オーストラリアにはかわされたものの、4番手でアンカーの塩浦慎理(中央大)に託した。

 50メートル、100メートル自由形で準決勝に進出し、今大会好調の塩浦。久々に出てきた自由形短距離のホープは、自己ベスト連発していた個人種目通りの活躍を見せる。前を行く米国、フランス、オーストラリアには差を開けられたが、アンドレイ・グレーチン(ロシア)からは逃げ切り、4位を死守した。「グレーチンは先月のヨーロッパグランプリで負けて、嫌なイメージがあった」と話していたが、47秒82のタイムは100メートル自由形の日本記録を上回るものだった。

 3分32秒26――。4番目にゴールした日本だったが、土壇場で順位が繰り上がる。掲示板にその結果が映し出された瞬間、4人は両手を上げてガッツポーズし、抱き合った。なんと米国の第2泳者が第1泳者のタッチより0秒04速くスタートをしており、失格。日本は3位となり、ロンドン五輪につづくメダルを獲得した。世界水泳に限れば、4年ぶりの表彰台である。メドレーリレー7個目のメダルを手にした北島は「これがリレーでしょう。運も味方につけてメダルを獲ることができた」と喜んだ。「最後にメダルをとらせてもらった。苦しかったけどやってて良かった」。今大会苦悩した入江はそう言って、瞳を潤ませた。最後は嬉し涙で締めた。

「ずっとメダルを獲ってきた種目。若い選手たちに、これからもメダルを獲っていかなくてはいけないというメッセージになった」。背泳ぎのエース・入江は伝統を繋げたことに安堵しながらも、後輩たちに代表の自覚を促した。「若い力が沢山伸びてきて、すごいいいレースをしてくれた。それも見て力をもらいました。みんなの力を借りましたけど、メダルを持って帰れて嬉しい。バルセロナに戻ってきて良かった」。北島は10年ぶりのバルセロナを振り返った。

 トビウオジャパン、更なる飛躍を!

 一方の女子は、5位入賞だった。ロンドン五輪では3位に入り、12年ぶりの銅メダルを獲得したものの、今大会2つのメダルを獲得した寺川綾(ミズノ)以外は、個人種目で振るわなかった。

 苦しい状況を打開すべく第1泳者を務めた寺川は素晴らしい泳ぎを見せた。安定感抜群の背泳ぎのエースは、50メートルを28秒77の4位でターンしたものの、後半追い上げ2番手で泳いだ。「みんなが後ろについていてくれたから、最後のタッチまで頑張れた」という寺川は58秒70は自らの持つ日本記録よりも0秒13速かった。

 第2泳者の鈴木聡美(ミキハウス山梨)は、ロンドン五輪で3つのメダルを獲得して、一気に脚光を浴びた。しかし、五輪後は苦戦が続き、今大会も個人種目全て(50メートル平泳ぎは棄権)で決勝に進めなかった。泣いてばかりのバルセロナだったが「最後の最後で自分らしいレースができた」と、1分6秒73で目標とするタイム(1分6秒台)をクリアして、バタフライの星奈津美(スウィン大教)につないだ。

 しかし、星と自由形の上田春佳(キッコーマン)が1つずつ順位を落として、最終順位は5位。メダルには届かなかった。アンカーを努めた上田「狙えない位置ではないので、すごい悔しい」と無念の表情を見せた。

 今大会、トビウオジャパンは6個のメダルを獲得した。ロンドン五輪では11個、世界水泳の最多は9個ということを考えれば、少し寂しい数字。だが、印象としては健闘が目立った大会だった。決勝進出者は個人種目で延べ19人、リレーの5チームと合わせれば24個の入賞を果たしていてる。これはロンドン五輪の19個、前回の上海大会の23個を上回るものだ。とりわけ目覚ましい活躍を見せたのは、8日間で7種目17レースに挑んだ萩野だ。全種目で決勝に進み、2種目で銀メダルを獲得した。

 またその萩野に刺激を受けた選手も多い。同学年の瀬戸が400メートル個人メドレーで萩野を破り、金メダルを手にした。それに加え、日本が苦戦を強いられてきた自由形短距離でも光明が差している。200メートルでは萩野が入賞し、50メートルと100メートルは塩浦が決勝進出まで、あとわずかと迫った。塩浦はリレー種目でも400メートルメドレーリレーの銅メダルに貢献するなど、短距離自由形の希望の星となっている。そのほかのリレーでは400メートルフリーリレー、800メートルフリーリレーが入賞。こうした自由形の健闘は、今後に向けて明るい兆しと言っていいだろう。この勢いをリオ五輪までつなげたい。3年後、トビウオジャパンは日本の裏側にあるブラジルの地で高く羽ばたけるか。

 主な結果は次の通り。

<男子400メートル個人メドレー・決勝>
1位 瀬戸大也(JSS毛呂山) 4分8秒69
2位 チェース・カリシュ(米国)4分9秒22
3位 チアゴ・ペレイラ(ブラジル) 4分9秒48
5位 萩野公介(東洋大) 4分10秒77

<男子1500メートル自由形・決勝>
1位 孫楊(中国) 14分41秒15
2位 ライアン・コクラン(カナダ) 14分42秒48
3位 グレグリオ・パルトリニエリ(イタリア) 14分45秒37
平井彬嗣(東洋スイマーズ柏)、宮本陽輔(自衛隊体育学校)は予選敗退

<男子400メートルメドレーリレー・決勝>
1位 フランス 3分31秒51
2位 オーストラリア 3分31秒62
3位 日本(入江、北島、藤井、塩浦) 3分32秒26

<女子50メートル自由形・決勝>
1位 ラノミ・クロモビジョジョ(オランダ) 24秒05
2位 ケイト・キャンベル(オーストラリア) 24秒14
3位 フランセスカ・ハルサル(英国) 24秒30
松本弥生(日本体育大大学院)は予選敗退

<女子50メートル平泳ぎ・決勝>
1位 ユリヤ・エフィモア(ロシア) 29秒52
2位 ルタ・メイルティテ(リトアニア) 29秒59
3位 ジェシカ・ハーディ(米国) 29秒80
金藤理絵(JAKED)は予選敗退

<女子400メートル個人メドレー・決勝>
1位 カティンカ・ホッスー(ハンガリー) 4分30秒41
2位 ミレイア・ベルモンテ(スペイン) 4分31秒21
3位 エリザベス・ベイセル(米国) 4分31秒69
8位 大塚美優(日本体育大) 4分39秒21
高橋美帆(日本体育大)は予選敗退

<女子400メートルメドレーリレー・決勝>
1位 米国 3分53秒23
2位 オーストラリア 3分55秒22
3位 ロシア 3分56秒47
5位 日本(寺川、鈴木、星、上田) 3分58秒06

(杉浦泰介)