ボクシングのWBCダブルタイトルマッチが12日、東京・大田区総合体育館で行われ、バンタム級では王者の山中慎介(帝拳)が挑戦者の同級7位ホセ・ニエベス(プエルトリコ)に1R2分40秒でKO勝利し、4度目の防衛に成功した。山中はこれで3戦連続のKO防衛。フライ級では王者の八重樫東(大橋)が、挑戦者の同級11位オスカル・ブランケット(メキシコ)を3−0の判定で下し、初防衛を果たした。
(写真:8Rにダウンを奪い、ガッツポーズをみせる八重樫)
<山中、抜群の距離感>

「もうちょっとやりたかった。倒れた時は“立ってくれ”と思っていました」
 王者が「不完全燃焼」と漏らしてしまうほど、あっという間の決着だった。

 挑戦者のニエベスは同じサウスポーで、3連続KO勝利中。カウンターを狙ってくるスタイルだけに、当初のプランでは足を使いながら、中盤以降で左を炸裂させるつもりだった。

 しかし、右のジャブを突いてみると、意外なほど「距離が遠くなかった」。早くも2分過ぎにはプレッシャーをかけて左を打ち下ろす。
「左を嫌がっていたのが分かりました」
 改めて踏み込んで左ストレートを突き刺すと、挑戦者の顔面にクリーンヒット。コーナーポストで尻もちを突いたニエベスは立ち上がれなかった。

 これで世界戦は3連続KO勝利。一撃で仕留められるのはパンチの破壊力のみならず、距離感が抜群だからだ。相手のパンチが当たらない位置に身を置きつつ、自らの拳が当たる位置にいち早く入り込む。「間合いをつかむのがうまい。つかんでしまえば負ける気がしない」と大和心トレーナーは明かす。この日も、2分30秒の試合でもらったパンチは右ジャブの一発のみだった。
 
 過去3度、ビック・ダルニチャンなど、すべて元世界王者を破ってベルトを守ってきたことが、山中には大きな自信となっている。「今回は向かい合って最初の段階で(相手との)実力差を感じた」とリング上では余裕があった。「いつもより、またひとつ落ち着いていた感じ」と本人が振り返るほどだから、勝負は戦う前からついていた。
(写真:暑い日が続き、コンディション調整には苦労したが、「乗り越えたことは自信になる」と語る)

 バンタム級には亀田興毅(WBA)、亀田和毅(WBO)と、3人の日本人世界チャンピオンが君臨する。この日のリングサイドには和毅の姿があり、試合後のマイクでは「亀田君、統一戦をして盛り上げましょう」と呼びかけた。

 ただ、試合を見れば、どちらが強いのかは一目瞭然だ。この階級では11度の防衛を果たしたWBAスーパー王者アンセルモ・モレノ(パナマ)がおり、控室でその名前があがると、「バンタム級では一番やりたい相手」と即答した。さらなる強敵との激突、ビッグマッチ実現へ、世界に実力を示した圧勝劇だった。

<八重樫、反省の初防衛>

 8Rにダウンを奪い、判定で4〜6ポイント差をつけた。文句なしの勝利と言える内容ながら、試合後の八重樫に笑顔はなかった。
「もっと攻撃的にいきたかった」
 いつもは勝っても負けても顔面を大きく腫らして打ち合いに挑むファイターが、この日は比較的きれいな顔で反省の弁を口にした。

 思うように打ち合えなかったのは、まず挑戦者のパンチが想定以上に強かったからだ。
「左が強烈で怖かった。思い切り行けず、かと言って下がれない。中途半端になってしまった」
 立ち上がりからジャブを突いて懐に飛び込もうとするも、相手の拳の軌道も読みにくく容易に中には入れない。必然的に攻めが続かなくなった。

 相手のブランケットが嫌がっていたのはボディ攻撃だ。だが、「ボディががら空きでホームランボールが来たのに打たなかった」とジムの大橋秀行会長が指摘したように、弱点を突ききれなかった。6Rには八重樫のボディに対し、マウスピースを吐き出してローブローを主張。なおも腹を攻め立てると、8Rにはローブローと判定され、減点された点も試合運びを難しくさせた。

 何より初防衛戦のプレッシャーが打ち合いをためらわせた。八重樫はWBA世界ミニマム級の王座を獲得した際には、次戦で井岡一翔との統一戦を行っており、今回が実質初めての防衛戦だった。
「(井岡戦の時は)食ってやると思っていた。今回は挑戦ではなく、守りに入ってしまった」
 ベルトを奪うよりも困難とされる初防衛。それは八重樫にも例外ではなかった。

 それでもポイントを稼げたのは、「水陸両用」と大橋会長が表現したように、インファイトが無理でもアウトボクシングで試合をコントロールできたからだ。ステップワークで挑戦者のパンチをかわすと、中盤からはボディを警戒して相手がガードが下がったところへ踏み込みながら右を打ち下ろす。何度もこれをヒットさせた。

 8Rにはタイミングよく右ストレートを入れ、ブランケットをよろめかせる。これがダウンとなり、ラウンド終了時の公開採点では3者ともに王者を支持。終盤になっても八重樫の動きは落ちず、一発逆転を狙った挑戦者の打ち終わりにうまくパンチを返し、リードを広げた。

「ミニマムでは味わえない怖さがあった。危ない世界にきた。こういう試合が続くと思うと、これじゃダメだと思う」
 階級を上げたことにより、相手の体格は大きくなり、パンチ力も増す。160センチと小柄な王者にとって、更なる成長を誓う勝利になった。
  
<長谷川、3階級制覇へ視界良好>

 バンタム級で絶対的な王者だった頃を思い出させるような完勝だ。
 元WBC世界バンタム級、フェザー級王者の長谷川穂積(真正)はヘナロ・カマルゴ(メキシコ)との10回戦に臨み、1R2分32秒TKO勝ちを収めた。

 相手はスーパーバンタム級のメキシコ王者で、3階級制覇への前哨戦と位置づけた戦いだった。立ち上がり、軽やかなステップから左を打ち込んで相手を追い詰めると、ボディをのぞかせて、左ストレートで顔面でとらえる。開始わずか2分でダウンを奪った。

 立ち上がってきた相手にさらに距離を詰め、左を連打。強烈な左フックできれいにあごをとらえると、カマルゴはバッタリとキャンバスに沈み、即座に試合終了となった。

「2分の中でやりたいことができた。ダメージなく終わる試合ができてよかった」
 長谷川は世界戦へ「準備万端」と言い切った。試合前には足を痛め、2週間ほど練習ができなかったものの、その影響は微塵も感じさせなかった。陣営では年内にもタイトル挑戦を実現させたい意向だ。