国際オリンピック委員会(IOC)は8日(現地時間)、アルゼンチン・ブエノスアイレスで総会を開き、3競技に絞られていた2020年東京五輪の実施競技の28競技目にレスリングを選出した。一方、野球・ソフトボールは北京五輪以来の復帰、スカッシュ初の採用はならなかった。総会では各競技団体のプレゼンテーションを行い、IOC委員の投票の結果、レスリングが49票、野球・ソフトボールは24票、スカッシュは22票だった。過半数(48票以上)の支持を得たレスリングは、次の24年大会でも実施されることが決まった。
 開催地決定から一夜明け、次に笑ったのはレスリング関係者だった。
 IOCのジャック・ロゲ会長が読み上げたのは「レスリング」。1回目の投票で過半数を獲得する圧勝だった。東京の味の素ナショナルトレーニングセンターで行方を見守った日本の選手たちもブエノスアイレスからの中継を聞いて喜びに沸いた。

 2月、スイスのローザンヌで行なわれた理事会で選ばれた25の「中核競技」からは漏れ、除外候補となった。第1回のアテネ大会から始まった伝統競技だったが、一転して危機を迎えた。

 ただ、そこから改革へと迅速に対応した。国際レスリング連盟(FILA)は、会長をラファエル・マルティネッティからネナド・ラロビッチに代え、選手委員会や女性委員会の新設、女性理事採用の方針を打ち出した。

 改革のメスは、組織だけにとどまらずルールにも入った。16年のリオデジャネイロ大会から、これまで4つだった女子の階級を6に増やし、一方の男子は1階級ずつ減らして各6階級で統一した。こういった男女格差是正に加え、2分3ピリオド制から3分2ピリオド制への移行や抽選による延長戦廃止などの勝敗がわかりやすく見る側に沿ったルール改正も敢行した。

 5月のロシアのサンクトペテルブルクでは候補に挙がっていた8競技の中でトップ当選し、野球・ソフトボール、スカッシュとの最終決戦へと進んだ。その後もレスリング有力との声もあったが、手綱を緩めることなく走り切った。伝統競技を外すことへの反発に加え、レスリングの積極的な改革が実った勝利だった。

 女子55キロ級で五輪3連覇中の吉田沙保里は「子供たちの夢がつながって良かった。私も東京まで頑張りたいなという気持ちになりました」とコメント。ロンドン五輪男子フリースタイル66キロ級金メダリストの米満達弘は「オリンピックに残ったという責任を背負っていかなければならない」と、神妙な面持ちで語った。

 一度は除外される恐れもあったレスリングだったが、土壇場で五輪競技に残った。最後まで1つの椅子を巡って争った野球・ソフトボール、スカッシュもルールや体制を変えるなど対抗したが、伝統と改革のレスリングが“フォール勝ち”を収めた。

(文/杉浦泰介)