神の左、再び炸裂か――。
 WBC世界バンタム級王者の山中慎介(帝拳)が11月10日に東京・両国国技館で5度目の防衛戦を迎える。相手は同級8位のアルベルト・ゲバラ(メキシコ)だ。前回の防衛戦でホセ・ニエベス(プエルトリコ)を1Rに左ストレート一撃でマットに沈めてから、わずか3カ月。今回は、サウスポー相手だった過去4度の防衛戦とは異なり、オーソドックススタイルのボクサーと拳を交える。心技体ともに充実したチャンピオンがどんなボクシングをみせてくれるのか。二宮清純が訊いた。
(写真:過去14KOはすべて左ストレートで決めている)
二宮: 前回のニエベス戦、1Rで相手がコーナーポストに倒れた時には「立ち上がって来い!」と思ったそうですね。普通のボクサーなら「立ち上がってくるな」と思うはずですが(笑)。
山中: 「立ち上がって来い」と思う試合は最初で最後でしょうね(笑)。あの試合は調子が良く、体も動いてたので、、もう少し自分のボクシングを見せたかった。お客さんとしても、“せめて、もう一回立ってくれて、きれいに仕留めてくれ”という感じだったんじゃないでしょうか。

二宮: もらったパンチは一発くらい?
山中: 一発ジャブをもらった程度でした。そのジャブも軽かったので、相手と向き合っていても怖さは、あまり感じなかったんです。まさか1Rで終わるとは思いませんでしたが、KOで仕留められるかなという感覚はありました。

二宮: 初防衛戦のビック・ダルチニアン(オーストラリア)、2戦目のトマス・ロハス(メキシコ)、3戦目のマルコム・ツニャカオ(フィリピン)と、これまでは挑戦者がすべて元世界王者の強敵でした。彼らと比較すると、やはりニエベスは格下だったと?
山中: そうですね。最初にダルチニアンに勝って、一回り成長したような気がします。ニエベスは1分くらい戦ってみて、すぐに過去3度の相手と比べて「力が劣る」と分かりました。だから余裕を持てましたね。

二宮: これで世界戦は4試合で3KO。向かうところ敵なしです。となると、ファンは王座統一戦に期待します。バンタム級ではWBAのスーパー王者アンセルモ・モレノ(パナマ)との対戦が実現すればビッグマッチになりますね。
山中: モレノは一番、バンタム級で評価されている選手なので、ぜひやってみたいです。統一戦をすれば一般のファンにもわかりやすく最強を証明できますから。

二宮: しかもバンタム級にはWBA王者が亀田興毅、WBO王者が弟の和毅(ともに亀田)と3人も日本人王者がいる状態です。
山中: 亀田君が2人いますから、当然、統一戦をやるとなると彼らの名前もあがってくる。前回の試合でリングの上から「亀田君、統一戦しましょう」と呼びかけましたが、その時にはもう亀田君は帰っていたみたいですね(笑)。統一戦はなかなか実現するまでに難しい問題がありますから、特に亀田君にこだわっているわけではありません。とにかく僕は勝ち続けることで、チャンスが来るのを待ちたいと思っています。

二宮: 今年からIBFとWBOが認定され、現状、日本人の現役世界王者は10人います。ただ勝って防衛するだけではなく内容も問われる時代になりました。
山中: 10人もいたら、普通の試合で目立たない。勝ち方やKOにこだわらないとファンは納得しないでしょう。

二宮: 勝ち方という点ではWBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志選手(ワタナベ)、WBA世界ライトフライ級王者の井岡一翔選手(井岡)、そして山中さん。この3人がチャンピオンの中のチャンピオンと言えるのではないでしょうか。
山中: 自分はそんな評価してもらえる選手か分かりませんけど、内山さんと井岡君は確かにすごいチャンピオンですね。井岡君は本当にスキがない。万能型でなんでもできる。僕はストレート主体のボクシングでアッパー、フックといったバリエーションがないのに、彼はパンチの種類も豊富です。

二宮: 内山選手は世界戦8試合中、7試合でKO勝利。KO率は8割を超えています。
山中: 本当に破格のパンチャーですよ。リングではめちゃくちゃ強いのに、普段はとても人間的に素晴らしい。尊敬するボクサーです。

二宮: 次の防衛戦も近づいてきました。試合前にゲン担ぎをすることはありますか?
山中: 僕はほとんどないですね。試合前に神社にお参りに行ったり、前の試合で調子が良かった時は前日の食事は同じメニューにしたりしますが、絶対にやらなきゃダメというレベルではない。強いて言えばグローブの色は黒にするくらいでしょうか。強く見える気がするので好きなんです。でも、逆にトランクスは黒にはしません。僕はこれまで引き分けが2度ありますが、2度ともトランクスが黒でした。それからは黒を履かないようにしています。

二宮: また、ファンを湧かせる試合を期待しています。
山中: 最近は相手からいいパンチをくらう場面は減ってきたので、ファンの方も安心して見てくれているのではないでしょうか。それができるのも試合に合わせてコンディションをうまくつくれているから。最近は街で声をかけていただける機会も増えてきました。そういうのは嬉しいので、ひとりでも多くの方に僕の試合を見てほしいです。

<11月1日発売の『第三文明』2013年12月号でも、山中選手のインタビューが掲載されています。こちらもぜひご覧ください>