12月3日、「スポーツ・セカンドキャリア・シンポジウム」が東京・白寿ホールで開催される。非営利活動法人スポーツネットワークジャパン発行『スポーツゴジラ』と、野球専門誌として長い歴史をもつ『週刊ベースボール』が主催し、多くのプロ野球選手が引退後に直面する“第2の人生”について考え、問題解決の糸口を模索しようというものだ。当日、特別ゲストには日米8球団を渡り歩き、今季は独立リーグ・BCリーグの石川ミリオンスターズで活躍した木田優夫、パネラーには手塚康二NPBキャリアサポート担当をはじめ、日本スポーツに携わるメンバーが顔を揃える。多岐にわたった熱く、新鮮な議論が交わされそうだ。
 多くのスポーツ選手にとって、秋は“出会い”と“別れ”の季節である。この時期、プロ野球ではドラフト会議で指名された来季のルーキー選手たち、そして国内、海外のFA権を獲得した選手たちの交渉話が話題となる。しかし、その裏では戦力外通告を受け、明日への道を閉ざされた選手たちもいることを忘れてはならない。球団は限られた人数しか選手を保有することができない。そのため、新たに入団する人数だけ、プロ野球界を去る選手もいるということだ。そして、彼らを待ち受けているのは厳しい現実だ。

 日本のスポーツ界において、選手の引退後の生活問題が叫ばれて久しいが、未だにサポートシステムの確立には至ってはいない。特に、日本のプロスポーツで最も長い歴史をもつプロ野球は、後塵を拝している。NPBがようやく重い腰を上げ、「セカンドキャリアサポート」を立ち上げたのは、今からわずか6年前の2007年のことだ。だが、キャリアサポートマガジンの発行や、アンケート調査を行なってはいるものの、未だに選手へのサポート的役割を果たしているとは言い難い。その証拠に、アンケートで「引退後に不安を感じる」という選手は未だ7割を超える。

 今年、元プロ野球選手が高校や大学の指導者になるための規制が緩和された。これまで2年必要とされた教諭としての実務経験が不要となり、教員資格があればほぼ無条件に、そして非教員でもプロ、アマ双方の研修を受け、日本学生野球協会の適性審査に合格すれば学生野球資格を回復し、高校や大学の指導者への道が開かれることが承認されたのだ。NPBが主に若手選手に行なうアンケートでは、引退後の道として「高校野球の指導者」は常に上位にランクインされる人気の職業だ。それだけに、セカンドキャリアの道も広がることになる。とはいえ、その恩恵に預かることができるのは一握りに限られており、セカンドキャリア問題の全面解決とはならない。

 ビジネスにも通用する光る素質

 今回のシンポジウム開催の意義について、ベースボールマガジン社メディア事業局事業開発部部長・戸島正浩はこう語る。
「セカンドキャリアが問題化となってから久しいが、なかなか体制が整わないというのが現状です。そういう中で、これは我々スポーツメディアも協力し合って取り組んでいかなければならない問題だと思ったんです。中立的な立場であるメディアだからこそ、セカンドキャリア問題の現状を訴えることができる。そして、メディアだからこそ、セカンドキャリアには不可欠なスポンサー集めや集客も可能となる。今回のシンポジウムは、その第一歩です」
(写真:ベースボールマガジン社メディア事業局事業開発部部長・戸島正浩氏)

 この企画に賛同し、全面的にバックアップしているのが医療機器製造販売の白寿生科学研究所だ。同社は、元プロ野球選手の社員登用を積極的に行ない、いち早くセカンドキャリアを支援してきた。そのひとりが現在、同社人材開発グルーブ長を務める田口竜二だ。田口は都城高校時代にはエースとしてセンバツに出場し、ベスト4に進出。1985年にドラフト1位で南海に入団したエリート選手だった。しかし、ケガに泣き、一軍登板はわずか1試合に終わった。引退後の田口を正社員として採用したのが白寿だった。

 白寿は、12年からはBCリーグとパートナー契約を結び、現役選手のオフ時期のアルバイト採用や、引退後の正社員登用を行なっている。こうした積極的な採用について、戸島は「元プロ野球選手がビジネスマンとして、いかに社会に貢献できる貴重な人材であるかを実感しているからではないか」と述べる。

「白寿がなぜ元プロ野球選手を採用するのか。もちろん、野球選手を応援したいという気持ちがあることは確かでしょう。しかし、あくまでもビジネスですから、適性がないのに雇うことはまずあり得ません。子どもの頃から一途に、人の何倍も努力し、苦労を乗り越えてきた、そして類まれな才能と精神力をもつ彼らには、ビジネスマンとしても十分に光る素質がある。実際に雇用し、それを感じているからこそ、白寿は元プロ野球選手を積極的に採用し続けているのだと思います」
 野球での才能はビジネスにも通ずる――そのことを広く認知してもらえれば、セカンドキャリアに協力する企業も増えてくるはずだ。今回のシンポジウムには、そんな狙いもある。

(写真:NPO法人ASS理事長の川口寛人氏)
 また、自らの経験を元にセカンドキャリア問題に取り組む元プロ野球選手もいる。元巨人選手で、現在はNPO法人ASS(アスリートセカンドキャリアサポート)理事長の川口寛人だ。川口は11年に育成選手として巨人に入団。右肩の故障などもあり、1年目のオフに戦力外通告を受けた。途方に暮れた川口に手を差し伸べたのは、プロ入り前に勤めていたお好み焼きチェーン店「道とん堀」の島美夫専務取締役だった。川口を道とん堀の正社員として迎え入れたのだ。川口は自らも経験し、未だ仲間たちが悩み苦しむ姿を見て、引退後のセカンドキャリアの重要性を痛感。そのサポート事業を行なうことを決意し、今年11月、NPO法人ASSを立ち上げた。その川口も今回のシンポジウムでは、ひとりのパネラーとして参加する。

 実際に“第2の人生”を歩んでいる元プロ野球選手の田口と川口のほか、45歳となった今もなお現役を貫く木田、そしてNPBからは手塚キャリアサポート担当が参加。そのほか、元選手と企業のマッチングを行なっているHIエデュケーションの小林一光代表取締役社長、2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の一員である田中健東京都議会議員、セカンドキャリア問題に詳しい大竹弘和神奈川大学教授がパネラーとして、それぞれの立場から意見を述べる。

「さまざまな分野の方々が、どんな議論を交わし、そこでどんな化学反応が起きるのかが楽しみです。一般参加者からの質問の時間も設けていますので、有意義なものになると思いますよ」と戸島。日本スポーツ界が抱える問題に一石を投じる意味でも、このシンポジウムは意義深いものとなる。

〜スポーツ・セカンドキャリア・シンポジウム〜
「プロ野球選手たちの第二の人生を取り巻く環境とこれから」


【開催日時】
2013年12月3日(火)
開場18:00
講演18時30分〜21:00

【会  場】
白寿ホール(東京都渋谷区富ヶ谷1-37-5 株式会社白寿生科学研究所本社ビル7F)

【募集人数】300名

【参加費】500円(税込)

【応募方法】
・「スポーツゴジラ」HPサイトの応募フォーム(https://www.supoiki.jp/godzilla/)から
・jigyo-kaihatsu@bbm-japan.comから

【問い合わせ先】
jigyo-kaihatsu@bbm-japan.com