13日、Jリーグが会見を開き、3月8日の浦和レッズ対サガン鳥栖戦で差別的な内容の横断幕が掲示された問題に対する処分を発表した。会見には村井満Jリーグチェアマンが出席し、問題の経緯を説明。そして、本日、浦和からの最終報告を受け、浦和にけん責(始末書をとり、将来を戒める)、無観客試合の開催(対象=3月23日、J1第4節の浦和対清水)の処分を下したことを発表した。Jリーグにおいて、無観客試合の処分が下ったのは初めて。浦和サポーターがこれまでも問題行為を犯しているにも関わらず、クラブはそれを防止することができなかったとして、今回の決定に至った。また、浦和の淵田敬三社長も会見を開き、騒動について謝罪。横断幕を掲出した当該サポーターの無期限入場禁止、その他の浦和サポーターには次節以降の公式戦はホーム、アウェーを問わず、横断幕、ゲートフラッグ、旗類、装飾幕等の掲出を禁止したことを発表した。
(写真:深々と頭を下げる浦和・淵田社長)
「本件は、すべてのサポーター、浦和にも数多くいる善良なるサポーター、この試合を楽しみにしている清水側のサポーター、選手、関係者、すべての人を裏切るかたちとなってしまった」
 村井チェアマンは処分を下すにあたってこうコメントした。無観客試合という制裁は、今季からJリーグ規約に新たに盛り込まれたもの。当然、浦和の入場料収入はゼロ。これはリーグ史上で最も重い制裁処分となった。

 差別的行為に関しては、FIFAも厳しい姿勢を打ち出している。今回の無観客試合もFIFAの規定に照らし合わせた上で、村井チェアマンが処分を決定した。今後も同様の問題が起これば、降格やJリーグ会員資格を剥奪する可能性も視野に入ってくるという。

 今回の問題は、8日の浦和対鳥栖戦において、一部の浦和サポーターがゴール裏席への入場口に「JAPANESE ONLY」という横断幕を掲示したことに端を発する。淵田社長は掲示意図について、掲示者たちが「ゴール裏は聖地で、自分たちで(応援を)やっていきたい。他の人たちは入ってきてほしくない。最近は(試合に)海外のお客さんも来て、統制がとれなくなるのが嫌だった」と説明していることを明かした。また「選手ではなく外国人の観客に対して出した」とも語っているという。

 浦和の運営本部は横断幕に問題性があることを認識しながら、試合終了まで撤去しなかった。これを受け、村井チェアマンは「差別的な掲示をそのまま放置したことは差別的行為に加担したととられてもおかしくない」とクラブに通達。当該サポーターが「差別的な意図はなかった」と説明していることについては「掲示した側の意図がどうあれ、それを見たたとえば外国人の方が、差別的な表現だと受け止めるのは極めて自然なこと。私も差別的な表現であると認識しています」という見解を示した。

 また、1日に行われたガンバ大阪との開幕戦(万博)でも、浦和サポーターが浦和の選手に指笛を鳴らす差別的ととれる行為を行っていたことも判明。村井チェアマンは「(そういった問題が)想定できる背景がある中、横断幕をはがせなかった」と浦和の対応を批判した。

 クラブとサポーター間にあった慣習

 なぜ、浦和は試合終了まで横断幕を撤去しなかったのか。そこには、クラブとサポーター間にある“慣習”が大きく影響していた。
 浦和の試合を運用する上での内規には、掲示物は掲示者に合意を得た上で撤去する手順になっていたのだ。浦和が発表した横断幕撤去までの経緯を要旨は次の通りだ。
(写真:淵田社長は「今回を機会にクラブは生まれ変わる」と語った)

(1)警備員が横断幕の存在に気づき、警備責任者に連絡したが、特に問題視せず、警備会社および運営本部に連絡をしなかった。
(2)別の警備員が観客から指摘され、警備責任者を通じて警備会社の本部に連絡。同時期にソーシャルメディア上で情報を得たクラブスタッフが運営本部に連絡した。
(3)運営本部が当該横断幕を画像ともに確認し、問題がある掲示物と判断。警備会社に撤去するように指示した。
(4)しかし、警備員が掲示者であるサポーターに撤去を求めたところ、拒否され、その時のやり取りを運営本部に連絡。これを受けた運営本部は、掲示物は掲示者との合意の上で撤去する手順があるため、試合後に速やかに対応するように警備会社に指示を出した。その後も、警備員はサポーターから横断幕について「撤去するべきではないのか」と指摘を受けた。
(5)試合終了後、当該サポーターらが横断幕を撤去しないため、警備員がメンバーの合意を得た上で横断幕を撤去した。

 淵田社長は「長年積み重なっていたルールの良し悪しの判断ができていなかった」と、クラブの対応に不手際があったことを認めた。また、その要因として「差別に対する意識が不十分だった。また、このような問題に対応する体制ができていなかった」ことを挙げた。

 差別撲滅に向けて

 浦和は今回のみならず、過去にもサポーターが問題行動を起こしてきた。差別的行為に関しては、10年6月のベガルタ仙台戦で、数人の浦和サポーターが仙台の選手に差別的な言葉を浴びせている(この時の処分は制裁金500万円)。問題が起こるたびに、リーグから制裁金などの処分を受けたが、再び、今回のような問題が生じた。

「これまでに我々、浦和レッズのサポーターが起こしてきたトラブルを鑑みれば、制裁金を超える重い処分が妥当であり、当然のもの」
 淵田社長は神妙な面持ちで処分を受け入れた。また淵田社長の役員報酬を3か月間、20パーセント自主返納、社内規定に従って関係社員の処分を検討することも発表した。
当面の対策としては、クラブがスタジアムを一定のコントロール下におけるようなルールを作るまで、浦和の全サポーターに横断幕、ゲートフラッグ、旗類、装飾幕等の掲示を禁止するという。

 今回の無観客試合という処分で、被害者となるのは清水だ。選手は試合中にサポーターからの応援を受けることができない。また、アウェー戦だっただけに、宿泊先、交通手段をあらかじめ抑えていたファン・サポーターもいるはず。チケットの払い戻しは当然として、宿泊先のキャンセル料など補償の問題も出てくるだろう。補償について淵田社長は「個々の事象に応じて、相談しながら進めていく」と述べるに留まった。

 Jリーグはアジア戦略を進めている。今回のような人種差別的行為によって、戦略を進める上で打撃を被ることも予想される。
「確かにマイナス。ただ、日本は差別的なものを徹底して許さない国であるというのを明確に示すことは、アジア諸国に対しては大事なことだと思う。起こった問題に対する対応策、姿勢、そういうことを(関係国に)丁寧に説明してまいりたい」
 村井チェアマンはこう語った。

 再発防止に向けては、「(問題を)受け止める側の感受性をどう養えるかが本質的なテーマ」という考えを明かした。
「この言葉はよくて、この言葉はダメだと、ハウツーやノウハウ的にやるのではなく、サッカーに関わるすべての人の感受性をどう高めるかというところに帰結する問題だと思っている。そういう意味では特効薬があるわけではないし、短期的に解決するものでもない。まず、この問題の本質が極めて重いということを伝えること。そういう意味で今回の無観客試合は強烈なメッセージを持っていると私は理解しています。リーグとしては、こうした人権問題や差別に関する問題に対して、周知徹底するようなトレーニング、広報活動、このあたりを再点検して強化していきたい」
(写真:厳罰を下した村井チェアマン)

 また、村井チェアマンは浦和以外のクラブに対しても「自分のこととして受け止めて対処してほしい」と語り、改めて差別撲滅を訴えた。W杯イヤーに起こった激震。日本サッカー界全体のモラルが今、問われている。

(写真・文/鈴木友多)