夏休み、皆さんはどちらへ出かけましたか? 私は東京からちょっと足を伸ばし、国内の有名観光地へ行きました。そこは海外からの観光客も多く、大変にぎわっていました。


 日本へ訪れるインバウンド、いわゆる訪日外国人は2017年、2869万1000人を数えました。これは前年比19.3%増で、日本政府観光局(JNTO)が統計を取り始めた1964年以来、最多です。また政府は訪日外国人旅行客の拡大に向けた具体案として、訪日外国人数を「2020年に4000万人、30年に6000万人」に増やす目標を掲げています。

 

 これから2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、観光地に限らず国内のあらゆる場所に外国人が訪れることになるでしょう。さらに多様性が進む社会ではこれまでのいわゆる「健常者」だけではなく、障がいのある人や高齢者など様々な人たちが自由に行ってみたい場所へ足を運ぶようになります。

 

 ところが、です。スポーツ施設が障がいのある人にとって、なかなか開放されず、使いにくい(使えない、行けない)ことは以前、述べました。それと同様に、障がいのある人たちにとって外出や買い物、観光も同様にまだまだ厳しい状況なのか、と感じる"こわーい"を体験をしたのです。

 

 私は訪れた観光地でタクシーに乗りました。運転手さんとの会話は次のようなものでした。
「観光客の方は多いですか?」「もう、多すぎてまいっちゃう」。地元の言葉で答える運転手さん。私は忙しくて嬉しい悲鳴かと思っていると、続けてこうおっしゃいました。「欧米人や車いすの人は見た目でわかるからいいんだけどね」。ここで私の頭の中は「?マーク」でいっぱいになりました。「え、一体何がわかるからいいんだろう?」と。

 

 運転手さんはこう続けます。「この間、日本人だと思って乗せたら違っていたんだよ。アジア系は見分けつかないから。もう、行き先くらい日本語で言えるようになってから観光に来てもらわないと……」

 

 私は車内で絶句しました。つまり、お客さんを選んでいるということです。「欧米人や車いすの人」はわかりやすいからうまく乗車拒否できる。だが、見た目ではわからない人を乗せてしまって失敗した……という話だったのです。「もう、そんなことしょっちゅうだよ」と腹立たし気に話していましたが、これを聞いていた私も大変不愉快になりました。

 

 この先も観光客が増えて、ますますお客様を選べる状況になるとどうなるのでしょうか。外国人は日本語で話ができない人として、また障がいのある人は乗り降りに時間がかかる人、聞こえない、話せない、見えない人として乗車を拒否されてしまうのでしょうか。タクシーのみならず、飲食店、宿泊施設なども……。

 

 私はパラスポーツに関わる中で、多くの志を持った方々と触れ合っていることで、すっかり社会は多様性を認めあう、共生社会へと向かっているとばかり思いこんでいました。でも、今回の出来事で、それは私が見えている狭い社会の中で起きているだけのことなのでは? と気が付き、そしてとても不安になりました。

 

 来年のラグビーワールドカップ、2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて、全国各地がキャンプ地として名乗りをあげています。そうした土地に世界中からアスリートやその応援団などが訪れます。もしかすると……。「外国人だから」「車いすだから」と、同じようなことが起きてしまったら、と。これは楽観視ばかりしていられないのだと、身の引き締まる思いをした夏の日でした。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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