(写真:左から筆者、宮島徹也、川上航平。車いすバスケットボールと3×3のコラボレーションが実現した)

「みんなのスポーツinかなざわ」(主催:STAND)を9月15日、金沢駅前の総合商業施設「金沢フォーラス」にて開催しました。当日は三連休の始まりの日で観光地・金沢の駅前は大変賑わっていました。おかげさまでイベントにも約800人の方が訪れ、大盛況のうちに幕を閉じました。


 金沢はSTANDスタートの地であり、一緒に立ち上げた仲間や協力者の皆さんと出会った大切な場所です。ここでこうしたイベントが実施できたこと、無理難題に快くお応えくださったことに、心から感謝いたします。本当にありがとうございました。

 

 さて、せっかくたくさんの協力者に囲まれて実現できるのならば、この際お言葉に甘えて、「てんこ盛り」のイベントにしよう、と考えました。

 

 まず駅前という街の中心地で開催することによってパラスポーツに関心のない人、パラスポーツを知らない人、パラスポーツにまったく縁がない人に、偶然、出会ってもらえる場所を提供。「たまたま居合わせた人が、共生社会づくりの主役になる」ことを目指しました。

 

 実際、約800人が来場しましたが、その客層はバラエティに富んでいました。イベントを知っていて来場した人、様々な障がいのある人、パラスポーツに元から関心があった人……。ここまでは従来のイベントと同じです。でも今回は新幹線が到着して駅から出てきた人、買い物や食事目的で訪れた人も足を止めて、観覧、体験会に参加しました。体験した人は約200人。「目的もなく偶然いる人を対象にすること」が実現しました。

 

 次の試みが、パラスポーツとスポーツのコラボレーションでした。今回は車いすバスケットボールと3×3バスケットの組み合わせです。車いすバスケットボールはパラリンピック日本代表の宮島徹也さん。3×3はプロリーグ湘南サンズ所属の川上航平さんです。

 

 宮島さんは3年前に商業施設で車いすバスケットボールのデモンストレーションや体験会をしたいという構想について話してくれました。そして、今年に入って実現が見えてきたころ、「バスケットボール3×3で、日本代表なども経験している選手が金沢にいます。川上航平さんです。一緒にやるのはどうでしょうか」と提案してくれました。宮島さんは普段、ミニバスケットのコーチとして子供たちを教えています。川上さんをそのチームの特別コーチとして招いたこともあるそうです。

 

 この話を聞いていて、私は大変、興味を覚えました。「車いすバスケの選手がミニバスケットのコーチをしている。そしてそこに3×3のプロ選手が特別コーチとして参加している。パラスポーツとスポーツ、別物と思われている2つを一緒に、しかも双方のトップアスリートがコラボする。必ず面白いことが起こるに違いない」。こうして車いすバスケットボールと3×3のコラボが実現しました。

 

 トークショーではお互いに尊敬しあっているアスリート同士のやりとりが聞けて、そしてデモンストレーションでは車いすバスケットボールも3×3もその競技性の高さに大歓声があがりました。

 

 その後の体験会も大盛況でした。特に子供たちは、「2人ともかっこいい」「両方の選手が、シュートがうまくてびっくりした」「どちらのバスケも面白い」「どっちも一緒にできる」と目を輝かせていました。さらにもうひとつ実現したのは、ゲストお二人が地元に縁のある方ということです。「え? 金沢に住んでいるの?」と身近にトップアスリートがいたことに目を丸くしていました。

 

 このようにてんこ盛りのいろいろな要素を盛り込んだことによって、参加してくださった方にはこれまでと違った新しい感覚を持っていただけたと考えています。「パラスポーツとスポーツは別のものだとずっと思っていたけれど、どちらもスポーツなんだな」。お客さま、イベントを実施する側も新鮮な体験をできた1日でした。

 

 感謝の気持ちとともに、「やっぱりこうしていろんなことを、またやろう!」と決意を新たにした私に、川上さんの言葉がさらなる勇気をくださいました。

 

(写真:傾斜のある床に水平にコートを設置。子供たちは存分に体験会を楽しんでいた)

 川上さんは小学校から大学とバスケットボールを続けてきました。大学卒業後は企業に就職し、本業を優先しながらバスケットは続けていました。その後、3×3という競技に出合い、並行して取り組みました。さらには、その3×3が東京オリンピックの競技として採用されました。37歳の今、川上さんの目の前にオリンピックという新たな夢が現れたのです。川上さんは「続けていると、チャンスが来るんです」と話を締めくくりました。

 

 STANDスタートの地・金沢で行ったイベントは、いろいろなことをやってみること、同じことを続けていくこと、その両方がとても大切なのだと教えてくれたのでした。

 

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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