(写真:No.1シードのレッドソックスは2013年以来の頂点に立てるか Photo BY Bill Menzel)

 今季のMLBプレーオフはもともと評判が良かった名門チームが勝ち残り、地区シリーズから盛り上がりそうだ。特にア・リーグはいわゆる4強が順当に駒を進めてきた感がある。ワールドシリーズに勝ち上がるのは、シーズン中にチーム史上最多の108勝を挙げたレッドソックスか、昨季に初の世界一に輝いたアストロズか。それとも3年連続で中地区を制したインディアンス、ワイルドカードから勝ち上がったヤンキースが勢いに乗れるのか。今回は激戦リーグの優勝候補をピックアップし、ワールドシリーズに進むチームを予想してみたい。

 

 注/以下、選手の成績はすべてレギュラーシーズンのもの

 

 

本命 ヒューストン・アストロズ(103勝59敗 西地区優勝) 

 

 記録的なペースで突っ走ったレッドソックスに比べ、シーズン中のアストロズはややインパクトに欠けた感もあった。それでも最終的には昨季をも上回る103勝。強豪ひしめくア・リーグでも“最も完成されたチーム”の呼び声高く、総合力は1年前よりも上だと見る関係者も少なくない。

 

 ホセ・アルトゥーべ(打率.316、13本塁打)、カルロス・コレア(打率.239、15本塁打)、ジョージ・スプリンガー(打率.265、22本塁打)、アレックス・ブレグマン(打率.286、31本塁打)が軸になる強力打線はパワーと辛抱強さを兼備する。

 

(写真:データを有効利用してアストロズを強豪チームに押し上げたジェフ・ルーノウGMへの評価も高い)

 投手陣にはジャスティン・バーランダー(16勝9敗、防御率2.52)、ゲリット・コール(15勝5敗、防御率2.88)、チャーリー・モートン(15勝3敗、防御率3.13)、ダラス・カイケル(12勝11敗、防御率3.74)が揃い、先発陣の防御率は昨季よりも上。ロベルト・オスーナ(21セーブ、防御率2.37)を加えたブルペンも1年前より大きく向上した。さらに昨季同様、勝負どころではランス・マッカラーズ・ジュニア(10勝6敗、防御率3.86)まで含めた先発投手陣もリリーフでつぎ込んでくるはずだ。

 

 8月10日に故障者リストから復帰以降は打率.180というコレアの不振に一抹の不安は残るものの、バーランダーという強烈な大黒柱が引っ張っているのも大きい。スター軍団が安定した力を発揮し、実に1999~2000年のヤンキース以来の連覇の可能性も十分にありそうだ。

 

 

対抗 ボストン・レッドソックス(108勝54敗 東地区優勝)

 

 プレーオフを通じてのホームフィールド・アドバンテージを勝ち取りながら、不安視される要素も意外に少なくない。シーズン後半は左肩の故障に苦しんだクリス・セール(12勝4敗、防御率2.11)のコンディションには疑問が呈され、デビッド・プライス(16勝7敗、防御率3.58)が先発したプレーオフ戦で所属チームは0勝9敗(!)という驚異のデータも気になる。クレイグ・キンブレル(42セーブ、防御率2.74)以外のブルペンにも不安が残る。

 

 それでも、レッドソックスが依然として高評価されているのは打線の力に違いない。得点、チーム打率はメジャー1位。ともにMVP候補に挙がるムーキー・ベッツ(打率.346、32本塁打、30盗塁)、JD・マルチネス(打率.330、43本塁打)に引っ張られた打線は層が厚く、好投手相手には一丸となって球数を投げさにかかる。このラインアップを1試合に渡って封じ込めるのは並大抵ではなく、投手レベルの上がるポストシーズンでも力を存分に発揮してきそうだ。

 

(写真:ヤンキース内でジャッジにかかる比重は大きい Photo By Gemini Keez)

 まずは宿敵ヤンキースとプレーオフでは実に14年ぶりとなる激突に注目。ここで順当に勝ち上がれば、昨季王者アストロズとのア・リーグ優勝決定シリーズはパワーハウス同士の垂涎のカードになり、一般的に“事実上のワールドシリーズ”とすらみなされるかもしれない。

 

 

穴  クリーブランド・インディアンス(91勝71敗 中地区優勝)

   ニューヨーク・ヤンキース(100勝62敗 ワイルドカード)

 

 中地区で3連覇を果たしたインディアンスは、2年前のプレーオフで大活躍したアンドリュー・ミラー(2セーブ、防御率4.24)とコディ・アレン(27セーブ、防御率4.70)というブルペンデュオが9月合計19回1/3で13失点と苦しんだのが気にかかる。

 

 ただ、コリー・クルーバー(20勝7敗、防御率2.89)、カルロス・カラスコ(17勝10敗、防御率3.38)が中心になる先発投手陣の防御率はリーグ2位。フランシスコ・リンドー(打率.277、38本塁打、25盗塁)、ホゼ・ラミレス(打率.270、39本塁打、34盗塁)というスーパースターデュオを軸に、同じコアでしばらくプレーしてきている点にも好感は持てる。

 

(写真:まだ知名度は高いとは言えないが、リンドーはメジャー屈指の遊撃手に成長した)

 シーズン終盤に加入したジョシュ・ドナルドソン(打率.246、8本塁打)が打線を支える働きができれば、地区シリーズでアストロズと互角に戦ってもそれほど驚きではない。

 

 シーズン中は多くの誤算に見舞われたヤンキースは、数多くのアップ&ダウンを経験してきた印象がある。それでもシーズン100勝を挙げたのは底力の証明。レッドソックスよりは一段下の扱いを受けてきたが、短期決戦のポストシーズンでは何が起こっても不思議はない。

 

 心強いのは、アーロン・ジャッジ(打率.278、27本塁打)、アロルディス・チャップマン(32セーブ、防御率2.45)といった故障者が大事な時期に間に合ったこと。そして、アスレチックスとのワイルドカード戦ではジャッジ、ルイス・セベリーノ(19勝8敗、防御率3.39)という投打の主役が活躍して勢いをつけたこと。地区シリーズはレッドソックスに3連勝後の4連敗という屈辱的な敗北を喫した2004年以来の対戦となるが、ここで勝てば雰囲気は盛り上がる。

 

 そんな機運を高めるためにも、レッドソックスが今季57勝24敗と絶対の自信を持つボストンでの最初の2戦でまずは1勝が必須だ。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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