13日からプロ野球のクライマックスシリーズ(CS)が始まる。CSファーストステージの対戦カードは、セ・リーグが東京ヤクルト-巨人(神宮)、パ・リーグが福岡ソフトバンク-北海道日本ハム(ヤフオクドーム)。セ、パともに2勝したチームがファイナルステージへ進出する。ファイナルステージは17日から、リーグ優勝を果たした広島、埼玉西武の本拠地が舞台となる。ファイナルステージは優勝チームのアドバンテージ(1勝)を含め、6試合で4勝したチームが日本シリーズへ進出する。

 

◆セ/天敵なしの広島優位。打のヤクルトvs.投の巨人

 

 レギュラーシーズンは広島が圧勝した。セ・リーグで巨人以外初の3連覇を達成。昨季はCSファイナルステージで横浜DeNAに敗れ、日本シリーズ進出を逃した。ここ2年、短期決戦での脆さがチラついたものの、今季はプラス材料が多い。

 

 まずは“天敵”がいないということだ。昨季CSで煮え湯を飲まされたDeNA、今季直接対決で唯一負け越した(11勝14敗)中日は、いずれもBクラス。対戦する可能性のあるヤクルト(19勝6敗)、巨人(17勝7敗1分け)には大きく勝ち越している。

 

 レギュラーシーズンを振り返ると、強力打線が3連覇を牽引した。リーグトップの721得点は1試合5点以上を取る計算だ。チーム防御率が4点台でも打ち勝つことができた要因だろう。

 

 中でも不動の3番・丸佳浩、4番・鈴木誠也の存在感は一際目立った。丸は打率3割6厘(14位)、39本塁打(2位)、97打点(4位)、鈴木は打率3割2分(6位)、30本塁打(7位)、94打点(6位)と“赤ヘル打線”の中核として猛打を振るった。

 

 2人の後ろに控える打者も強力だ。プロ11年目で初の規定打席に到達した松山竜平は打率3割2厘(15位)、サビエル・バティスタは302打席ながら25本塁打(11位)をかっ飛ばした。キャッチャー併用制を敷きながら13本塁打を放った曾澤翼を8番に置く打線は、相手にとって脅威に違いない。

 

 一時は田中広輔、菊池涼介、丸を並べる“タナ・キク・マル”を解体したが、田中に代わって1番を任された野間峻祥が成長した。17盗塁(7位タイ)は田中の32盗塁に次ぐチーム2位。俊足を生かし、外野の一角を担った。レフト野間、センター丸、ライト鈴木の足も肩もある外野陣はリーグ随一の陣容である。

 

 そして今季の広島を後押しするのが“新井(貴浩)さんのために”の想いだ。新井は今季限りでの引退を表明しており、リーグ3連覇が決まった際には緒方孝市監督に続き、胴上げで宙を舞った。強打に加え、全力プレーでもチームを牽引した41歳の幕引きに、チームメイトたちは最高の花道を用意する。

 

“打倒・広島”に燃えるのが2位のヤクルトと3位の巨人だ。ヤクルトは分厚い打線が強みだ。打率10傑に4人。チーム打率、規定打席に到達した3割打者の数は、リーグトップである。MLB帰りの青木宣親は打率3割2分7厘(4位)、NPB初となる3度目のトリプルスリーを達成した山田哲人、131打点で初の打点王を獲得したウラディミール・バレンティンらが控える打線は広島に勝るとも劣らない。

 

 中でも青木、山田は今季巨人戦に滅法強かった。青木は打率3割8分7厘を誇り、山田は打率3割5分、5本塁打、18打点をマークした。その他にも雄平が打率3割7分5厘と相性が良い。巨人とのファーストステージで、本拠地・神宮球場が秋の“花火大会”となる可能性も十二分にある。

 

 巨人はリーグ1位のチーム防御率を誇る。エースの菅野智之が最多勝(15勝)、最優秀防御率(2.14)、最多奪三振(200奪三振)の投手3冠を達成。2年連続2度目の沢村賞受賞の可能性は高い。ただ菅野に続く先発がいないのが実状だ。チーム2位の9勝を挙げた山口俊は抑えに回った。

 

 打率3割9厘(12位)、33本塁打(6位)、100打点(2位)と今季大ブレークした岡本和真に加え、打率3割4分5厘(2位)の坂本勇人ら打線の奮起なくしては、次のステージへは進めないだろう。

 

◆パ/重量級打線のSBと西武。日本ハムは栗山マジックに期待

 

 西武は9月30日、マジック1で迎えた敵地での日本ハム戦を落としながら、2位・ソフトバンクの敗戦で優勝を決めた。西武にとっては2008年以来10年ぶり17回目、前身の西鉄時代を含めると22回目のリーグ優勝だ。さらに今年は所沢移転40周年。いずれもリーグ優勝を果たした10周年、20周年、30周年に続くメモリアルVとなった。

 

 開幕から一度も首位を譲らずパーフェクトウインを達成した今季の西武、アドバンテージは何と言っても"山賊打線"と称される強力な攻撃陣だ。

 

 リーグトップのチーム打率2割7分3厘、792得点で他球団を圧倒した。47本塁打をマークしホームラン王の山川穂高、127打点を叩き出した打点王・浅村栄斗を中心に、秋山翔吾(24本塁打、82打点)、中村剛也(28本塁打、74打点)と、強打者がズラリと並ぶ。加えて源田壮亮(34盗塁)、金子侑司(32盗塁)と、機動力も高い。強打だけでなく、塁上での揺さぶりも相手にとっては脅威だ。

 

 投手陣は16勝をあげ最多勝のタイトルを獲得した多和田真三郎と14勝の菊池雄星、左右の両輪が軸となる。これに阪神からトレードで移籍しキャリアハイの11勝をあげた榎田大樹、5勝の今井達也がCSの先発ローテを担うことになる。西武投手陣で不安要素はブルペンだ。開幕から中継ぎ、抑えが安定せず、シーズン中盤から抑えに配置転換されたファビオ・カスティーヨは右ヒジ検査のために渡米。再来日の見込みは立っていない。

 

 少々の失点は取り返すだけの爆発力を持つが、10年ぶりの日本一へブルペン陣が唯一の不安要素となる。

 

 西武に挑むのは2位・ソフトバンクか、それとも3位の日本ハムになるのか?

 ソフトバンクは西武同様に圧倒的な攻撃力が武器だ。チーム本塁打202本は西武を上回りリーグトップ。首位打者に輝き、ホームランはリーグ2位の36本を放った柳田悠岐を中心に、32本塁打の松田宣浩、29本塁打のアルフレド・デスパイネ、5年目でキャリアハイの22本塁打を放った上林誠知らが並ぶ打線は山賊・西武と比べても遜色ない。

 

 投手陣はシーズン途中から中継ぎに回った石川柊太からセーブ王・森唯斗への必勝リレーは盤石だ。西武と攻撃力が五分となれば、投手力で上回るソフトバンクが有利と見られている。

 

 昨季の5位からAクラスへ復活した日本ハムは、44盗塁で盗塁王となったリードオフマン西川遥輝がCSのキーマンとなる。西川の出塁からチャンスを作り、近藤健介、中田翔、ブランドン・レアードのクリーンアップがいかにホームへ迎え入れるか。ソフトバンク、西武のような圧倒的打力はないが、日本ハムの勝機は機動力を活かしたスモールベースボールにある。投手陣は上沢直之(11勝)、マルティネス(10勝)の両右腕が軸となり、リリーフの宮西尚生、石川直也らブルペン陣も安定している。Aクラストップの防御率3.78が示すような「守りの野球」ができれば下剋上も十分にあり得る。

 

 一昨年、広島を下して日本一に輝いた日本ハム・栗山英樹監督は、短期決戦に臨む心構えをこう語っていた。

「常に先手、先手。そして最善手を打っていきたい。駒を残して負けるのだけは絶対にしたくないんです」

 

 圧倒的打力が勝つのか、知力がそれを上回るのか。まずは黄金期西武を支えた工藤公康監督と平成の魔術師・栗山監督の対決を楽しみたい。

(文/SC編集部・杉浦、西崎)