柏レイソルのネルシーニョ監督はJリーグ屈指の知将だ。試合中の交代、戦術変更で苦境を打開する采配ぶりは、“ネルシーニョ・マジック”と評される。今季は、序盤こそ白星に恵まれなかったが、W杯中断前の順位は5位。首位とは勝ち点6差で、十分、射程圏内だ。日本で延べ11シーズンに渡って指揮を執る知将の采配論に、二宮清純が迫った。
二宮: ネルシーニョ監督は09年途中から柏の指揮を執り、J2(10年)、J1(11年)、天皇杯(12年)、ナビスコカップ(13年)とタイトルを獲得。勝負強さの秘訣は?
ネルシーニョ: 天皇杯とナビスコ杯の2つを例にとると、たとえばナビスコ杯では、ベスト8からチームが成長したました。ベスト8以降はサンフレッチェ広島、横浜F・マリノス、浦和レッズというJリーグでも上位のチームと対戦しました。強豪相手に勝ち進んでいく中で、浦和とのタイトルマッチを戦う時には、チームにしっかりと自信というものが根付いていました。ですから、決勝では1対0という厳しい試合をモノにできたと思います。

二宮: 天皇杯も大会中にチームが成長したことが優勝につながったと?
ネルシーニョ: そう感じます。準々決勝の大宮アルディージャ戦は、0対2とリードされて試合を折り返しました。それでも後半からチームの目が覚めて、生まれ変わったように逆転勝利。そこから上り調子でタイトルまで勝ち得た。本当に2大会とも、大会の中でチームとして成長したと思います。

二宮: Jリーグが誕生してから、非常に長い間、日本サッカーを指導してきました。この20年で、日本サッカーはどの程度成長したと思われますか?
ネルシーニョ: すべてにおいて大きく成長したと思いますが、技術面は特に目を見張ります。私が来日した94年の頃から比べても各選手のレベル、水準というのが今とは比べ物にならないくらい上がっています。また、有望な若手が多く出てきているというのも、育成年代からレベルの高い選手たちが育ってきている証拠だと思います。

二宮: ネルシーニョ監督の指導を受けた選手たちがよく言っていたのは、試合中にシステムが変わる時の説明が、非常にわかりやすいということ。選手にはどのように戦術変更を伝えるのでしょう。
ネルシーニョ: 試合ごとに変更する可能性があるところは練習でも必ず試して、選手たちに役割、変更点を踏まえながら伝えるようにしています。もちろん、1回でわかる場合と、そうでない場合がありますが、日本人選手は飲み込みが早いですし、何より実行するというマインドも非常に優れています。そういった意味で、私は日本人の優れたところに助けられていると思います。

二宮: 交代策や戦術変更で心掛けていることは?
ネルシーニョ: 私が選手を交代したり、システムを変えていく一番の目的はチームを良くするためです。やはり監督というのはそれぞれ頭の中にプランBが必要です。今、自分が見ている状況から、勝利へ近付いていくためにはどういう変化を入れればいいのか、というアイデアは常に準備しています。時には、その変更点が相手に劇的なダメージを与えることもあります。

二宮: つまり、試合中に最悪の状況を想定しておくわけですね。
ネルシーニョ: そうですね。試合までは相手を分析しながら準備を進めていきます。その中で相手チームの特徴、ストロングポイント、弱点も見ながら、自分がピッチの外から選手たちに何かアドバイス、プラスで働きかけられることがないかどうかをいつも準備しています。

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