22日、ベトナムで開催中の女子アジアカップ兼15年カナダW杯アジア最終予選で、なでしこジャパン(女子日本代表)が準決勝で女子中国代表を延長の末に2対1で下し、決勝進出を決めた。前半は日本がボールを支配し、中国はカウンターを狙う展開。しかし、両チームともに決め手を欠き、スコアレスで試合を折り返した。後半も主導権を握った日本は6分、MF澤穂希のゴールで先制した。だが、35分、DFリー・ドンニャのPK弾で追いつかれ、延長戦へ。迎えた延長、日本は中国に押し込まれたものの、GK福元美穂を中心に耐え凌ぐ。なかなかスコアが動かず、PK戦に突入するかに思われたが、延長後半アディショナルタイムにDF岩清水梓が決勝点。日本が劇的勝利で5大会ぶりの決勝進出を果たした。

 岩清水、値千金の決勝ヘディング弾!(ホーチミン)
女子日本代表 2−1 女子中国代表
【得点】
[日本] 澤穂希(51分)、岩清水梓(120分+4)
[中国] リー・ドンニャ(80分)
「なでしこの粘り勝ち」
 佐々木則夫監督は笑顔を浮かべてこう述べた。9日間で4試合目、気温30度以上、高い湿度、そして延長戦――。死闘と呼ぶにふさわしい一戦を制した。

 指揮官が「厳しい戦いを経験している選手を起用した」というスタメンには、澤、MF川澄奈穂美、MF宮間あや、MF阪口夢穂、岩清水ら11年W杯、ロンドン五輪で主力だった選手が名を連ねた。そんな百戦錬磨の面々を揃えたなでしこが、序盤から主導権を握った。攻撃では選手が連動してパスコースをつくり、高いボールポゼッションを実現。しかし、決め手を欠いてゴールは奪うには至らない。

 守備面では前線から積極的にプレスをかけ、中国にかたちをつくらせなかった。中盤以降は中国にカウンターからシュートまで持ち込まれる場面も見受けられたが、守備陣が体を寄せてフリーでシュートは打たせなかった。

 試合が動いたのは0対0のまま迎えた後半5分、日本に待望の先制点が生まれた。決めたの背番号10・澤。左CKを宮間がニアサイドへ蹴ったボールに、飛び込みながらヘディングでゴールに流し込んだ。12年7月以来、約2年ぶりの代表ゴールに、澤は大きくガッツポーズ。チームメイトも駆け寄り、背番号10を祝福した。

 先制後、勢いを増したなでしこは、細かいパスワークから追加点を狙った。しかし、シュートに持ち込むものの、フィニッシュの精度を欠いて、リードを広げられない。

 すると、34分、MFワン・シャンシャンに左サイドから上げられたクロスが、PA内でMF中島依美の手に当たり、PKの判定。GK福元は右へ飛んだが、リー・ドンニャに逆を突かれて同点弾を許した。

 勝てば決勝も中2日で迎えるため、疲労を考えれば90分で決着をつけたいなでしこ。佐々木監督は39分に澤からFW吉良知夏、43分には中島に代えてMF木龍七瀬を投入し、攻撃の活性化を図った。だが、高温多湿の環境下で、全体の運動量低下は否めず、決定機を作れないまま延長戦へ突入した。

 終始、主導権を握っていた日本だが、延長は一転して中国の攻勢に押し込まれた。延長前半6分、PA内右サイド深くでワン・シャンシャンにボールを奪われ、シュートを打たれたが、福元がファインセーブ。15分には、PA内に入れられたロングボールが、DF有吉佐織に当たってゴール右へ。コースが変わったボールに反応した福元はピッチに足をとられたが、何とか腕を伸ばして弾き出した。守護神の活躍もあり、日本は延長前半の劣勢を凌いだ。

 延長後半5分、佐々木監督は途中出場で試合の流れに乗れていなかった木龍を下げ、FW菅澤優衣香をピッチへ送り出した。前線で体を張れる菅澤を投入し、少しでも攻撃を活性化させる意図がうかがえた。しかし、ゴールが生まれないまま、時間だけ過ぎ、アディショナルタイムに入った。掲示されたアディショナルタイム2分を経過した後、菅澤がPA内でボールを受け、胸トラップから右足ボレーを放つ。だが、中国GKに好守に防がれ、ゴールラインを割った。日本の左CKだが、その前にPK戦突入のホイッスルが吹かれてもおかしくなかった。しかし、主審は延長後半終了のホイッスルを吹かない。アディショナルタイムに入った後も、DFリー・ジアユエが2枚目の警告で退場するなど時間がかかっていたためだ。

 限りなくラストチャンスに近いCK。「120分以内に決着をつけるつもりでいた」という宮間が蹴ったボールは、ゴール前の岩清水の頭にピタリと合った。岩清水が渾身の力で放ったヘディングシュートは、ゴールライン上に立っていた中国DFの横を抜けてゴールネットを揺らした。勝利をほぼ手中に収める劇的弾に、日本ベンチは大喜び。ピッチ上では岩清水がチームメイトにもみくちゃにされていた。その後、中国が再開のキックオフをした瞬間に、試合終了のホイッスル。日本が120分間の死闘を制した。

「最後まで、選手たちがよく走ってくれた」
 佐々木監督は過酷な状況下で、勝ち切った選手たちに賛辞を惜しまなかった。先制点を決めた澤、2アシストの宮間、そして殊勲の岩清水。指揮官が「厳しい戦いを経験している」と信頼する選手がしっかりと仕事をした。中でも35歳の澤は後半終盤まで精力的に動きまわり、チームを攻守で支え、まだまだ第一線で活躍できることを証明してみせた。

 21年間、代表でプレーし続けている澤だが、アジア杯のタイトルはまだ獲得できていない。過去2度、決勝に進出したが、いずれも準優勝に終わった。
「得点というかたちで結果を残せたが、中盤の組み立てにあまり絡めなかったのが課題。あと1試合、頂点に向けて、(決勝までの)残り2日で、いい準備をしたい」
 澤は決勝に向けてこう意気込んだ。ラスト1試合、“世界の澤”がアジア制覇に全力を注ぐ。