第98回 わからないから面白い! 渋谷「パラ草の会」
パラスポーツを応援する草の根運動の会、通称・パラ草の会。この会は東京パラリンピックを盛り上げるだけでなく、地域社会への貢献を通じて、共生社会の実現を目指しています。代表を務める髙橋千善さんは、生まれも育ちも東京都渋谷区、三代続く地元企業の社長です。
髙橋さんは2020年に東京オリンピック・パラリンピックがやって来ることを受けて、「パラリンピックを応援しよう」と思い立ち、「パラリンピックを応援する勝手連」を立ち上げました(のちに勝手連から草の根運動の会に変更)。ところが、オリンピック・パラリンピック大会組織委員会のブランドプロテクションに抵触するため、「パラリンピック」という名称は使ってはいけないということが分かりました。さらに会員が集まらないことも悩みでした。
会の趣旨を説明すると「いいねえ」と多くの人は言うものの入会してくれず、会員が集まりません。会の活動はほぼ暗礁に乗り上げ、髙橋さんは「もう会は解散してしまおうかな」と、以前勤めていた会社の後輩に相談しました。その会社でオリンピック・パラリンピック担当をしていた人物です。
そこで会の解散を相談するうちに、髙橋さんが「パラリンピックを応援するだけでなく、パラスポーツで渋谷を共生社会にすることに目的を変えればその方が幅も広がるし、2020年以降も活動を継続できるんじゃないか」と言うと、「先輩、いいじゃないですか! やりましょう」と。そして、その後輩に「じゃあ、手伝ってくれ」と頼んでいたのです。会を解散する相談のはずが、「パラ草の会」として活動が続くことになりました。髙橋さんいわく、まさにケガの功名です。
数カ月後、発起人会には約200名が集まり、私も参加しました。髙橋さんから「伊藤さんにぴったりだから。来てね」と。そうこうしているうちにあれよあれよと、パラ草の会の「スペシャルサポーター」を仰せつかることになりました。
「何か盛り上がるイベントをしようよ」との髙橋さんの鶴の一声でイベントの開催が決定し、その実行委員も拝命しました。なぜ巻き込まれたのか、陸上のパラリンピアン・花岡伸和さんも実行委員に名を連ねていました。これは心強い、と嬉しくなりました。
最初のミーティングでは、話はあっちにこっちに広がりました。「そういえば、このイベント、まだ目的を決めてないけどどうする?」「今日のところはなしでいいんじゃない?」「そうだね。目的を決めるとアイディアが広がらないからね。目的はまた後で決めよう」。髙橋さんは「いいねえ。それでいこう!」と。
その後、何度か会を重ね、イベントの名称は「渋谷運動会」と決まりました。大会名にパラスポーツという言葉は入っていません。特に、「パラスポーツ」、「障がいのある人」を意識するのではなく、いろいろな人がいて、誰でも参加してもらう運動会にしようという主旨です。
「ちがいをちからに変える街」という渋谷のスローガンにもぴったりです! もちろん、パラスポーツもやります。そして運動会ですから、体験だけでなく、対戦します。組に分かれて、応援合戦もやります。
このイベントは、2020年限りではなくその後に様々な仕組みを内在させようとしています。例えば、日常的に運動会に向けて練習会を開くためにも対戦という要素は重要です。そして、なんと2024年には渋谷運動会のパリ大会、2028年にはロス大会を計画しています。どのように実現するかはこれからです。なんとかなるでしょう。
髙橋さんはこうおっしゃっています。
「当初は、渋谷区のパラリンピック会場を満員にしたい、という思いから始めたのですが、2020年大会の成功だけが目的ではなくなりました。会の活動が渋谷の街を活性化し、さらに成熟していく手助けになればいいと考えています。地域貢献になれば嬉しいし、それが共生社会実現へと近づく大きな一歩になれば、なお嬉しいですね」
渋谷運動会は来年3月3日に開催が決定しました。この話は次回以降に続きます。どうなるのかわからない。私自身も楽しみなのです。
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>