昨年は2020東京オリンピック・パラリンピックやラグビーW杯のボランティア募集があり、ボランティアへの関心が高まった1年でした。私たちも体験会やイベントなどいろいろな場面でボランティアの方にお世話になりました。

 

 ボランティアに参加する人はそれぞれ動機が異なります。「社会貢献したい」「何かの役に立ちたい」「自己探求したい」「自分を見つめたい」「未知の分野に触れたい」「ネットワークを広げたい」「今後のキャリアパスとして」「頼まれたから」「ヒマだから」など様々です。また住んでいる地域や属している組織も異なり、それぞれ常識や流儀も違います。ボランティアの現場では、そんな人たちがチームをつくって目標を掲げ、力を出し合うことが求められるのです。

 

 現場でお目にかかるボランティアの方々は献身的で熱心な方が多く、ご一緒するたびに胸が熱くなったり、頭が下がる思いでいます。しかし、「もったいないな」と感じる場面も散見されるのです。それは多くの人が担当として業務を果たす、任務を全うすることに力を尽くしていることです。それのどこがもったいないことなのか? いえいえ、もったいないの極みなのです。

 

 そうなるのは、ボランティア同士が会場で当日、顔を合わせたばかりの初対面でお互いに遠慮していることも影響しているかもしれません。また、当日の時間の中で、単純な業務を担当する場合もあるからかもしれません。

 

 では、なぜ私がボランティアの人たちについて「もったいない」と感じるかといえば、ボランティアの人たちは、イベント(大会や催しなど何でも)全体の雰囲気を創り出し、成功へと導けるポジションにいるからです。だからもったいないのです。

 

 例えばあるイベントの目標が「参加者に楽しかったと思ってもらうこと」だとすると、まずは参加者に心を開いてもらって、スポンジのような状態になっていただくことが重要です。その状態で参加するからこそ、楽しい気持ちになるからです。その実現のためにはボランティアが参加者に声をかけコミュニケーションをとり、気持ちを開放してもらうのです。では、具体的にどうするのか?

 

 例えば受付。来場者が受付のデスクに来てから挨拶するのではなく、遠くに姿が見えたら、手を振って、「こちらが受付で~す」と声をかけるのです。そうすると来場者は「あっ、私、歓迎されている!」と嬉しくなり、吸収の準備が整います。

 

 また会場の誘導役。これも目の前に来て質問されてから答えるのではなく、遠くに見えている人に「どちらをお探しですか?」「何々の会場はこちらです」と聞かれる前に案内します。すると「あっ、私を待ってくれているんだわ」と嬉しくなり心がスポンジのように、たくさん吸収できる状態になります。

 

 また体験型イベントでコートの球拾いを任された場合。転がってきた球を拾ってコートに投げ入れるだけではなく、球を拾ったらコートの人たちに向かって、「ボール欲しい人~?」と呼び掛けてみる。大抵、コートの中からは「欲しい、欲しい!」と全員から大きな声が上がります。心が開かれるのです。 

 

 つい先日のイベントの朝礼では実際に目標を設定。目標=「楽しかったと言ってもらおう」と決めました。そのためにはまず心を開いてもらうことが大切。そこで先述した3つのことを実践しよう、となりました。私たちボランティアのこの行動が「楽しい」につながると認識を統一しました。「全体の雰囲気づくりはわたしたちボランティアの力でできる」という確信が芽生えていました。

 

 さて、イベント終了後のミーティングでは、「うまくいったね」という言葉が出ていました。目標が設定され、具体的な行動ができ、そして来場者が「楽しかった」と言ってくれたのです。成功です。「担当業務を果たす」以外のボランティア活動をした、との感想もありました。「笑顔のお客さんを見送るのはボランティア冥利に尽きる」という声も。最後は全員でハイタッチをして解散しました。お客さまのあとに、ボランティアの皆さんをお見送りして、「きっと次も元気いっぱいの顔を見せてくれる」と確信しました。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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