第101回 もう少しすれば社会を変える中高生

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 都内の高校で1年生の授業を担当する機会をいただきました。「人間と社会」という時間です。これは平成28年度から始まったもので、<人間としての在り方生き方に関する教科>(東京都教育庁ウェブサイトより)とのこと。目標は<道徳性を養い、判断基準(価値観)を高めることで、社会的現実に照らし、よりよい生き方を主体的に選択し行動する力を育成する>(同)ことです。


 私が赴いた学校ではこの授業をキャリア教育として捉え、「働くことは、やりがいや生きがいなど新たな価値観を見出す機会となる」としています。

 

 さて授業で私は、NPOを設立して働いてきたことをありのままに話しました。話終えて、生徒たちからの質問タイム。一番多かった質問は「なぜパラスポーツに関わったのですか?」というものでした。

 

 以前、このコラムにも書きましたが、もう一度紹介します。

 

 初めて電動車いすサッカーのインターネット生中継をしたとき、試合会場で「おまえら、障がい者をさらし者にしてどうするつもりだ」と言われました。調べると「さらし者」とは、「人前で恥をかかされた者」とありました。障がいのある人を「さらし者」と呼んでしまうことに大きな違和感を抱き、そんな社会に課題があると感じました。「その社会を少しでも変えられたら……」との想いで事業を始めました。これまでにない新しい、自分たちのやり方で進めてみよう、と。これがパラスポーツに関わるようになったきっかけです。

 

 他にも高校生からはいろいろな質問が出ました。「新しいことを始めるのに反対の声はありましたか?」という質問に「ありました」と答えると、教室中から「エーッ」と声が上がりました。反対があったのに始めたことへの驚きでした。そこで、「反対の声はありましたが、それがエネルギーになりました」と加えました。他には「起業してそれを続けるのに大切なことは」と聞かれ「諦めないこと」とも答えました。

 

 数多くの質問を受けて、授業の最後に生徒たちに「今日の話で高校生活に活かせること」と挙げてあげてもらいました。そこには以下のようなものがありました。
「他者を思いやる」「相手の気持ちになる」「コツコツやる」「宇宙レベルで考える」「大きく出る」「挨拶で前に出る」。これには本当に驚きました。私はパラスポーツのことをたくさん話したつもりでしたが、彼らの挙げたものの中に、パラスポーツや障がいのある人に関することはごくわずかでした。しかも私が授業では使っていない言葉がたくさん並んだのです。

 

 たとえば「宇宙レベルで考える」は、前述した「反対の声がエネルギーになった」というものから出たとのこと。そこから「宇宙」という言葉につながるとは、なんとも瑞々しい。聞き取った言葉やストーリーから、独自の世界観を創る力が高校生には大いにある、という思いを強くした1日でした。

 

 さて、これはまた別の日の出来事です。先日、クエストカップ(主催・教育と探求社 www.questcup.jp/2019/)というイベントに行きました。これは実在する企業から出されたミッションに対して、全国の中学生・高校生がグループで探求し、事業案をプレゼンテーションするものです。学校の授業で1年かけて取り組み、2月23日に全国2万5000人から選ばれた8組で決勝戦が行われました。ここでは中学生も高校生も同じ土俵で勝負していました。しばらくしてはっとしました。中高生の間に差がないのです。課題を見つけて探究し、解決する事業アイディアを出す力に関して年齢は関係ありませんでした。私は思いました。中学生と高校生に差がないように、彼らは私たち大人とも差がないのでしょう。年齢を重ねたことで経験したことにわずかな違いがあるくらいです。これまでの「大人はわかっていて、子供はわからない」という先入観はまったく間違いだったことに改めて気付かされました。

 

 パラスポーツの発展やユニバーサル社会の実現も、今の中学生や高校生が原動力なのだと確信しました。(あくまで一般的に)頭の固い大人に対して10回説明をしていると、その間に時間はどんどん経ってしまいます。それよりも子どもたちに向けて1回活動したら、もっと早く社会が変わるのではないでしょうか。10年経てば子どもも大人になり、社会を動かす立場になります。大人になった「子どもたち」が社会を変えるのは、ほんのすぐ先の未来のことです。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。
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