ブラジル北東の都市、ナタールは?太陽の町?と呼ばれているそうだ。
 昼間、あれほど晴れていたのに、試合が始まるや否や、雨が降り注いだ。日本とギリシャのグループリーグ第2戦は、ギリシャが1人退場して10人になったにもかかわらず、ザックジャパンは再三のチャンスを活かせず、勝たなくてはならない試合でスコアレスドローに終わった。

 多くの日本人サポーターが詰めかけ、彼らの大きな声援がアレーナ・ダス・ドゥーナスにこだましていた。雨に打たれながらも、日本の勝利を信じてブルーのビニール袋を振り回し応援していた。プレス席から眺めても、その光景は、とてもインパクトがあったように思う。

 そして試合後の日本人サポーターの姿が、世界から称賛を受けている。
 応援で使ったビニール袋は試合が終わると、ゴミ袋に変わる。サポーター有志で客席のゴミ拾いをしてから、スタジアムを出るというのだ。レシフェでのコートジボワール戦後、世界のメディアがこのことを報じ、地元ブラジルばかりでなく、欧州や中国、韓国のメディアも取り扱っているという。

 海外では結果に怒ったサポーターがモノを投げ込んだり、暴動を起こしたりというのはよくある話。特にブラジルではサポーター同士の衝突も多く、5月にはなんと便器が投げ込まれて死者が出る事件が発生している。応援するチームが負けても、逆にゴミを拾ってきれいにするという行動が、他国の、特にサッカー王国のメディアにはとても新鮮に映ったようだ。

 ギリシャ戦の後は取材があったためにその光景を目にすることはできなかったが、コートジボワール戦と同様に、雨のなか、日本人サポーターによるゴミ拾いが再び行われたという。
 
 サポーターが味わうW杯。
 4年前の南アフリカW杯では鳴り物のブブゼラが大流行した。スタジアムで試合を見ていても、あちこちで鳴らされて耳が痛くなったほどだった。

 ブラジルではそういったグッズが売れているとは聞いていない。だが、スタジアムに目を向けると、ビニール袋を回すなど各国サポーターのアイデアを見ることができて興味深い。国旗のカラーを体にペイントしたり、“仮装”も大会ごとにヒートアップしている。忍者に殿様ルックと、日本人サポーターも負けてはいない。ナタールからサンパウロに飛行機で戻ってきたときには、仮装したコスタリカのサポーターと出会ったが、そのままの格好でレシフェ行きの飛行機に乗り込んでいた。

 しかし、サッカー王国の雰囲気でたまらないのは、いいサッカーをしているときのあの大きな拍手の後押しだ。
 昨年のコンフェデレーションズカップ、イタリア戦では日本のスピーディーなパスサッカーを讃えるように、日本がボールを持つと大きな手拍子がスタジアムに鳴り響いた。サッカーにうるさい本場のファンから多少なりとも認められたような感覚を持つことができた。筆者はあのときの感動を、今回のW杯でも聞きたいと思ってきた。

 だが、コートジボワール戦でもギリシャ戦でも、そういう手拍子が聞こえてはこなかった。カナリア色のブラジルのユニホームを着たサッカーファンを、スタジアムでも多く目にすることができる。だが、手拍子がないということは、本場のファンの心を、今のザックジャパンがつかんでいないとも言えるだろう。

 日本のサポーターに、スタジアムに鳴り響くあの手拍子を、あの雰囲気をぜひ味わってもらいたい。
 グループリーグ最終戦のコロンビア戦。世界に讃えられるサポーターを喜ばせるためにも、このままで終わっていいわけがない。

(このレポートは不定期で更新します)

二宮寿朗(にのみや・としお)
 1972年愛媛県生まれ。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。格闘技、ボクシング、ラグビー、サッカーなどを担当し、サッカーでは日本代表の試合を数多く取材。06年に退社し「スポーツグラフィック・ナンバー」編集部を経て独立。著書には『岡田武史というリーダー 理想を説き、現実を戦う超マネジメント』(ベスト新書)、『闘争人〜松田直樹物語』、『松田直樹を忘れない。〜闘争人II 永遠の章〜』(ともに三栄書房)、『サッカー日本代表 勝つ準備』(実業之日本社、北条聡氏との共著)がある。『Sportsプレミア』で「FOOTBALL STANDARD」、携帯サイト『二宮清純.com』スマホサイト『ニノスポ』にて「日本代表特捜レポート」を好評連載中。