プロレス少年に戻った日

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(写真:憧れのスーパースター、ミル・マスカラス選手<右>)

「すげえ! この空間にいられたことを神様に感謝したい」

 2019年2月19日、スカイハイの曲に乗ってマスカラスブラザーズがリングに登場したのを見て、僕は興奮が抑えられなくなった。「千の顔を持つ男」ミル・マスカラス選手は、マスクマンの象徴であり、僕が小学生の頃に憧れたスーパースターだ。76歳になった現在もそのオーラは健在であった。

 

「あのマスク、ガチで欲しかったな」

 入場時に被ってくるオーバーマスクを観客に投げ入れるパフォーマンスがまたファン心をくすぐるのである。何をやっても華があり、本当にカッコイイ!

 

 この日は、ジャイアント馬場没後20年のメモリアル大会ということで、ドス・カラス選手との兄弟タッグが実現した。

 

 小学生の頃にテレビにかじりついてプロレス中継で観ていたカードである。

 46歳の今、生観戦できるなんて……これはもう奇跡としか言いようがない。

「試合中は、瞬き禁止で目に焼き付けよう」

 僕は完全にプロレス少年に戻っていた。

 

 さて、失礼ながらご高齢のマスカラス選手が、実際にどこまで動けるのか両国国技館に集まったファンの皆さんも正直心配な目を向けていたことだろう。

 

(写真:試合には出場しなかったものの、スタン・ハンセン<左>も来場)

 第一試合に行われたバトルロイヤルでもキム・ドク選手やジョー・ディートン選手、百田光雄選手など年配のレジェンドレスラーが出場していたが、技を繰り出すというより存在そのものが武器だった。

 

 僕もこの試合に出場したのだが、容易に触れさせないある種のバリアのようなものを感じた。

 キャリアを積み重ねたレスラーの凄みは対峙してみないとわからないところがあるのだ。

 ちなみに僕のリングでの唯一の見せ場は、カッキーカッターからの腕ひしぎ逆十字固めだった。

 

 しかし、バトルロイヤルで関節技はタブー。何人もの選手に上に乗られてカウントを取られ、退場させられてしまった。王道マットでUWF魂を魅せようと力み過ぎたのが良くなかったのかもしれない。しかし、歴史的なイベントに自分も名を連ねられたことは誇りである。

 

 マスカラス選手の試合の話に戻るが、序盤から弟のドス・カラス選手がルチャ・リブレの世界に見事に観客を引き込んでいった。こうなったら、僕たちは彼らの手の上で転がされるだけだ。

「よっしゃ~、ダブルクロスチョップ」

 マスカラスブラザーズの連係技が見事に決まり、会場は大盛り上がり。

 この試合のハイライトシーンは、何と言ってもマスカラス選手がコーナー最上段から決行したプランチャー(写真)だろう。

 

「すげえ! 飛んじゃったよ」

 ひ孫がいてもおかしくない年齢で、あの高さから飛ぶなんて超人……いや鳥人である。

 ここまでの激しいムーブを求めていなかったが、歳を取っても世界のマスカラスは格が違うということを見せつけられた。本当にスゴイ!

 

 今大会は、馬場さんの追善興行、そしてブッチャー氏の引退セレモニーということで、マスカラス選手だけでなく、往年の名レスラーがリングに集結した。

 

 馬場さんのライバルであったアントニオ猪木さんをはじめ、ドリーファンクJr氏や初代タイガーマスクの佐山サトル氏、坂口征二氏、武藤敬司選手、馳浩氏、スタン・ハンセン氏と恐ろしいまでの豪華なメンバーであった。

 

 滅多にお目にかかれないレジェンドたちと控え室にて、プロレス少年そのままに記念写真に精を出したのだが、スタン・ハンセン氏からは思いもよらないメッセージをいただいた。

 

 下記の言葉をなんと50センチの距離で、僕の目を見ながら、ゆっくりとわかるように伝えてくれたのである。これ以上のエールはあるだろうか?

 僕はプロレスラーになったことをこの日ほど幸運に思ったことはない。

 

“Whatever it is, the mentally strong survive and overcome the disease. When you loose the mental edge and will, you won't survive no matter what it is.”

 大した事のない病気でも心の弱い人は駄目になるし、酷い病気の人でもメンタルの強い人は必ず回復する。

 

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)

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