(写真:右から白寿・原副社長、鈴木康友氏、師岡正雄氏、編集長・二宮清純。二宮が進行役を努めた)

二宮清純: 「白球徒然 ~HAKUJUベースボールスペース~」は連載開始から3年が経ちました。ひとえに皆様のご愛読のおかげと感謝しております。今回はシーズンオフ恒例のスペシャルトークです。白寿生科学研究所副社長・原浩之さん、選手・コーチとして日本一に7度輝いた鈴木康友さん、そしてニッポン放送ショウアップナイターの名実況で鳴らした現フリーアナウンサーの師岡正雄さんにお集まりいただきました。みなさんよろしくお願いします。


一同: よろしくお願いします。

 

 ミスターと握手

二宮: 1959年7月生まれの康友さん、60年2月生まれの師岡さんと私は同学年です。高校生のとき、ドラフトのニュースで康友さんが長嶋茂雄さんと握手する写真を見て、「同い年なのに、すごいなあ」と驚いたもんです。

 

(写真:巨人、西武、中日などで活躍。選手、コーチとして7度の日本一に輝いた康友氏)

鈴木康友: あのドラフトのとき、私は早大進学が内定していて他球団は指名を見送る中、巨人が5位で指名しました。それで長嶋さんが直接、奈良に挨拶に来られたんですよ。

 

二宮: 有名な「康友は僕の弟のようなものだ」というセリフがあったときですね。康友さんは天理高(奈良)で甲子園に4度出場した大型ショートですから、そりゃあ大学進学よりも「ぜひ巨人に」と言うミスターの気持ちもわかります。

 

師岡正雄: ミスターと握手した、いや会ったことがある人なんて当然、周りの同級生にはいませんからね。

 

原浩之: 康友さんが指名された78年のドラフトというと、巨人は山倉和博さんが1位でしたね。

 

二宮: さすが、原さん! 71年生まれのヤング(笑)とは思えないくらいに記憶がマニアックです。

 

二宮: さて、康友さんは現役時代は巨人、西武、中日、そして再び西武。引退後は古巣の他、オリックス、東北楽天、福岡ソフトバンクでコーチを務めました。さらにBCリーグや四国アイランドリーグplusでもコーチや監督経験があります。

 

鈴木: セ・リーグ、パ・リーグ、イースタンリーグ、ウエスタンリーグ。さらに独立リーグのBCと四国。全部で優勝しているんですよ。

 

(写真:元ニッポン放送、現在はフリーアナウンサーとして活躍する師岡氏。96年には二宮と組み、メジャーリーグ実況も行った)

師岡: おお、まさに優勝請負人ですね。多くの監督に仕えた康友さんから見て、今季の両リーグの監督をどう見ていますか。一時は「捕手出身監督こそ名将」という定説がありましたが……。

 

原: 今季、捕手出身は阪神の矢野燿大監督だけですよね。

 

鈴木: 監督がどのポジション出身かを見れば、そのチームの野球がある程度わかりますね。

 

二宮: 野村克也さんは「外野手出身に名監督はいない」と言っています。山本浩二さんはそれを聞いて「ノムさん、そりゃないですよ」と怒っていましたけどね(笑)。

 

鈴木: 野村さんの言うこともよくわかります。外野は守備の間はあまり考えないでいいんです。サインプレーもあまりしないですから、打つことさえしっかりすればいい。逆に言えば打たなアカンということです。

 

原: 去年、この座談会のゲストに高木豊さんが来ていただきましたが、晩年、レフトにコンバートされたときは「寂しくてしょうがない」って言ってましたよね。内野と外野ではフィールド内の時間の密度が違うんでしょう。

 

二宮: さて、話を戻しましょう。監督の現役時代のポジションでそのチームの野球がある程度わかる、と?

 

鈴木: やはりピッチャー出身の監督は投手起用がうまい。競争をさせたり、あるときは先発を抑えで使ったりとかもできる。藤田元司さんや東尾修さんがそうですよね。でも、攻撃で「この1点をどうやってとるのか」というとき、バントなのか、エンドランなのか。それが投手出身監督には、なかなか分からない。

 

師岡: そのためにもヘッドコーチが重要になってくる、と。

 

鈴木: そうです。ヘッドなり作戦コーチに野手出身の人を据えるのが一番バランスがいいんです。キャッチャー出身の監督は、こんなことを言うと怒られますが、長いこと正捕手をやっていると1球、1球だますことを考えていますから、やっぱり姑息になっていくんです。

 

(写真:白寿生科学研究所の原副社長。球団へのスポンサードの他、元選手のセカンドキャリアも支援する)

原: なんかある人の顔が、こう浮かんできますけど(笑)。

 

鈴木: 野村さんにしても、森祇晶さんにしても人間的にはいい人ですが、こと野球となると「そんなことまで!」という手を使ってくる。あれはキャッチャーの職業病のようなもんでしょうね。

 

 

 

 選手移籍で情報も移動

 

二宮: 内野手出身の監督はどうでしょう。二遊間とサード、ファーストではまた違ってきそうですね。

 

鈴木: おっしゃるとおりです。内野でも二遊間出身の人は緻密な野球をします。そしてファーストやサード出身は華のある野球というか、ハデな野球を好む印象ですね。巨人なら長島さんや原辰徳さんがそうでしょう。

 

原: なるほど。それを伺うとなんとなく今季の各チームの野球というものが見えてきましたね。

 

二宮: 師岡さんはアナウンサー、マスコミという立場で野球を見ていらっしゃいます。取材現場での一番の思い出は?

 

原: この人は取材しにくいなぁ、なんて方もいたのでは?

 

師岡: マスコミ対応が得手不得手はあるでしょうが、特にマスコミ嫌いという方はあまりいませんでしたね。私が取材で一番印象に残っているのが、去年、浦添の東京ヤクルトのキャンプ取材に行ったときのことです。一昨年までと雰囲気がガラリと変わっていてびっくりしました。

 

二宮: 去年から小川淳司さんが監督になった。その影響ですかね。

 

師岡: 監督もそうですが、広島から石井琢朗さんが打撃コーチで来た。それで広

島式の練習を取り入れて、雰囲気がガラリと変わったんです。

 

原: 何を変えたんでしょうか?

 

師岡: 午後2時くらいからバッティング練習が組まれていて、それがケージ2カ所を設置の他、5カ所くらい使って様々なバッティング練習をするんですよ。普通は午後になると室内で打撃練習ですけど、グラウンド全面でやる。

 

鈴木: それは活気が出るでしょうね。

 

師岡: そうなんですよ。それでグラウンドに活気が満ちるのと同時に、琢朗コーチは「2+3は?」と言いながらトスを上げてました。

 

二宮: 計算をしながらですか?

 

師岡: そうなんですよ。瞬時に計算させてそれでボールを打つという、非常にユニークな練習を取り入れていたのが印象的でしたね。

 

原: 脳の違う部分を使って、活性化させる狙いがあるんじゃないでしょうか。弊社はクラシックホールの「ハクジュホール」も運営していて、そこで演奏したピアニストに聞いたことがあります。

 

一同: なんでしょう?

原: 曲間に喋りを入れて、それで曲に入るときに、スムーズに曲に入れる人と、挨拶くらいの短い喋りじゃないとうまく入れない人がいました。脳の機能として弾くときに使う部分と喋るときに使う部分が違うからなんでしょうね。

 

師岡: 琢朗さんも"脳トレ"の狙いがあったんでしょうねえ。いやあ、ユニークだなあ。

 

二宮: ところでヤクルトには宮本慎也ヘッドコーチがいて、石井琢朗コーチとは同じ内野手出身で、巧打堅守と同タイプです。

 

原: 70年生まれで同学年ですね。

 

二宮: 年齢も同じとなれば、コーチとしてライバル意識が生まれてギクシャクするなんてことはないのでしょうか?

 

鈴木: その点は大丈夫でしょう。宮本はやはり守備の人であり、琢朗はそれよりも打つ方に重きを置いている。いいコンビネーションだと思います。

 

二宮: 琢朗効果という意味では、ヤクルトに移ったときに小川監督がウラジミール・バレンティン選手を切ろうしていたのを「バレンティンはいるだけで怖いから」と、彼の残留を琢朗コーチが進言したそうです。こういうのは戦っていた相手じゃないとわからない情報ですが、巨人にFA移籍した丸佳浩選手、その人的補償で広島に行った長野久義選手、彼らからそういう"ナマの情報"がチームにもたらされるんでしょうね。

 

鈴木: それは伝わりますよ。しかもスコアラーが見た情報とは違う、本当に生きている情報が。だから広島と巨人の今季の戦いは、そういう面でも楽しみですね。

 

原: そういえば、以前、細川亨捕手が埼玉西武から福岡ソフトバンクにFA移籍したとき、チームの対戦成績がそれこそ前年と正反対にひっくり返ったことがありました。細川捕手は今年は東北楽天から千葉ロッテへ移籍したので、そのあたりの勢力図も変わりそうで楽しみですね。

 

二宮: そういえば原さんは、熱心なプロ野球ウォッチャーですが、そのきっかけが原辰徳さんだったと聞いています。

 

原: 原監督は発言がいちいち見出しになる、その言葉力が「さすが」だと思っています。たとえばキャンプイン初日には「僕も新戦力です」と言って、それがそのまま新聞に載る。師岡さん、マスコミの人としてもああいう監督は助かるんじゃないですか。

 

師岡: 取材をしていて、本当に助かりますね。キャッチーな使えるコメントを発してくれるので、原監督がまた現場に帰ってきて楽しみですよ。

 

二宮: さて、お話は尽きませんが、今季の予想を含めた野球談義はまだまだ続きます。このつづきは後編にて。

(つづく)


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